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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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72/82

前期評価試験2

 一瞬にして距離を詰めてきたミューナスのよこぎを、上体をらして空振りさせる。即座に起き上がっていると、遠心力を利用して体を回転させ、威力をそのまま乗せたハルバードが降り掛かってくる。剣先を地面に向け、自分側の刀身の側面に左腕を添わせ、もう一方の側面にハルバードの刃を滑らせて地面をえぐらせる。


 そのまま反撃してミューナスを退場させたかったのだが、やはり二人相手だとそうも行かない。先程と同じく接近していたイレディルの攻撃を躱す必要が生じ、ミューナスから距離を取らざるを得なくなる。


 イレディルの攻撃をさばきつつ、隙を見て反撃を入れてみるが、やはり全身を覆い隠さんとする大盾を抜くことが出来ず、ステップで背後に回ってもすぐに対応されてしまう。


 気付くと、ボクはイレディルとミューナスに挟まれていた。前方にはイレディル、後方にはミューナスが武器を構えて立っている。どちらを狙ったとしても、背後を取られてしまう以上ボクは退場をなくされるだろう。だが、それはあくまで、剣士であればの話だ。


 ボクは左足で地面を思いっ切り蹴り、大きく引いた剣をイレディルへ突き出す。予想通り、背後でミューナスが距離を縮める。剣先が盾へ触れる直前、ボクは急ブレーキを掛けて、後ろに向けた左手から、ノールックでバスケットボール大の火球を放つ。勢い付いていたミューナスだったが、さすが歴戦の戦士と言うべきか、体勢こそ崩したがその火球を回避する。


 後ろの脅威は一時的に無くなったが、今度は正面頭上から剣が振り下ろされる。持ち上げた剣で受け止め、左へ勢いよくズラすことでつばに向こうの剣を引っ掛けて弾く。生まれた回転の勢いのまま、左足の回し蹴りをイレディルの防具で固められた腹部に食らわせる。剣を弾かれ少し体勢を崩していたためか、ボクの蹴りでもイレディルは数歩退いた。


 一旦、二人の攻撃はしのげたか、と一息つこうとした瞬間、上空に魔力の乱れを感じる。その直後、ボクの頭上に、ボクを中心とする円を描くように、十数個に至る氷のつぶてが現れる。不味い、と思うのも束の間、今度はボクを囲うようにして円柱状の壁が地面から飛び出てくる。上空のみが開いた閉鎖空間に、氷の礫がぶつかる音が反響する。


「カルミナか、ナイスフォローだ」


 カルミナが壁への干渉を止めたことを魔力振動で感じ取る。本来ならそこで壁は崩壊するのだが、ボクがすぐに壁へ再干渉することで崩壊を防ぐ。そして、一辺三十センチ程度の正方形にした壁の一部を、イレディルとミューナスに向けて撃ち出す。それと同時に、ボクは上空へ飛び上がる。


 初速をマッハ近くまで上げた岩片の一撃は、防御体勢を取った二人の武器または盾を大きく弾いた。それを見届ける事もせず、ボクはカルミナが作り出した岩の円柱から脱出すると、その中に爆裂魔法を乗せた魔力をセッティングする。調整にはコンマ一秒も掛けず、


「爆ぜろ!」


 その中で大爆発を引き起こさせる。衝撃で砕かれ、弾き飛ばされた破片が、守りを失った二人に襲いかかる。


 爆風を利用して距離を取ったボクは、呼吸を整えながら、砂埃で見えない二人の様子を魔力振動で探る。さすがに退場させられるほどのダメージは与えられていないと思うが、これで少しくらいは傷を負っていて欲しいものだ。


「……ま、そうだよね」


 薄らと影が見える砂埃の中、馴染み深い薄緑の輝きが二人を覆っていた。


「……回復してもらうのも、久々ですね。いやはや、年甲斐もなく楽しくなって来ました」


「この自在な魔法の使い方、あの子とよく似ていますな」


「全くだ。あの三人の面倒を見ていた頃を思い出す」


 砂埃が薄まる中、装備も体も無傷の二人が姿を見せながら会話を弾ませる。内容からして過去の話っぽいが、ボクにはなんの事やチンプンカンプンだ。


「……何の話ですか?」


「何、思い出話だ。以前、まだ冒険者として活動していた頃に面倒を見ていた子供に、君とよく似た生意気な小娘が居た、というだけのな」


「へぇ。面白そうですし、今度聞かせてくださいよ」


「互いに暇していれば、いいでしょう」


 口調が戻った。恐らく、過去を懐かしんでいたせいで、かつての喋り方が出てしまったのだろう。


 二人の微かに緩んだ空気感が引き締まったことで、再び攻防が始まると察し、こちらも集中を再度深める。



「ぜぁ!」


「ふんっ!」


 剣を大きく弾かれ、エニアスがアトラスティの隣まで退けさせられる。


 担任であるフルドムを二人で相手している二人だったが、エニアスの体格よりも大きい大剣を、あたかも片手剣のように振るうフルドムに手も足も出ないでいた。ただでさえリーチが長くて重いというのに、その剣をエニアスの剣と同等の速さで振るうのだ。


「クソッ、隙を作るどころか、こっちのリーチに入れることすら出来ねぇ」


「スイッチしようにも、付け入る隙がありませんわ……」


「なんだ、もう諦めか? プロティアは、格上……って程じゃないかもしれんが、強敵二人相手に善戦してるってのによ」


「まだ諦めてない。というか、先生の実力があれば、俺らなんかとっくに退場させられてるだろ」


「まあな。だが、この試合はあくまでお前らの成績を決めるためのものだ。あまり早期決着過ぎると、こちらも判断に困るのでな……それに、だ。俺は初めから激化を使っている。そこまでしないと、不味いと思ったからな。決して、お前らのことを舐め腐ってるって訳じゃないことは伝えとくぞ」


 エニアスも、雰囲気から激化のことは察していた。プロティアやアトラスティとの戦いの中で、何度も激化をした相手と戦ってきていたため、その独特な雰囲気を感じ取れるようになっていたのだ。故に、フルドムの激化も察せられた。


 ──どうする? 正直、今の俺では先生を倒すことは出来ない。アトラスティやイセリーを頼るにも、先生を倒せるパターンが見つからない。……こんな時、プロティアならどうするだろうか。魔法を禁じられて、実力は相手が上。スピードは互角で、リーチとパワーは負けている。こちらは三人がかりで、俺以外はレイピア使いのアトラスティと魔法使いのイセリー。


 エニアスは、頭の中で様々なパターンを考える。正面から突っ込んでも勝てないことは、今まで交えた数度の攻防で分かり切っている。かと言って、アトラスティに前衛を任せたところで、激化同士であれば経験豊富なフルドムが勝つことは目に見えている。魔法も、ここまで何度かエニアス達の動きに合わせてイセリーが打ち込んでみたが、どれも無意味に終わっている。


「せめて、初撃……それをどうにかすれば、こちらのリーチに入れられるはずだ」


 現状、正面から受け止め、軌道逸らし、剣に滑らせて去なすあたりは失敗している。どれも、パワーが足りずに、フルドムの体勢を崩す所か、エニアスがバランスを崩す始末だ。


 アトラスティがエニアスの隣に移動し、フルドムに聞こえないよう小声で話しかける。


「回避してはどうですか?」


「……そうだな。あいつも、回避から繋げる動きが多いし、この状況ならそうするか」


「その後はどうしますか?」


「……回避で背後に回る。んで、二方向……イセリーが動いてくれたら、三方向からの攻撃で、先生をかくらんする。それで隙が生まれたら、俺が懐に入り込んでトドメを刺す」


「分かりました。イセリーさんが動かなければ、二方向の挟み撃ちで攻めましょう」


 アトラスティとげいごうし、エニアスは右半身を引いて腰を低く落とす。鋭く息を吐くと同時に、地面を蹴ってフルドムへ迫る。


 エニアスの動きを見て、フルドムは大剣を両手で中段に構える。そして、エニアスがリーチ内に入った瞬間、ほぼ水平に振るう。


「っ……!」


 大剣をエニアスが受け止め、吹き飛ばされる。そんな光景を誰もが想像した。しかし、現実には、エニアスは足を前に地面を滑り、大剣をスレスレの所で回避していた。スライディングで大剣を躱しながら、フルドムの背後に移動したのだ。


「弓矢!」


 滑る勢いを利用して立ち上がりながら、エニアスが声を張り上げる。姿勢を正しながら剣を地面に突き立て、左手を上に上げ、右手をその少し下に静止させる。フルドムが振り返ろうとする中、エニアスの左手に弓、右手に矢が現れた。プロティアが収納魔法に隠していた武器の一つを、エニアスの指示で出してもらったのだ。


 反った棒を更に反対に反らせたような形の大弓を手に、エニアスは矢を弦に掛けて引っ張る。意識をフルドムへ向ける。その奥にてフルドムに細剣を向けて駆け寄るアトラスティの姿を視界に入れつつ、限界まで引いた矢を解き放つ。


 フルドムが、エニアス、アトラスティと視線を向け、更にはプロティアパーティ陣の方にも目をやる。エニアスも、耳でキーンと急激に空気が冷まされる音を捉え、イセリーが合わせてくれたのだと悟る。


 弓を放り捨て、地面に突き立てた剣を抜きながら、さあどう動く、とフルドムを見ていると、大剣を目にも止まらぬ速さで反時計回りに振り回した。瞬間的に生じた突風により、矢は弾かれ、氷の礫は砕け、危険を察したアトラスティは咄嗟に退く羽目になる。


 ──なるほど、これがBランク冒険者か。こりゃ、勝てっこないな。……一人じゃ。


 そんなことをふと脳裏に思い浮かべたエニアスが、回転の勢いが収まり切っていないフルドムへ詰め寄る。それに気付いたフルドムは、エニアスとの距離がまだある中で、まだ回転が残っている大剣を振るわんとする。


 ──この距離だと、このまま接近しても俺のリーチに捉える前に剣が振るわれる。本来、剣士はある程度リーチのある武器を使うから、急接近することはほとんど無いし、そんな動きを練習している奴も中々いない……が。


 エニアスは、剣を逆手に持ち替えて剣先をフルドムに向け、上体を限界まで前倒しにし、地面に着いている左足に最大限の力を込める。


「シッ!」


 短く息を吐く。バランスを崩しそうなくらいに前傾した重心を支えながら、地面を抉る勢いで蹴る。大剣が加速を始める。しかし、その時には既に、エニアスとフルドムの距離は、一メートル──エニアスの剣のリーチを下回っていた。


 エニアスの剣は、フルドムの横腹にギリギリ当たらない位置を貫いていた。本来の戦場であれば、この一撃は確実に腹部を貫いており、即死とは行かずとも致命傷になり得るものだっただろう。つまり──


「フルドム、退場!」


 見ていた生徒達に、どよめきが広がる。


 エニアスは、前傾したままだった上体を起こして、フルドムから少し距離を取ってから剣を順手に戻す。


「……参った、俺の負けだ。この後も頑張れよ」


「はい」


 そう言い残したフルドムが、フィールドを後にしてラプロトスティの横に移動する。


 アトラスティが一息ついているエニアスに駆け寄っていると、唐突にイセリーの声が響いた。


「二人とも、上!」


 エニアスとアトラスティが視線を上空に向けると、教師陣の魔法使い二人が、火球三つと十近い氷の礫を強敵を退けたばかりの二人目掛けて打ち出そうとしていた。


「……氷は任せた。炎はやる」


「出来るのですか?」


「お前と違って、俺は魔法破壊も習得している」


「むっ……わたくしだって出来ますが!」


「ほう、なら逆にするか?」


「ええ! 構いませんが!」


「二人とも、喧嘩してる場合じゃないですよ!」


 喧嘩を始めた二人にイセリーが注意を飛ばした頃には、既に魔法は打ち出され、火球が二人に届く直前だった。


「チッ」


 舌打ちをしたエニアスが、一歩前に出て右上がりに剣を振り上げる。その一振りは正確に火球の中心を捉え、爆発を引き起こす。その後、更に二度の爆発が立て続けに土埃を巻き上げた。


 煙で姿が見えなくなった二人に、追撃とばかりに氷の礫が迫る。かと思うと、煙を割くようにして赤みの増した陽光に金髪を輝かせる少女が姿を見せ、胸の前に引き寄せたレイピアを突き出した。この突きは正に正確無比。空中でありながら、全ての氷塊を音速に迫る刺突が貫いた。


「ふぅ……平気ですか、エニアスさん?」


「ゲホッゲホッ……お前に心配される程、俺はヤワじゃねぇ」


 煙に咳き込みながら、少し顔にすすを着けたエニアスが、アトラスティの嫌味とも取れそうな言葉に言い返して姿を見せる。髪の先端が少し縮れ、全身が汚れてはいるものの、これと言ったダメージは無さそうであった。


「あら、せっかく心配してあげましたのに」


「軽口叩く暇があるなら、さっさとプロティアのヘルプに行くぞ」


「それもそうですね」


 強敵二人を相手に、未だ大立ち回りを続けているプロティアに、二人は視線を向ける。


「……副学園長を狙うぞ。俺達の装備なら、そっちの方が相性はまだマシだろう」


「分かりました」

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