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ハイスペック転生  作者: flaiy
一章 学園編

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対レイピア使い、アトラ1

 カルミナの戦闘狂がチラ見えして以降、四人での特訓は期待以上の効果を見せた。


 カルミナは言うまでもない。強くなることへのかせが無くなり、伸び伸びと特訓にのぞむようになった。初めは剣道のような動きが中心となっていたが、ボクやアトラのようなスピードタイプとの手合わせを通して更に柔軟な戦い方が出来るようになっていた。


 それに触発されたか、カルミナと戦っていることもあって、イセリーの剣士としての実力もグングンと上がっていた。カルミナとの勝率がほぼゼロになっていたところから、今となっては互角に戦えるようになっている。対カルミナだけでは、と思う人もいるだろうが、ボクやアトラとの戦いでも一定の勝ちは収めているから、実力自体が伸びていることは疑う余地もない。と言っても、ボクは多少手加減はしているのだが。


 アトラに関しては、レイピアの扱いはほぼ完璧になってきた。動体視力と反応速度も、日々の鍛錬のたまもので拳銃程度の弾の速さは反応出来るようになっていた。少なくとも、十メートル以上離れていれば、拳銃は全て回避か斬るか出来る。人間やめた。この子怖い。


 ……コホン。まあそんなこんなで、皆剣士としては大きく成長した。だが、カルミナとイセリーに関しては、夏休み前から週末に行っている魔法講義のあって、魔法使いとしてもかなり成長している。


 属性関係なくどんな魔法でも扱えるし、無詠唱もとっくにマスターしている。魔力器官の問題で収納魔法などは一時的にしか使えないが、それでも使うこと自体は出来るようになっていた。子供の成長って本当に凄い。おじさん感動。いや二十歳だからまだそこまでおじさんじゃねーよ。


 そして、いつの間にか年も明け、後期も終わりを迎えようとしていた。


「はあ!」


 アトラの突きが、右へ体をずらしたカルミナの頬の横を通る。


「せあ!」


 カルミナが右後ろへ引いた剣を、体の捻りを加えてアトラの脇腹へ振るう。それを受けてアトラは、レイピアの強みであるこうげきの少なさを使し、バックステップで回避する。


 数メートルの距離が出来、互いの剣先を相手に向けた状態で向かい合い静止する。


 双方隙はなく、深く落ちた集中の中、相手の目線、わずかな体の動き、呼吸から次の展開を予想し、イメージ内で戦っているのだろう。試合の進展がなくなり、そのまま数十秒が経過した。


 不意に、アトラの体が軽く沈み、重心が前へ傾く。コンマ数秒も掛からない予備動作の後、右前へと一歩踏み出す。かと思うと、今度は左へ進み、一気にカルミナへ詰め寄る。カルミナは既に後ろへと動いているが、残念ながらアトラの剣のリーチ内だ。


「やぁあ!」


 アトラの芯のある声が響き、刀身が分身して見える速度の刺突がカルミナへ繰り出される。一、二回目の突きは防いだカルミナだったが、次の攻撃が右肩にクリーンヒットし、バランスを崩して数歩踏鞴(たたら)を踏む。


「そこまで」


 アトラとカルミナの間に距離が生まれたところで、試合を止める。剣を構えたままの二人の視線がこちらへ向き、ほぼ同時に細く息を吐いて剣を下ろす。


「アトラの勝ち」


「またアトラさんのイナズマステップ反応出来なかったー!」


 イナズマステップというのは、文字通り稲妻のようにジグザグに動くステップだ。先程の戦いでアトラが最後に使ったものがそれだ。


 人間の脳は八割近くを視覚からの情報に頼っており、逆に言えばその事実を上手く使えば相手を簡単にかくらんできる。イナズマステップは一瞬のうちに視界の左右を移動するため、それをされた相手は瞬間的に視野を左右へ移す必要があり、脳の処理に負荷がかかる。そして処理を終える頃には、一秒間に三、四発という高速の点の攻撃が迫ってくるのだ。余程の実力がある人でなければ、初見で対応することは難しいだろう。


 ボク達のように何度もこのステップを見ていれば対応出来るだろうと思う人もいるだろうが、そうも行かない。確かに、このステップのみであれば、ボクやカルミナも対応は出来る。現に、カルミナはアトラが動き出した時点で後ろへ下がっていたし、刺突も二発目までは防いでいた。しかし、アトラはイナズマステップにいくつかのパターンを用意している。二歩目の後に右へ跳んで回転しながら水平斬りや、真っ直ぐ前へ進んで背後に回りつつ攻撃のようなものが今まで使われたことがあるのだが、恐らくまだ応用は利く。それらのパターンを知っているため、ボク達はどれが来るかを予測しなければならない。結果として、対応が遅れるのだ。


 本人曰く、ボクの戦い方を参考にしたそうだ。じゅうおうじんに動くボクとの戦いの中で、「目で追う」という動作が隙に繋がりやすいと気付いてイナズマステップを考えたらしい。


 長々と解説したが、簡潔にまとめたら、滅茶苦茶うざい攻撃ということだ。


「まあまあ……でも、最初の二発は防げてたじゃないか。前より反応出来てるよ」


「致命傷になり得る首と心臓を狙ったけど、防がれたわ」


「……アトラさんって、結構殺意高いですよね」


「あら、そんなことはないと思うのだけれど」


 充分高いと思う。


 言ったらにらまれそうなので心の中でのみ述べておく。


「これだけ戦えるなら、そろそろアトラさんがレイピアを使っていることを広めても大丈夫そうじゃない?」


「ん? ああ、そうだな……」


 イセリーの提案について、少しだけ考えてみる。


 この道場を作った理由の一つは、まだ完成度の低いアトラのレイピアを隠すためだ。実力さえ着けば、多少周りが文句を付けたとしても黙らせることが出来るから。そして、今のアトラは恐らくクラスの中でも上位に入る実力を身に付けている。これならば、貴族連中を黙らせるには充分ではないだろうか。


「せっかくだ、皆をあっと言わせてやろうぜ」


「あっと……? どうするの?」


「ボクとアトラで模擬戦をしよう、いつかのように」


「……いいわね。貴女にはリベンジしたいと常々思っていたわ。それなら、実剣で戦うのはどうかしら? 春からはそうなるようだし、前もって皆さんにこれからの戦いを見せられるのでは無い?」


「実剣か……うん、ありだな。どうせなら装備も整えない? 模擬戦というより、決闘デュエルになりそうだけど」


「安全面もこうりょしたら、その方がいいわね」


「よし。それじゃあ、明日からは装備を着用して自分の武器を使用しての鍛錬にしよう。木剣とは多少感覚が変わるだろうし、実戦前に慣らしておいた方がお互い安全だろう」


「ええ」


「あたし達はどうしたらいい? 一応自分の剣は持ってるけど」


「カルミナ達も自分の持ち武器にしよう。まあ、模擬戦の方は危ないから木剣でやるけど」


「はーい」


 イセリーも「分かった」と了承してくれた。


 後期の授業日はあと一週間だ。成績を付ける試合が行われるのはその最終日だから、そこでやるのがいいだろう。


「よし。二年次に向けての前準備だと思って、しっかりやろう」


 三人が頷く。そうして、今日の鍛錬は終わりを迎えた。


 翌日からは、各々の武器を持ち寄って素振りなどの鍛錬を行った。アトラの装備品については実家から学園に送られて来た時ににちょっとした事件があったのだが、その話についてはいずれ。


 そして一週間後。


 約半年前のアトラとの戦いと似たような流れで、ボクとアトラは向かい合う。ただ、あの日とは、生徒に囲まれフルドムが審判をすることを除けば、何もかもが違う。ボクとアトラは制服でも運動着でもなく、各々の戦闘着を身に着けているし、腰にげた剣は、木剣ではなく本物の剣だ。あと、ラプロトスティさんもいない。


「この夏場にその格好は、さすがに暑くありませんか?」


 アトラが言っているのは、恐らくこのいっちょうのことだろう。


 ボクの装備は、私服の上に学園支給の革製の防具を身に着け、その上にユキからもらったコートを羽織っている。腰の左側に剣を吊るし、下半身はズボンだ。左腕には鉄板を曲げただけの防具を付けている。対するアトラは、青を基調とした服の上に胸部や肩、腕に防具を装備し、腰の左側に細剣を吊るしている。軽装備の騎士といった様相だ。


「それだけ防具を着てたら、そっちも大差ないでしょ」


「それもそうですね……今度こそ、本気でお願いしますよ」


 アトラが、真っ直ぐに立ったまま細剣を抜く。シャーンと美しい音が修練場にかすかに響き、全生徒の目がアトラに集まる。数秒もせずに、生徒達のざわめきが大きくなる。「なんだ、あの細い剣」、「あんなのでゆいゆう流が使えるのか?」などの声が貴族達から聞こえてくる。


「アトラスティ様、まさかそのような細い剣で唯勇流をお使いになるのですか!?」


 一人の男子生徒がアトラに質問を飛ばす。


「見ていれば分かります」


 アトラは、それだけを答えて生徒達から視線を外した。覚悟を決めた目をしている。これなら、大丈夫そうだ。


「今回も、怪我をしても泣かないでね」


 ボクも剣を抜く。やはり、手に馴染む。この一年間、毎日のようにこの剣を振り、手入れをしてきた。それどころか、ボクがこの世界に来る前から、三年を通してプロティアがそうしてきたのだ。馴染まないわけが無い。


「両者、構え」


 二人とも剣を抜いたため、フルドムが声を響かせる。


 指示通り、左半身を引き、膝を少しだけ曲げて剣を右手だけで持って正面に構える。対するアトラも、左半身を引いてレイピアをボクに向けて構えている。


 深呼吸をして、集中を高める。


 アトラの実力は、いつも戦っているからある程度は把握している。とはいえ、戦いというものはその最中で成長が起こるものだ。油断は出来ない。


「始め!」


 フルドムの声が響くと同時に、アトラが地面を蹴った。

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