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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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二人の魔法と気に食わない二人

 学年が上がって、数週間。エニアスもパーティーに加入し、充実した学園生活を送っている。


 今日は、カルミナ達が魔法を色々と試したいとのことで、久々に学園の校庭で鍛錬を行うことにした。早速言い争いが発生しいつも通りの小競り合いをしているアトラとエニアスを他所よそに、ボク達平民組で集まって色々と魔法を試して見ていた。


「ちなみに、どんな魔法にするかは決まったの?」


「まだ考え中。多分、私がミナを支える形にはなると思うけど、どう実現しようかってずっと話しているの」


「なるほど……カルミナは、こんな魔法が使いたいっていうイメージはあるの?」


「ド派手なの!」


 すごくザックリしている。まあ、らしいと言えばらしいけども。


「そういえばさ、噂か何かで耳にしたんだけど、プロティアがすっごい魔法を使えるって聞いたことあるんだよね。なんか、炎の巨大な蛇を飛ばして魔物を一掃! みたいな感じの」


 どこから漏れたんだよ。あの日以来一回も使ってないし、面倒事に巻き込まれたくないから、あの場にいたプロティアと交流のある人には口外しないよう伝えたのに。……うん、そういえば普通に見たって人が街中にもいたわ。あの後、しばらく噂になってたな。そこから漏れたんだろう。


「まあ、使えるには使えるよ……一回しか使ってないし、もう一年以上使ってないから、もう一度使えるかは分からないけど」


「みたい!」


「えぇ……」


 そう来ると思っていたが、やはりそう来たか。しかし、ここは学園だし、なんなら街中だ。あの規模の魔法を使うのはさすがに難しいだろう。それに、屋外修練場にはかなりの人がいるし、この人数に見られるのは避けたい。


 だが、ここまで目をキラキラさせて見詰められると、どうにも断りにくい。


「じゃあ……簡易版だけね」


「簡易版?」


 てのひらを空へ向けた右手の上に、直径三十センチ程の火球を生み出し、形を変形していつぞやの龍の形へ整える。長さは一メートルにも満たない、数十分の一スケールてんごくえんりゅうだ。生み出した小柄な炎龍を、ボクやカルミナの周りをくるくる回らせたり、上空を体をうねらせながら飛行させる。カルミナだけでなく、イセリーもがその光景に見入っていた。


「もしかして、ゴブリンとの戦いで使ったという魔法ですか?」


 二人の反応に少し楽しくなって遊んでいると、喧嘩をしていたはずのアトラとエニアスも近付いてきていた。上空を見上げて、空で円を描く龍を目で追っている。


「数十分の一規模だけどね。本当は、これよりずっと大きいよ。それこそ、全長がアトラの十倍以上になるくらいには」


わたくしの十倍……想像も出来ませんわ」


「よし、決めた! あたしその魔法の真似する!」


「えっ、やめた方がいいと思うよ。操作難しいし、何よりエネルギー消費が半端じゃないから、ボクですら打ったら気絶しかねないのに」


「即答するじゃん……使いたい使いたい! あたしもかっこいい火属性の魔法使いたいー!」


 頬をぷくっと膨らませたかと思うと、子供のように駄々をねだした。いや、子供ではあるのだが。


 暴れるカルミナをなだめつつ、どうにかしてカルミナの要望を叶えてやれないかを考える。そもそも、天獄炎龍は燃費が悪いだけではなく、操作性もそこまでよくはない。もちろん、今みたいにサイズ調整をすればどんな場所でも使えなくは無いし、エネルギー消費も抑えられはするのだが、同時に派手さは欠けてしまうだろう。


 派手さを維持しつつ、はんよう性があってエネルギー消費も多すぎない火属性の魔法……というより、そもそも火属性自体がエネルギー効率が悪いんだよなぁ。熱でダメージを与える以上、その熱を生み出す必要がある訳だし。ただ、火属性ってのがカルミナの絶対条件みたいだからなぁ……どうしたものか。


「火属性で使い勝手が良くて、エネルギー消費が抑えられて、ド派手でかっこいい魔法……」


 某爆裂娘や某海賊漫画の兄なんかを考えてみるが、派手ではあるが周囲への被害や体力の消耗が大きすぎる。そう考えると、火属性って使い勝手悪いな。


「以前プロティアが話してた、ヤマタノオロチはどう? エネルギー消費はあまり減らないかもしれないけど、狙いを一箇所に定めておけば操作も簡単だし、一つ一つの蛇をそこまで大きくしなければ少しくらい狭くても使えそうだと思うんだけど」


「ヤマタノオロチか……」


 夜に話すことがなかった時、ボクが童話や昔話、アニメなんかの物語を語ったことがある。その結果、三人とも気に入ってしまい、たまにやっているプロティア朗読の中で話した物語の一つが、今イセリーが話題に出した「スサノオのオロチ退治」だ。


 確かに、ヤマタノオロチであれば、規模を小さくしたとしても、八方向に伸びる大蛇によって充分派手に見えるだろう。それに、イセリーの言う通り、一点を定めて放てば、例え一度に攻撃しても受け手からすれば八つ同時に相手しなければ行けないにも関わらず、カルミナは一箇所だけを狙っていればいいし、操作性も悪くなさそうだ。


「ふむ……物は試しだ。一旦それで行ってみるか?」


「やる!」


「よし。じゃあ二人で頑張れ」


「イセリー、やるよ!」


「やるのはいいんだけど……プロティアは何もしてくれないの?」


「これは二人の魔法だからね。ボクは相談を受けた時だけ手助けするよ。それ以外は、ぼうかんてっする」


「そっか。じゃあ、私達でどんな形にするか、決めよう」


「おー!」


 カルミナの魔法が決まったからか、二人は離れた位置で話し合いをし始めた。


「……ヤマタノオロチってなんだ」


 ポツリと、エニアスが零した。そりゃそうだ、スサノオのオロチ退治を語ったのはかなり前、エニアスとは交流もなかった頃のことだし、そもそもボク達の部屋でのことだ。エニアスが知っているはずがない。


「八つの頭を持った、大蛇のことです。以前、プロティアさんが話して下さった、『スサノオのオロチ退治』という物語に出てきた魔物ですわ」


「八つ首の大蛇か……探したらいそうだな」


「それなー」


 アトラの説明を受けたエニアスが、ボクも同意見な感想を述べる。


 まだ出会ったことのある魔物はゴブリンくらいなのだが、授業で習った分には巨大なトカゲや蛇なんかもいた。つまり、ヤマタノオロチがいる可能性はゼロではないだろう。それこそ、山岳の多い島国なんかにいそうだ。ってそれ日本やないかい。


 適当にノリツッコミをしつつ、気になることもあったので話題を変える。


「ところで、二人はどう? 上手くいってる?」


「全然だな」「全然ですね」


 息ぴったり。大丈夫そうだ。とは思うものの、恐らく本当に全然上手く行っていないのだろう。この子達は、失敗を失敗と受け入れることが出来、更には分析して改善しようとするタイプだ。そんな二人が口を揃えて全然だと言うのなら、本当に全然なのだろう。


「ちなみに、原因は?」


「こいつが遅い」「この人が自分勝手すぎます」


 互いに相手を指差しながら、それぞれの分析結果を口に出す。そして、ほぼ同時に相手をキッと睨み、口を尖らせる。 。主にアトラが。


「毎回毎回、エニアスさんの動く方向が全く違うのです」


「そんな事は無い、同じ方向に動いている。むしろ、アトラスティの動きが遅いせいで、こいつが間合いに入る前に弾いた剣が降りてきている」


「それはっ、あなたが邪魔なせいで上手く踏み込めないだけです! もう少し、私の通り道を考えてくださらない?」


「必要最低限の幅は開けている。そこに入れないのはあんたがズブいからだろう」


「これでも、反応の速さではあなたにも負けませんが!」


「なんだ、勝負か? 受けて立つ」


 交差する目線の間で火花が弾けるような錯覚を覚える。砕けそうな程歯を食いしばり、数センチ上にあるエニアスの目を見詰めるアトラに対し、冷酷なまでに落ち着いた表情でエニアスは見下ろしている。このままでは本当にバトルが始まりそうなので、一旦止めるとしよう。


「まあまあお二人さん、一度落ち着きましょうや。エニアス、誰もが君みたいに完璧に動けるわけじゃない。少し相手を思いやった立ち回りを意識するのが、集団戦で大事な事だよ。アトラは、もう少し強引さを身に付けようか。エニアスが邪魔で踏み込めないなら、いっそ押し飛ばして入り込んでやる! くらいのがいでやってみて」


 二人揃って、ボクの提案に首肯する。渋々、と言った感じではあるが。


 ボクお手製の専用打ち込み台に向かう二人を見送りながら、一先ず喧嘩は止められたことに安堵の溜息を零す。


「あの二人、毎日喧嘩してるね。アトラさんがあんなに感情的になるの、あんまりそういう印象なかったから意外かも」


 眉を八の字に下げたカルミナが、ボクの隣にやって来て呟く。心配で見に来たのだろうか。後に続いて、イセリーも隣に立った。


「カルミナ、いいことを教えてあげよう。この世界のどこかには、『喧嘩する程仲がいい』って素晴らしい言葉があるんだ」


「……じゃあ、アトラさんとエニアスは、凄く仲がいいってこと?」


「いえーす」


「本当にそんな言葉があるの? 初めて聞いたんだけど」


 そりゃそうだ、日本の諺だし。カルミナやイセリーが知ってるはずがない。


「遠い世界にはあるんだよ。それに、考えても見たまえ。本来、喧嘩と言うものは、相手との意見の相違から生じるものだ。本当に関わりたくないと思った相手となら、ああやって言い合ったり張り合ったりせず、そっと距離を置くだろう?」


「まあ、確かに」


「でも、そうせずに喧嘩していると言うことは、例え意見が違っても、ぶつかり合って妥協点を見つけられるのならば、あなたと離れたくない。ぶつかり合っても、きっとあなたとならば仲直り出来る。そういう執着と信頼があるから、喧嘩をするんだ。つまり──」


「喧嘩するほど仲がいい……ってことね。その説明を聞く限りでは、確かに間違ってはないかも」


 二人とも、納得してくれたようで何よりだ。


「ボクの見立てでは、あの二人は将来くっつくね」


「くっつく……はっ、もしかして結婚!?」


「それは絶対にない!」「それは絶対にありません!」


 ボクが声を潜めたのに合わせて、カルミナも小声になったのだが、どうやら地獄耳のアトラとエニアスには聞こえてしまっていたらしい。アトラと言い合いをしている時ですら声を荒らげることの無いエニアスまでもが、声を大にして否定してきた。


「さっきから聞いていれば、俺達は仲がいいだの、結婚するだの……バカげた話だ」


「全くです。このような、自分勝手で強くなることにしか興味のない方と仲良くなることなど、到底不可能です。結婚なんて言うまでもありませんわ」


「それはこっちのセリフだ」


「……プロティア。やっぱりあの二人が結婚は無いと思う」


「ミナに同じ」


 ……どうしよう、ボクも少し自信が無くなってきた。

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