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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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前期評価試験1

 時の流れは早いもので、七の月もなかばとなり前期の成績を決める試験の日となってしまった。


 チーム戦を何試合も行う必要があるためか、今日は午前の座学はなく、朝から準備を整えて屋外修練場に集まっている。二年次からは装備も各自自由となり、武器も真剣を使うことになるため、昨年度と比べてかなりさんしゃさんようとなっている。ちなみにボクは、いつも通り学園支給の装備に一張羅をり、ユキの父親の形見である剣を腰にたずさえ、左腕に鉄板防具を結び付けてある。


「今日は前期の成績を決める、パーティー同士の決闘を行うのだが……一つだけ、聞いておきたいことがある。この中に、プロティアのパーティーと戦いたいという者はいるか?」


 皆の前に立ったフルドムが、生徒たちにそう質問を投げ掛ける。ボクも結構頑張って皆に指導したし、一パーティーくらいは……と思っていたが、どのパーティーの生徒も目を背けるだけだった。何故だ。


「そうだよな……分かった。プロティア、お前らのパーティーとは、俺達教師陣と戦ってもらうことになるが、構わないか?」


「え、うーん……皆はどう?」


 ボクとしては強者と戦えるので全くもって問題ないのだが、他の四人がどう反応するか次第ではある。と、思っていたが、


わたくしはむしろ、歓迎致しますわ」


「俺も構わない。強い奴との戦いは、いくらあっても足りないからな」


「あたしも頑張る!」


「やれるだけやってみるね」


 うちのパーティーは、誰も嫌がることなく、それどころか乗り気ですらあった。血気けっきさかんすぎる。


「と、言うわけらしいので……お相手、お願いしますね」


 仲間達を戦闘狂のように言いはしたのだが、ボクも前世からの戦闘狂であるため、この申し出自体はありがたかった。


「分かった。互いに準備が必要だろう。プロティア達の試合は、今日の最後に執り行う。それまでに体を温め、作戦会議を済ませておけ。こちらの編成は、大剣使いの俺、盾剣使いの学園長、ハルバード使いの副学園長、魔術師の寮長と保険医だ」


 前衛三人に、魔法使いが二人か。こっちと編成自体は似ている。


「分かりました。四人とも、作戦会議を始めよう」


 四人が頷くのを見て、ボク達は他の生徒達の試合を見れるが、離れた場所に移動する。


「それで、作戦を立てる前からあれなんだけど……正直、ボクはこの戦い、勝ち目はほぼないと思っている」


「……お前一人でらせると思っていたんだがな」


「それはボクの力を買い被りすぎだね。相手は、現役引退の差はあれど、全員がBランク冒険者だ。それこそ、ラプロトスティさんとも同等以上の実力を持っているだろうね」


「お姉様よりも……ですか?」


「うん。先生が以前、ラプロトスティさんはBランク相当の実力はあるって言ってたから、間違いないと思う。ボクはラプロトスティさんにこの前勝てたけど……多分、あの人はまだ本気を出してない。こっちがかなりギリギリだったのに対して、向こうは一呼吸で息を整えられる程度にしか疲れていなかった」


「……つまり、今回の相手は、プロティアがタイマンで戦ったとしても、勝てるか分からないくらいに強いってことか」


 エニアスの結論に頷く。


「この中ではプロティアが一番強いのに、そのプロティアですら勝てるか分からない相手ってなると、勝ち目は無いって言うのは正しいかもね……」


「じゃあ、負け前提で戦うってこと?」


 イセリーの同調に、カルミナが少し眉を顰めて聞いてくる。


「もちろん、そのつもりはないよ。勝ちに行く……そして、勝つためのかなめは、二人だ」


 隣合っているエニアスとアトラに視線を向ける。アトラは驚いたような表情を見せ、エニアスはスっと目を細める。


「相手は恐らく、実力をかんがみてボクを警戒してくるはずだ。だから、それを利用してボクが前衛を二人引き付ける」


「一人相手するのも厳しいんじゃないのか?」


「まあそれはそうなんだけど、向こうは盾剣にハルバード、大剣というラインナップだ。基本的に小回りが利きにくい装備が揃ってるから、小柄な上にスピードのあるボクなら、逃げ回ればかなりの時間を稼げると思う。そして、残りの一人を二人で倒すんだ」


「戦力で負けている分、数で有利を取ろう、という訳ですか」


「そう。大まかな流れとしては、ボクが開始と同時に、向こうの魔法使いを狙って突っ込む。そうすれば、向こうは全体的に意識がボクに向くと思う。その後は立ち回りで前衛二人を引き付けるから、エニアスとアトラで残りの前衛をお願い。カルミナとイセリーは……まだ、合体魔法は完成してないんだよね?」


「うん……まだ、あたしが上手く行かなくて……」


 カルミナが、シュンと縮こまって答える。


「難しい魔法だからね、仕方ないよ。今回は合体魔法はなしの方向で。イセリーは二人、カルミナはボクの援護をお願い。加えて、イセリーは後方からの戦況把握と指示出しも任せていいかな?」


「うん、頑張ってみる」


「カルミナ、まだ前衛の動きに合わせて魔法を使うのは慣れてないと思うけど、頑張ってやってみて。ボクは魔法の発動自体は察知出来るから、上手く合わせるよ」


「わ、分かった」


 実際、二人には合体魔法を完成させることを主な訓練としていたから、前衛の動きと合わせて魔法を使う、という練習は少ししかしていない。まあ、カルミナは野生の勘とでも言うのか、妙に鋭い所があるから、何とか形には出来るだろう。


「試合は多分、午後四時頃になると思う。時間はあるから、相手それぞれに対策を考えて行こう」


 フルドム相手にはこう、学園長の場合はこう、と全員で意見を出し合いながら対策を講じていると、すぐに昼食の時間となり、気付けば最後の組み合わせの試合が終わっていた。


 日は傾き始めてはいるものの、初夏の暑さで汗がにじむ中、自前の武器を装備したボク達のパーティーと先生ズが向かい合う。


「手加減はした方がいいか?」


「全力でどうぞ」


 フルドムが大剣を地面に突き刺して投げ掛けてきた質問に、鞘にしまった剣の柄に左手を乗せて、落ち着いた状態で返事をする。


「そうかい……じゃあ、審判は頼んだぞ」


「はいはーい」


 フルドムの言葉に、さっきまでフルドムが立っていた場所にて右手を大きく挙げた女性が、明るく返事をする。ボクの後ろで、アトラが呆れた表情をしていることが見なくても分かった。


「……何故またいるのですか、お姉様?」


「ん? 面白そうな気配がしたから」


「またそれですか……」


「こうして役割を貰ってるんだから、居ても害があるどころか、利益しかないでしょ?」


「はいはい、分かりましたから始めてください。あと、お父様の心労を増やさないでください」


「なんかアトラが冷たい! プロティアなんで!?」


「試合後に教えてあげますから、始めてください」


 自業自得やろがい。と言いたいのだが、早く始めて欲しいし、真面目に審判して欲しいのでここは後回しにさせてもらう事とする。


 ボクの言葉を受けて、ラプロトスティさんはむーと唇を尖らせるが、すぐに表情を真剣なものへと変えて姿勢を正した。


「それでは、これより前期評価試合を始める。両者、武器を構え」


 先程と打って代わり、凛と張った声が乾いた空に響き、指示通りに腰の鞘から剣を抜く。ボクの後ろで、アトラとエニアスも同様に武器を手にした。カルミナとイセリーは基本的に後方で魔法支援なので、剣を装備してはいるが敵が接近しない限りは抜くことは無い。


 対面で、教師陣も武器を構える。互いに、前衛の三人が前に並んで陣取り、魔法組が少し離れた後方に位置している。


 左半身を引き、足を肩幅に開いて腰をぐっと落とし、左足に力を込める。


「初め!」


 ラプロトスティさんの声が鼓膜を揺らすと同時、ボクは地面を蹴り駆け出す。再び左足が地面を捉えた瞬間、先程よりも更に姿勢を低く下げる。そして、足裏と地面の間に空気を圧縮し、斜め上へ跳び上がる勢いを風圧で増幅させる。


 一瞬にして高度数十メートルの位置まで上昇したボクは、右手で持った剣を肩に担ぐように構え、体を前方へ傾ける。その向きは、まさに敵陣のヒーラーを狙ったものだ。両脚を曲げ、両の爪先が着くように空気中のちりを集めて平べったい岩を作り出す。飛び上がった時と同様に、今度は両足の裏に空気を圧縮させる。


「すぅ〜……シッ!」


 深く息を吸い、鋭く吐くと同時に、圧縮された空気を解き放ち、その力を利用して保険医のイリアーナへと高速で飛び掛かる。


「させんっ!」


「っ!」


 しかし、イリアーナへ届く直前、間に校長のイレディルが入り込む。咄嗟とっさに、構えていた魔力をまとって淡く輝く剣を、正面に迫る盾へと叩き込む。鐘のような重厚な音が響き渡る中、右側に索敵でもう一人気配を感じて、剣を盾に当てたまま振り払った勢いで下がる。直後、ボクがいた場所の空気をハルバードが切り裂く。ブォンという重たく大きな音と、風圧がボクの所まで届いた。


 地面に足を着いたボクは、バックステップで距離を作りつつ体勢を整え、剣を正面に構えて次の動きに備える。


「学園長に副学園長……いいんですか? そんな重役二人が、ボク一人なんかを相手にして。フルドム先生がアトラとエニアスの二人を見ることになりますよ?」


「問題ないでしょう。彼はあれでも、国内でトップクラスの大剣使いです。実力はあろうとも、学生に劣るようなタマではありません」


「トップではないんですね」


「……国王騎士団に、外れ値のような実力を持った子がいるのでね」


 国王騎士団か。名前の通り、国王直属の騎士団だろう。そこに属しているのならば、確かにかなりの実力を持っていてもおかしくはなさそうだ。


「ま、向こうは向こうに任せるとして……」


「そうですね。こちらの戦いを続けるとしましょうか」


 言い終わるや否や、イレディルは盾を正面に構えて地面を蹴った。ボクも即座に意識を戦闘へ戻し、どう動くかを予想する。


 ──上段……下段か? それとも突きか? ダメだ。盾でほぼ全体が隠れているせいで、次の動きが確定出来ない!


 かなりの重装備でありながらも、数メートルの距離をコンマ数秒と掛けずに縮める速度で動くイレディルは、ほぼ全身を隠せる大きさの盾を正面に構えているせいで、ほとんど姿が見えていない。もう判断が間に合わないと防御体勢に入ろうとした瞬間、ふとあるアニメのワンシーンを思い出す。


 ──可能性でしかない。でも、有り得るし、もし違っていてもこの動きなら大抵の攻撃は対応出来る!


 イレディルとの距離が一メートルを下回る直前、ボクは追撃へ対応するため正面はイレディルに向けつつ、左へと体をズラした。風でふわりとなびいた一張羅に、イレディルの盾の下端が掠る。


 追撃のよこぎを剣で受け止め、バックステップで再び距離を取る。索敵で左からの接近を察知し、くるりと体をひるがえしてハルバードの突きをかわす。その流れのまま副学園長のミューナスへ横薙ぎに剣を払って退場させようかと思ったが、イレディルがすぐそこまで来ており、このままだとミューナスの退場と共にボクも退場すると判断し、諦めて距離を取る。ねん通り、ミューナスの体とハルバードの間をイレディルの剣が貫く。もし離れていなければ、その突きはボクの腹部に寸止めされていただろう。


「……初見で防がれるとは。何故、盾で攻撃すると分かったのですか?」


「え、えと、昔アニ……じゃなくて、そういう戦い方をする人の話を聞いたことがあって!」


 危ねぇ! 危うくアニメって言うところだった。


「ふむ、そうですか……その後も危うげなく攻撃を回避……フルドムから聞いてはいましたが、確かにこれは中々のいつざいですね。経験を積めば、Aランク冒険者の仲間入りも夢じゃないかもしれません」


「え、本当ですか?」


「まだまだ、成長途上ですがね」


 それはそうだ。ボクだって、今すぐにAランクになれるような実力は持っていないことくらい、自覚している。


「イレディルさん。少し本気を出しますか?」


「ええ、そうしましょう……どうやら彼女も、激化は使いこなせているようですからね」


 二人が短いやり取りを終えると、一瞬にして空気感が変わった。二人が薄紫のもやを纏い、重苦しいプレッシャーが押し寄せてくる。つまり、二人とも激化を使ったということだ。


 Bランク冒険者だし、そりゃ使えるよな。ならボクも、全力で逃げ回ろう。


 深く息を吸い、細く長く息を吐き出す。副交感神経の優位度を上げ、全身を程よく脱力する。意識が深く沈み、生徒達の声は遠ざかる。目の前の二人と、魔力振動で感じ取る戦いの場の動き、そして自分の鼓動で満たされる。


 さあ、ここからが正念場だ。

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