7.盗賊殲滅戦1
森に入って20分後。
フィーレ達と別れ、勇馬達は道なき道を進んで行く。
人の手が全く届いていない森なので、深い茂みの中、背の高い草をかき分けて歩いていくしかない。
地図もなく正確な場所も把握していないが、幸いにもララはとにかくまっすぐ走って逃げたと言っていた。とにかく突き進むのみである。
ララが10分以上は走ったと言っていたことから、子供の足ということを考えても、30分以内には目的地に着く程度の距離だろう。
「止まれ」
先頭を歩いていたティステが歩きを止め、前方を見据えながら手で制止した。
「踏み倒された草花が多くなってきてる。よく通る場所ということだろう。各員警戒しろ、特に木の上に見張りがいる可能性が高い」
「「「了解しました」」」
ティステの指示に隊員の3名が返事をする。
ティステを除いた4人の親衛隊員は、親衛隊の中でも練度も高いエリートだという。そもそも、親衛隊自体が貴族の家のものを多く構成している部隊になり、所属しているだけでエリートということらしい。
つまり、ここにいるのはエリート中のエリートといっていい者達だ。
(そう考えれば頼もしくもあり、気も少し楽になるな)
ティステとリズベットを先頭に、ロインとカインの兄弟が続き、最後尾に勇馬という隊列で進む。
勇馬は時折ブースター越しにホロサイトを覗き、周囲の警戒に当たった。本来なら双眼鏡を使うべきだろうが、軍資金に余裕もないため代わりとしてちょうどいい。
ブースターとは、それを通してホロサイトを見ることで倍率を付加することができる。低倍率のスコープのように遠距離射撃を行いやすくする装置だ。
これはサバゲーをしてた頃からつけており、こちらの世界に来てからも装着されていた。通常、遠距離射撃でないときはブースターを倒してホロサイトのみを使用して照準を合わせている。
「――隊長!」
さらに5分ほど歩を進めると、ティステとともに先頭を歩くリズベットが声を上げた。
「見つけたか? どこだ?」
「正面150メイルほど先の木の上に1人潜んでいます。武器は弓矢を持っているようです」
ブースターを覗き込んで確認すると、確かに木の上に誰かがいる。ここからの距離がおよそ150mほどなことから、1メイルは1メートルで換算して良さそうだ。
しかし勇馬は3倍の倍率で見ているが、この離れた距離を裸眼で、しかも武器まで見えてしまうとはとんでもない視力だ。
「確かに1人木の上にいますね」
「自分達には見えませんね」
「むう……この距離は私では見えんな。さすがリズベットだ。ユウマ様も目が良いのですか?」
「いえ、視力は普通だと思いますけど、これを覗いて見ると遠くのものが近くに見えるようになるんです。見てみますか?」
どうやらリズベットが特別視力がいいだけのようだ。ロイン達兄弟やティステには見えないらしい。
勇馬に促されたティステ達は順番にブースターを覗き込んだ。
「なっ……!? これはすごい……!」
「隊長、自分にも見せてください――うわ、こんな近くに……」
「わ、私もっ」
ティステ達は、自分の目に映るものがブースター越しに見ることによって、実際よりも近く見えることに驚愕した。
こんなものがあれば、リズベットのような視力がなくてもよくなるのだ。もし軍に配備することができれば戦いを有利に進めることができるだろう。だが敵が持っていると考えると、その恐ろしさにティステは戦慄した。
「あ、左に30メイルほどの位置にもう1人いますね。こっちも弓矢を所持してます」
リズベットがもう1人の見張りを発見したようだ。89式小銃を返してもらい、ブースターを覗いて教えてもらった位置を見てみる。
「確かに……この距離なら気付かれていないようですし、こちらからは倒せると思います」
「この距離から当てることができるのですか……!?」
ティステが目を見開いて驚く。
それもそのはず、100メイルも離れれば人どころか馬ですら狙って当てられたものではない。それが、150メイルも離れた距離で人を狙えるというのだ。
つまり、戦において相手に何もさせずに倒すことができると言っているのと同じだ。
(これは何一つ見逃すことなく観察せねば……)
彼女は瞬時に理解し、そう心に決めた。
勇馬の持つ武器が、国の勢力図を簡単に塗り替えることが出来る可能性を秘めているのだと。
「ええ、多分大丈夫だと思います」
もし初弾を外してしまっても、弓と違って連発できるので、すぐに次を撃てばいいだろう。
「……わかりました。では、ユウマ様の攻撃で見張りを倒し次第歩を進める。その後、外に出てきた盗賊をユウマ様の援護のもと各員撃破し、子供を救出せよ」
「「「はっ!」」」
方針は決まった。
勇馬は89式小銃の薬室に弾薬を装填し、セレクターを『タ』に切り換えた。
「ふぅ……」
覚悟を決めていたとはいえ、人を撃つことにはやはり抵抗がある。相手が盗賊とはいえ、人であることに変わりはない。
グリップを握る手に汗が滲む。
とはいえ、ここまできてやっぱり出来ませんなんて言えるわけもない。
勇馬は、銃身に取り付けられている二脚と呼ばれる支持装置を開いて接地させ、伏せの姿勢をとる。
親衛隊員達が勇馬に視線を集める中、神経を研ぎ澄ましレティクルを見張りへと合わせた。
(なんだろう、外れる気がしない)
「いきます……ふぅ――」
勇馬は不思議な感覚を感じつつ、もう1度息を吐いて、トリガーを引いた。
撃鉄が落ちると撃針が叩かれ前進する。前進した撃針は、そのまま弾薬の底にある雷管に当たり、薬莢内の火薬が爆ぜ、弾丸がライフリングに沿って走り出した。
――バスンッ!
サプレッサーによって減音された発砲音と共に、勇馬の初めての対人戦が幕を明けたのだ。
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