56.ギャップ
「馬子にも衣裳とはよく言ったもんだな」
勇馬は衣装に包んだ自分の姿を、『ミリマート』で購入した鏡で確認しながら呟いた。
今日はティステに誘われた夕食会の日で、ララとルル、それとソフィに手伝ってもらい、ドレスコードである衣装を借りて着せてもらっていた。
この世界のものは当然スーツなどではなく、ゆったりとしたいろいろな布地のものを羽織ったりしていて、重ね着していくごとに「らしい」感じになっていった。
「とてもお似合いです」
本当にそう思っているのかと疑いたくなるような表情で、ソフィは勇馬を褒めた。
「ありがとうございます。でも、なんだか普段と違いすぎてちょっと照れくさいですね」
「すぐに慣れるかと思います。ユウマ様はこれからもお召しになることも多いでしょうから、着崩れたときのためにも、着方を覚えておいたほうがいいかもしれませんね」
「多いんですかねぇ」
「貴族様のお付き合いというものはたくさんありますから」
いわゆる付き合いというものがこれから増えてくるだろうと、ソフィは言っているようだった。
(まぁ、言われてみれば今日の夕食会もそうだし、これからはそういったことも増えてくるかもしれないか)
若干めんどくさそうな気は拭えないが、クレイオール家にお世話になっている以上、まったく我関せずというのも無理だろうと、勇馬はある程度受け入れるために、最低限のマナーは覚えようと考えたのだった。
「ユウマ様、とってもかっこいいです! 惚れ惚れしちゃいます! ねっ、ララ!」
「うん、そうだね! とってもお似合いです、ユウマ様」
「え、そうかな? ありがとう、2人とも」
すっかりメイド姿が板についてきた双子の姉妹に褒められ、勇馬自身も「この衣装、意外といいかも?」と思えてきた。
「ユウマ様、そろそろお時間ですのでホールへ向かいましょう」
「おっと、もうそんな時間か。着付けに結構時間掛かっちゃったもんな。行きましょうか」
部屋を出てホールに向かうと、
「あっ、ユウマ」
「遅いよー、ユウマ」
既に全員が集まっており、勇馬待ちの状態だった。
ちなみに、ティステは先に家に戻って出迎える用意をしているため、この場にはいなかった。
「すごく似合ってますよ、ユウマ」
「うんうん、かっこいいじゃん!」
「普段と違う感じがいいですね。すごくいいと思います!」
「ありがとう、3人とも。みんなもドレス姿、すごい綺麗で似合ってるぞ」
フィーレは水色、ルティーナは黄色、莉奈は赤色と、それぞれ華やかに彩られたドレスを身に纏っているのが全員美少女なのだから、似合わないわけがない。
勇馬が素直な感想を口にすると、
「そ、そうですか? 嬉しいです……えへへ」
「ふっふーん、そうでしょうそうでしょう! ボクの魅力にようやくユウマも気づいたか~」
「綺麗、ですか? 普段こんなドレスなんて着る機会ないので自分じゃよくわからないですけど……変じゃないならよかったです!」
女性陣は、それぞれ嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ユウマ殿、無事に着れたようで何よりです」
「キールさん、衣装を貸していただいてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ夕食会にご参加いただけて感謝いたします。我がクレイオール家とフルーレ家は繋がりが深いものですから、1度しっかりとお2人を彼らももてなしたいのでしょう」
「ティステさんが最高の料理をお約束してくれましたからね。楽しみにしています」
「はっはっ、確かにフルーレ家の料理人は腕がありますからな。期待して間違いはありません。では、早速行きましょう」
勇馬達は2台の馬車に分かれて乗り込み、フルーレ家へと向かったのだった。
◆◇◆
「お待ちしておりました。キール様、フィーレ様、ルティーナ様。そして改めましてご挨拶をさせていただきます。フルーレ家当主のルーカス・フルーレと申します、ユウマ様、リナ様」
勇馬達がフルーレ家に到着すると、ずらりとフルーレ家一同が並んで出迎えた。
「ああ、今日はよろしく頼むぞ、ルーカス」
「坂本勇馬です。本日はご招待いただき、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします」
「は、初めまして、水瀬莉奈ですっ! 本日はお招きいただき、ありがとうございます。こういった場は初めてなので緊張していますが、どうぞよろしくお願いします!」
言葉通り、莉奈は少し緊張した面持ちで頭を下げていた。
「妻のウィネットと申します。この度はお忙しい中、フルーレ家にお越しいただきありがとうございます。どうぞ心ゆくまでご堪能していただければと思います」
ウィネットは控えめなドレスを身に着け、ティステによく似た顔立ちをしており、彼女が母親似だということがよくわかった。
「長男のフリオといいます。ユウマ様、リナ様、本日は我がフルーレ家にご足労いただきありがとうございます。ユウマ様、お初にお目にかかります。先の砦でのご活躍お聞きしておりますので、本日はお会いできるのを楽しみにしておりました。リナ様も初めてお会いしますね。どうぞ緊張なさらず、楽しいひと時を過ごしていただければと思います」
フリオはレオンとはまた違った美青年で、もっと落ち着いた性格にして知性を増したような人物だった。
「初めまして、フリオさん。こちらこそよろしくお願いします」
「初めましてっ、よろしくお願いします!」
「次男のレオンです。リナ様にお会いするのは私も初めてですね。よろしくお願いします。ユウマ様、改めまして救っていただいたことと、本日当家に来訪していただいたことへの感謝を述べさせてください。本当にありがとうございます」
そう言って、レオンは深く頭を下げた。
それに伴って、その場にいる全員が頭を下げて、勇馬へ謝意を表したのだった。
「い、いえ、そんなっ……どうか頭を上げてください! 私1人の力でなく、フィーレやルティにティステさん、それにシモンさんも頑張ったおかげですから……」
「やはりユウマ様は素晴らしいお方だ……!」
レオンがきらきらとした瞳で勇馬を見つめた。
彼の中での勇馬像がどんどん膨れ上がり、勇馬は下手なところは見せられないとプレッシャーを感じるのだった。
「ティステです。本日はありがとうございます。皆様が少しでも癒される時間となっていただければ、嬉しく思います」
そう言って、軽く頭を下げるティステは、いつもとはまったく違う印象だった。
少し緑がかった綺麗なドレスを身に纏い、柔らかい微笑みを携えた彼女は、騎士ではなくまさに貴族令嬢といった様子だ。
勇馬もクレイオール家で女性陣の綺麗なドレス姿を見てきたが、いつもと違うティステのギャップに、思わず黙って見とれてしまった。
「……ユウマ様? どうかしましたか?」
「――はっ! あ、いや、いつもと違うティステさんのドレス姿がすごく綺麗で、ちょっと驚いちゃって……」
「へ!? き、綺麗……ですか?」
「すごく綺麗だと思います!」
「ええ、とても似合ってるわ。あまりティステのドレス姿を見ることはないから、いつ見ても新鮮ね」
「悔しいけど……ティステのドレス姿は映えるなぁ」
そのドレス姿を見た面々の言葉に、
「い、いえ、そんな私は……」
ティステは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ふむ……我が娘ながら器量もいいですし、騎士としての腕も確かです。最近ではユウマ様の護衛もなさっていますし、いかがでしょう、ユウマ様の――」
「ルーカス、話は食事の時ではどうかな? 私も腹が減ってしまってな」
キールは何かを察し、ルーカスの話を遮るように割って入った。
このまま話を続けたら、非常にマズいことになると……。
「おっと、これは申し訳ありません。ではご案内いたします」
ルーカスはそんなことに気づくこともなく、勇馬達を連れて歩き出すのだった。
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『アラサーから始まる異世界無双ライフ 〜スキル『シャドウマスター』は最強でした〜』
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チートスキルを授かうも役に立たず、おっさんになってから覚醒する物語です!
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