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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編
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エニアス・ネアエダム8

「……そうだ。ごめん三人とも、食堂には先に行ってて。ちょっと寄りたい場所がある」


「? ええ、分かりました。では、向かいましょうか」


 食堂に向かう途中、ふと思い出して三人にそう伝える。二階に着いたタイミングだったので、アトラ達三人はそのまま南北の通路へ進み、別れたボクは三階へと階段を上る。


 疲れが取れ切っていない体にむちち、何とか三階まで到達し、そのまま西端の部屋へと向かう。そう、ボクが今向かっているのは、エニアスの部屋だ。あの後、恐らくフルドムにより説教を食らっただろうが、さすがに一時間以上経過しているのもあって解放されているらしく、魔力振動で部屋にいることは確認済みだ。


 扉の前に立って、三度ノックをする。数秒も経たずに、中から足音が聞こえてきて扉が開いた。わずかに白でそうしょくほどこされた黒一色の上着に、黒の長ズボンを身にまとったラフな格好のエニアスが姿を見せる。


「……帰ってたんだな」


「うん……その……」


 どう切り出したものか、迷って言葉が出て来ない。目線を泳がせていると、視界の端でエニアスが左手の拳を強く握るのを捉える。そして、直後に事情を察したのであろうエニアスが、口を開いた。


「……フォルサは、ダメだったんだな」


「……ごめん」


 エニアスから話題を出してくれたものの、謝ることしか出来なかった。申し訳なさから、目を見ることすら出来ない。うつむいて、ただ、エニアスの返事を待つだけだ。


「いや、構わない……元はと言えば、俺がやるべき事だったんだ。お前は、自分が助けたい人を助けられたんだろ。良かったじゃないか。……それに、謝るべきなのは、俺の方だ。お前を巻き込んだせいで、背負う必要のなかったおもを背負わせてしまった。本当に済まない」


「エニアス……」


 言葉が出て来なかった。こういう時、どう言葉を掛けるべきなのか、咄嗟とっさに出て来ない。ボクに今出来ることは、何かないのだろうか。エニアスのために、出来ること……そうだ。


「エニアス、一つ提案したいんだけど──」


「……話は終わりだ。一人にして欲しい」


「そ、そうだよね、ごめん……」


 こう言われてしまえば、ボクに出来ることはここを離れることだけだ。ボクが一歩下がると、エニアスは扉を閉め始めた。振り返るエニアスの表情に影が落ち、胸が苦しくなる。


「……一人で、抱え込みすぎないでね。力になれることがあったら、最大限協力するから」


「……ああ」


 静かに、扉が閉まる。心配だが、これ以上は向こうにストレスを与えてしまうだけだろう。今は、そっとしておくべきだ。そう判断し、ボクは食堂へ足を向けた。


 食堂に着いて、先に向かっている三人を探す。見つけるのはそこまで苦労はせず、料理の受渡し口に一番近い、四人掛けの丸テーブルを囲んで座っていた。ボクの存在に一番に気付いたカルミナが、立ち上がって右手を大きく振る。


「プロティアー! こっちこっち! 残った食材で簡単なもの作ってくれるんだってー!」


「本当? そりゃありがたいね」


 なるべく表情と口調が暗くならないよう意識しつつ、カルミナの言葉に返しながら件のテーブルに歩み寄り、空いているカルミナとアトラの間の椅子に腰を下ろす。ふぅ、と一度息を吐いていると、左側のアトラが指先で肩をトントンと叩いて来る。


「どした?」


「……エニアスさんのところに行っていたのですか?」


 だんしょうしているカルミナとイセリーに聞こえないようにか、顔を近付けて小声で問い掛けてくる。あまり詳しくは聞いていないのであろう二人に、余計な心配を掛けないためのはいりょだろう。


「うん」


 アトラに合わせ、ボクも小声で答える。


「様子は、どうでした?」


「どうだろう……表向きは冷静に見えたけど、怒りを隠し切れてないって感じだった」


「そうですか……何事もなければいいのですが」


「彼も馬鹿じゃないし、今すぐに妹を助けに行きはしないだろうけど……」


「どうかしたんですか?」


 コソコソ話していたことが気になったか、イセリーが聞いてくる。


「何でもないよ」


「そう? なら、いいんだけど……」


 イセリーがいぶかしんでいる。察しのいい子だから、こっちが隠し事をしている事くらいはとっくに気付いているだろうが、同時に賢い子だから、深く聞かないくらいの配慮はしてくれる。そのままスルーしてくれた。


「お待ちどう様。雑多ざったなものになってしまって、すみませんね」


 食堂の料理長を務めているおばちゃんが、四人分の料理を出してくれる。お肉と野菜を炒めたものと、スープ、主食のパンだ。言うなれば、肉野菜炒め定食と言ったところか。お肉の部位もバラバラだし、野菜も色々と入ってはいるが。メニューにはないものだから、まかない料理のようなものだろう。


「美味しそうー!」


「ありがとうございます、料理長さん」


「いえいえ。私の仕事は生徒達の腹を満たすことですから、お気になさらず食べてください」


 料理長は、いつもはちょっと怖いくらいの印象を受ける人だが、アトラの前では丁寧だ。まあ、粗相をして機嫌を損ねさせたら、それこそ物理的に首が飛びかねないのだから、当然と言えば当然だが。


「それじゃあ、頂きます」


 ボクが言うと、残りの三人も同様に「頂きます」と口にする。この世界には元々こういった習慣はないのだが、ボクがやっているうちにこの三人も真似するようになったのだ。


 主菜を口に運ぶ。味付けは塩と何らかの香辛料か。手に入りにくいこともあり、味付けは薄めではあるものの、むしろ食材の旨味を引き出していて美味しく感じる。他の三人も、ボクと同様に次々と口に運んでいく。


 空腹だったこともあり、全員黙々と食べていたが、不意にカルミナが質問をしてきた。


「そういや、あたし何があったのか全然知らないんだけどさ、寝ている間何があったの?」


「……図太い奴だな、カルミナは」


「え、なんで急にそんな評価されたの!?」


「アトラと一緒にゆうかいされかけてたんだよ、ティルノントに。ボクがそれを防いだ」


「……そんな大変なことになってたの!?」


 内容を理解するのに時間を要したのか、一瞬動きが止まったカルミナだったが、理解すると同時に険しい顔つきになって声を荒らげる。過去一でかい声かもしれない。そのくらいの衝撃だったのだろう。


「そうですよ。プロティアさんが来なければ、私達はティルノントに連れ去られ、どうなっていたか分からないのですから」


「プロティア、本当にありがとう! あたしもう、プロティアのためなら何でもする!」


「気軽に何でもなんて言っちゃ行けません。別に、ボクがやりたくてやったことなんだから、気にしなくていいよ」


 それに、ボクが助けたのかと問われると、正直なところ微妙だ。ティルノントのリーダー、アニクティータが何故か二人を置いて退いた、という表現の方がしっくりくる。


「だとしてもだよ! なんでもしなきゃ、命を救ってもらった恩を返しきれない! 何がいい? おっぱい揉む? いつも気にしてるみいだし!」


「バッ……! 気にしてねーから! てかっ、カルミナの胸なんていつも押し付けられてるから、今更揉みたいとか……ねーし!」


「迷いましたね」


「そうですね」


「外野うるさい! たくもう……お礼したいって気持ちは分かった。ボクは君の師匠だ、その気持ちは成長という形で返してくれたらいいよ」


「分かった! もっともっと強くなって、プロティアに負けないくらいになって、今度はあたしが助ける側になるね!」


「気長に待ってるよ」


「おっぱいじゃなくていいのですか?」


「いいの! アトラうっさい!」


 ニヤニヤしながら聞いてくるものだから、つい口調が荒くなってしまった。でも、仕方ないじゃないか。あらぬ疑いを掛けられているのだから。ボクはカルミナの胸を揉みたいだなんて、断じて思っていない。相手は子供だぞ。当然だ。……大人だったら、だって? それは……な、ない、と、思う。ぼ、ボクだって精神は健全な男子なんだ! ちょっとくらい思ったっていいじゃないか!


 などと頭の中で言い訳を考えながら、黙々と食事を続けるのだった。


 数時間後。食事もお風呂も終えたボク達は、寝間着になって各々のベッドに横になっていた。


「食事中のプロティア、揶揄からかわれた男子みたいで、可愛かったわ」


「アトラ、もうその話は止めにしないか?」


「分かります。慌て方が男子でしたよね」


「そう? あたしはいつも通りだなーって思ってたけど」


 まっずい。こんな形で男だってバレるのはゴメンだ。


「ボクのどこが男だって言うんだい。しょうしんしょうめい、可愛い女の子だよ?」


「言動」


「うっ……」


「感性もかな?」


「ぐっ……」


「鍛錬中とか、助けてくれる時とか、ちょっと男子みたいでかっこいいなーってあたしも思う!」


 もうほぼバレとるやんけ。なんでや。なるべく違和感のない程度に女子っぽくやってるはずやろ。


「あまりこういう事は、立場上言わない方がいいのだけれど……プロティアが男性であったのならば、私からフェルメウス家に迎えたいくらいに、魅力的だと思うわ」


「普段は優しいのに、強くて、何かあれば全力で助けようとしてくれますもんね。結婚したら絶対幸せにしてくれるタイプですよね」


 二人が「ね〜」と同調し合う。この二人、こんなに仲良かったっけ。てか、ボクって女子から見るとそんな風に評価されるのか。なんというか、嬉しいな。


「ただ、普段が奥手だから、普通に過ごしているとその良い所が見えないところは、欠点だと思いますね」


「そうね。私達以外とは、自分から接しに行くことは滅多にないものね」


 痛いところを突かれてしまった。前世の記憶が鮮明によみがえって、グサリと胸に槍が突き刺さる。


「……そんなイフを妄想しても、ボクは女子なんだから意味無いでしょ。ほら、皆疲れてるだろうし、早く寝よう」


「そうね。これ以上、プロティアを恥ずかしがらせたら、いつ仕返しされるか分からないわ」


「おいアトラ、分かってるなら明日覚悟しとけよ」


「あら、何をされるのかしら? 楽しみね」


 うふふ、とゆうに笑い、アトラは静かになった。立場上、こっちがアトラに手を出せないのをいい事に、もてあそんで来やがる。最近ちょっといじられることも増えて来たし、ここらで鍛錬を厳しくして仕返ししてやろうか。


 とはいえ、一年経ってここまで打ち解けたのだ、と考えると、かんがいぶかいものだ。最初の頃は、カルミナとイセリーはアトラの前で石になっていたと言うのに、今となっては恋バナなんかしちゃうくらいだ。これも、今日二人を助けられたからこそ見られた光景だ。本当に、助けられてよかった。


 ……けど、フォルサは助けられなかった。ここの三人は、きっと大丈夫だ。そりゃ、色んな困難はこれからも待ち受けているだろうけど、一年前に比べたらずっと良好だ。成長もしている。きっと乗り越えられるだろう。対して、エニアスはどうだろうか。彼の性格上、一人で抱え込んでもおかしくない。放っておくのは、やはり心配だ。


「とはいえ、ボクに出来ることは限られるからな……」


 誰にも聞こえない声量で、ポツリと呟く。一応、パーティーメンバーにはなったんだ。これまでよりは近くに居るだろうし、なるべく気にかけるようにしよう。そう決めて、目を閉じる。

長らくお待たせしました。久々の更新です。

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