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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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エニアス・ネアエダム4

「うっ……」


 肌寒さと頭痛を感じながら、意識が覚醒する。そもそも、なぜわたくしは意識を失っていたのか。そこから謎だ。


 学年が一つ上がって初めての授業を終えた私は、カルミナさんと一緒に武器屋にレイピアをいでもらいに行っていた。休みの間に行きたかったのだが、この時期は花見という貴族の集まりが何度もあって、なかなか時間が取れなかったため、こうして授業の鍛錬が休みの初日に研ぎに行くことになった。


 レイピアを研ぐのにはそこまで時間は要せず、一時間もすれば帰途きとについていた。ただ、カルミナさんと二人きりという状況が珍しくもあり、せっかくだから少しお話をしようと商業区で買い食いをする事にした。そこまでは良かった。


 記憶は、お肉屋で串焼きを買って食べ終えた頃に途切れている。何が起きたのか分からなかったけれど、あれは眠りに着くと言うよりは、気絶に近い感覚だったように思う。唐突に全身から力が抜けて、意識を失った。


 そして今、何処かも分からない場所で目が覚めた。


 ハッキリとしない思考の中、自分の手足が縛られていることは感覚的に分かった。状況から、誘拐に遭っているのだろうということも。


「リーダー、目を覚ましたようです」


「そうか。想定よりも一時間は早いな……まだ精度が足りないか? ただ、もう一人は眠っているし、個人差と取るべきか……」


 リーダーと呼ばれた人物が、こちらへ歩み寄りながらブツブツと独り言を呟いている。そして、私の頭上に来る位置に立ち止まり、見下ろして来る。


「気分はどうだ、おじょうさま


「……最低、でしょうか。何が目的で私達をさらったのですか?」


「知りたきゃうちの幹部になることだな」


「そうですか。であれば、興味はありません。今すぐに私達を解放しなさい。さもなくば、フェルメウス家の騎士達が私を探しに来ますよ」


「敵さんの心配をする余裕があるとは、思っていたよりも図太い奴だな。ご心配されなくとも、俺達はネアエダムだろうと相手じゃないくらいには強い」


 そうではないか、と思っていたが、今の言葉で確信を得る。この連中は、誘拐組織のティルノントだ。ハッタリを言っている可能性もゼロではないかもしれないが、この男の言い方には一切のよどみがなかった。それに、ただそこに立っているだけなのに全身が強ばってしまうほどの威圧感。お父様にも匹敵する。場合によっては、それ以上かもしれない。これだけの威圧感を持つ人物が、只者であるはずがない。


 可能かは分からないが、逃げる準備をするために状況を確認する。


 今の服装は、意識を失う前に着ていた私服と顔を隠すためのフーデッドケープではなく、下着の上に簡素なワンピースを着ているだけだった。意識を失っている間に身体検査も兼ねて着替えさせられたのだろう。この場には男性しかいないし、少々(くつ)じょく的ではあるが、されてしまったことには仕方ない。一度受け入れて、他の状況整理に移る。


 隣には、カルミナさんが横になっている。まだ意識は戻っていないようで、単調な呼吸を繰り返すだけだ。服装も、恐らく私と同じ状態だろう。その奥にはもう一人いるようだが、カルミナさんが邪魔で誰かまでは判別つかない。体を動かしてこの男に勘づかれては困るので、体を起こして確認する訳にも行かないし。


「状況整理か? 聞けば大抵の事は答えてやる」


 気付かれている? 動かしているのは目線だけだと言うのに、観察力にけているのだろうか。ただ、答えてくれると言うのであれば、有難く質問させてもらおう。


「……私達の装備はどこに?」


「こちらで保管してある。身体検査と着替えは同性に別室でやらせたから、その点に関しては心配は不要だ」


「誘拐犯のくせに、随分と配慮して下さるのですね」


「拠点に帰ればお前らは仲間だ。出来る限りの配慮はする」


「仲間? 誘拐しておいて、何を馬鹿げたことを」


「別にお前らがどう思おうが構わないが、こちらは仲間として扱う。それだけの事だ」


 相手の隙を誘おうと、あえて挑発するように問いかけてみるが、男は怒りを見せるどころか余裕すら感じる受け答えをする。この方法は上手く行きそうにない。ならば、せめて情報をもう少し集めた方がいいだろう。


「……身体検査は同性にやらせた、と言っていましたが、ここには見当たりませんね。こちらの安心を誘うための嘘ですか?」


「アイツはおんみつに長けているから、地上に出てていさつをしてもらっている。そもそも、ここに居たところでお前らが気付けるはずもないがな」


 言っている意味が分からない。居ても気付けない? そんなことがあるのだろうか。確かに、ぼーっとしている時であれば有り得るかもしれないが、意識して見つけようとして見つからないなど、想像出来ない。


「……索敵だな」


「え?」


 不意に、男の視線が上空に向く。左手は腰にげられた鞘に添えられ、次の瞬間には剣を抜いていてもおかしくない体勢を取る。索敵、と男は言ったが、こちらは何も感じない。何を根拠に索敵を感知したのか。それにこの空間の出口でもない方向に視線を向けていた辺り、どこから索敵されているのかまで分かっていたのだろう。


 プロティアさんが特殊な索敵を使っていることは本人から聞いているが、今までその索敵を探知出来たことはない。仕組みまで教えて貰っているから、目を凝らせば分かるんじゃないかと何度も試してみたけど、魔力を見ることすらままならない。もし男の言った索敵が、プロティアさんと同じ魔力振動なのであれば、この男は何らかの手段で魔力を感じ取ることが出来ることになる。そもそも、魔力振動以外の索敵を探知したのだとしても、魔法を感じ取れることは確実だ。


 とはいえ、索敵を誰かが使ったのだとすれば、この場所に助けが来るのも時間の問題だ。時間の問題なのだが……この方々をどうにか出来る人が、果たしてこの街に居るのかどうか。少なくとも、私やカルミナさんではどうにも出来ないし、プロティアさんやエニアスさんでも相手になるかどうか。可能性があるとすれば、王都騎士団の団長やきょうじゅう殺しの二人くらいかもしれない。しかし、そのような国の最高戦力がこの場に居合わせることなどほぼないだろう。


 ──詰み、ですね。


 助かる余地は無い。ここはもう、一度ティルノントの拠点に連れ去られ、脱走を狙う方が可能性が高いかもしれない。どれだけの自由があるか、分かったものでは無いから、絶対では無いが。


「……了解。そのまま通せ」


 誰かと話している? 一体誰と……そう思い、視線を上げると、ぶかにフードを被った人物がリーダーの男に耳打ちしていた。


 いつの間に? ずっと、男から目を離さないでいたはずだ。それなのに、気付かないうちにそのフードの人物は姿を見せ、気付かないうちに何かを男に伝え終えていた。一瞬、フードの人物と目が合う。影になっていて見えにくいが、深緑の綺麗な瞳だった。優しげな微笑を浮かべたかと思うと、一瞬で姿を消した。


「どうやら、お迎えが来たみたいだぜ」


「……今の方は、一体」


「アイツか? さっき言ってた奴だ」


 本当に、そこに居たのに気付けなかった。男が言葉を発して、初めて認識することが出来た。初めての感覚だ。居るのに居ない。居なかったのに居る。奇妙以外の感覚が浮かばない。


「総員、戦闘態勢。相手は火炎大蛇だ。油断すれば死ぬと思え」


 火炎大蛇……プロティアさんだ。僅かに希望が浮かぶが、相手を考えるとその希望も一瞬でちりとなる。目の前にいるこの男は、四年前に一瞬にして国中の騎士を全滅させた化け物だ。フェルメウス家とネアエダム家は兵を出せなかったため被害はほぼなかったが、その後今の王都騎士団の団長が就任し、騎士団の再編成がされるまで、冒険者と共に国の全兵力を担っていたため、お父様が頭を抱えていたことは記憶に新しい。


 もしプロティアさんが来たとして、この男に勝てる見込みはない。他のティルノントのメンバーも、一目でそこらの冒険者や騎士とは一線をかくした強さだと分かる。立ち居振る舞い、まとう雰囲気、呼吸の仕方や目線の動き、どれを取ってもBランク冒険者や騎士団の一小隊を任されるくらいの実力は備えている。


 プロティアさんの強さは、この身をもって知っている。一年の鍛錬を積んで、剣と魔法を駆使して戦えば、お姉様にも匹敵するようになっているはずだ。それでも、ここにいる五人全員を相手に出来るとは思えなかった。それに、ここは密室だ。換気はされているし、広さもそこそこあるが、プロティアさんの代名詞とも言える大蛇の火魔法は到底使えるような場所では無い。


 ……何を考えているんだ。助けてもらう身分でありながら、友を信じられないでいるなんて。プロティアさんなら何とかしてくれる。そう信じなければ。


 絶望的な状況にネガティブになっている自分に喝を入れていると、頭上で爆発音が鳴り響く。何事かと思ったが、地下室と思われるこの場所の入口にプロティアさんが来たと考えるのが妥当だろう。何故に爆発、とも思わなくは無いが、この際気にすることでは無い。


 部屋の中に、緊張感が漂う。


 数分が経過した。この部屋への入口である階段から、足音が聞こえてくる。助けて欲しいと思うと同時に、逃げてと言いたい相反する気持ちがせめぎ合う。どっちつかずな心情のまま、暗闇の中からかがりに照らされきらめく白髪が姿を見せた。


「……ようこそ、新星ルーキー

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