48.視線を独り占め
騎乗訓練を終えた勇馬達は、昼食の後、冒険者組合に向かった。
人数は全部で6人、本来ならばフィーレやルティーナといった領の重要人物のために人数をかけるところだが、さすがにこれ以上は多すぎるのでよしとしてもらった。
戦力的には、砦を奪還した時の面子よりも強力なはずなので、問題ないだろうとキールも了承したのだった。
「実はここに入るの初めてなんです。わっ、人がいっぱいですね」
「ホントだねー。ボクも初めて来たけど……ここって男の人ばっかりじゃない?」
ルティーナが言うように受付嬢を除けば、室内にいる女性はここにいる彼女達だけだった。
「言われてみればそうだな。これまで気にしたことなかったけど、よく考えたらこれまで女性の冒険者って見たことないな。もしかしたら、結構珍しいのかな?」
「実はそうなんですよ! 軍の兵士もそうなんですけど、あまり女の人っていないんです。私も長いこと冒険者やってますけど、隊長の他には数人しか知り合いがいないですし」
「確かにそうだな。私も普段冒険者として活動する時に、私1人だけ女ってこともよくあるからな。前回はユウマ殿やリナと組んで依頼を受けたが、基本1人で行動するほうが多かったくらいだ」
「へー、リズさんでもそんなに知り合い少ないのか。まぁティステさんは2級で格上だし、周りの冒険者のほうが畏怖して引いちゃうかも?」
「そ、そんなことないぞっ! 私は誰かに迷惑かけたこともないし、いつも依頼を見るときだって控えめに後ろから大人しく見ていたんだぞ!」
「いや、それ余計に威圧感を与えてるんじゃ……」
どうやら、ティステは無自覚に孤立するような行動を取っていそうだった。
勇馬がそんなことをティステやリズベットと話していると、フィーレとルティーナがなぜか口をあんぐりと開けていた。
「2人ともどうかしたのか? 面白い顔してるぞ?」
「べ、別に面白い顔なんてしてませんっ! そうじゃなくて、なんだかいつの間にティステやリズとも自然に接してるなって……」
「そうそう、少し前まではもっと『主従の関係』って感じだったのに。ユウマってもしかして……女たらしなの?」
「まったくの濡れ衣だ」
『人がいないところ』という条件で、フランクに勇馬と莉奈に接するようになったティステとリズベットだが、最近の癖でフィーレ達の前でもそうしてしまった。
「も、申し訳ありません。つい……」
「まぁもう、ここにいる面子は俺と莉奈がどういう存在かも知ってるし、いちいち接し方変えるのも面倒だから常にそれでいいでしょ」
「私もそれでいいと思います」
「それもそうですね。ティステ、なんなら昔みたいに接してくれてもいいのよ?」
「フィ、フィーレ様っ」
悪戯っぽく笑うフィーレに、ティステは困ったようにあたふたしていた。
「ははっ。おっ、アリエッタさんが手を振ってる。さっそく2人の冒険者登録を済ませに行こうか」
勇馬がそう言って受付に向かう後ろでは、
「……フィーちゃん、ユウマがまた新しい女の人と仲良さそうにしてるんだけど」
「……そうね。ユウマを野放しにしてると、どんどん周りに女の人が増えていく気がしてきたわ」
などと会話をするフィーレとルティーナに、莉奈は苦笑いを浮かべるのだった。
「――こんにちは、アリエッタさん」
「こんにちは、ユウマさん。今日はいつもより女の子多いですね……というか、ユウマさんここに来るたび連れてくる女の子増えてません?」
「え、そうですっけ? ただ新しく冒険者登録したいって言うので連れてきただけで、深い意味なんてないですからね」
だが、アリエッタに言われてみればと勇馬は思い返すと、確かに最初はティステと2人だけだったが、そのうち莉奈とリズベットが増えて4人に、そして今日はフィーレとルティーナが追加されて6人の大所帯となっている。
(……うん、そう考えればアリエッタさんが苦笑いを浮かべるのもわかるな)
「まあ、冒険者組合としては、女性の冒険者が増えるのは喜ばしいことだからいいんですけどね。登録される方はそちらのお2人ですか?」
「はい、彼女達です。それにしても、やっぱり女性の冒険者って少ないんですか?」
「そうですねぇ、どうしても冒険者ってなると討伐や護衛依頼なんかが多いので力の強い男性が多くなってしまいますね。でも、依頼としては他にも採集や清掃業務なんてものもあったりするんです。結局のところ、冒険者って『何でも屋』という側面もありますからね」
「へー、そうなんですね。あまり見かけないですけどそういう依頼もあったんですね。――2人は戦うものよりもそういうのがいいんじゃないか?」
「確かにそれも大切な依頼ではありますけど、私はやっぱりユウマと一緒に魔物なんかを倒してみたいです」
「ボクもフィーちゃんと同じかなぁ。やっぱり冒険者っていうと、その印象が強いしね!」
「俺は討伐だけじゃなくて採集とかでも一緒に手伝うけど……まぁでも言ってる意味はわかるよ。やっぱ冒険といったら戦うことだもんな!」
勇馬の想像する『冒険者』というものはゲームなどによる影響が大きいともいえるが、実際冒険者組合でも人気なのはそういった依頼で、報酬がいいのもそれだった。
「組合としては人手が増えるのは大歓迎ですから、お好きなもの、そして何より自分の実力に見合ったものを受けていただけるのが最もたすかります。ですから、無理はしないでくださいね?」
「はい、わかりました。申し遅れました、私は『フィーレ』といいます。アリエッタさん、今後もよろしくお願いします!」
「ボクは妹の『ルティーナ』だよ! よろしくねっ!」
「アリエッタです、お2人ともよろしくお願いいたしますね。ふふっ、この冒険者組合にも少しずつ女の子が増えてきて嬉しいです。男性ばかりだとどうしても荒事なども多いですので……」
アリエッタがちらっと周りに目を向けたので、それに釣られて勇馬も少し周りを見渡した。
どうやら彼女達はいろいろと注目を集める存在のようで、冒険者の男達からの視線を独り占めしていた。
その視線は様々で、勇馬を羨んでいたり嫉妬するような視線もあれば、彼女達を物色するように見たり、ひそひそと仲間内で話ながら様子を窺ってよからぬことを考えていそうなものまであった。
勇馬は「何もなければいいけど……」と心の中で願うも、その可能性は低そうだなと思うのが正直な感想だった。
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