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44.異世界デビュー

「本当にありがとうございました。これでなんとか冬を越せそうです」


「領主様には私から報告しておこう。そうすれば、税の免除とまではいかずとも、考慮していただけるはずだ」


「ははっ、ありがとうございます!」


 勇馬達がヘビーボアを討伐した翌日、村を出発しようとすると、村人が見送るために入口に集まっていた。

 夜中に何発もの銃声が村中に響き渡ったせいで、彼らの何人かは寝不足といった目をしていたが、それでもこの冬を脅かす魔物がいなくなったことで穏やかな笑みを浮かべていた。

 とはいえ、村の半分以上の畑を荒らされているため、彼らにとってはここからも死活問題なことに変わりはない。だからこそ、ティステの提案はこの村を助けるものになるに違いない。


(俺も帰ったらキールさんに話してみるか)


 勇馬は、あまりよその事情に首を突っ込むのはよくないとも思ったが、目の前で飢える可能性がある人達がいるのなら見て見ぬ振りもできないなと、伝えるだけ伝えてその後の判断はキールに任せればいいと考えた。


「ユウマ殿、それではこのまま街に戻るでよろしいか?」


「そうしよっか。2泊もしちゃったし、今日中には戻らないとな」


「だな。あまり2人を連れまわして遅くなると、私が怒られてしまうからな」


「んじゃ、そうならないようにちゃっちゃと帰りますかね」


 来た時と同じように馬に乗り、街に向かって走り出す。


「……そういえば、リズさん大分へこんでたけど、もう大丈夫?」


「あれは自業自得だ。同情の余地なしだぞ、ユウマ殿? それに、あのアホはその程度ではへこたれんよ。ほら、見てみろあのアホ面を」


 勇馬がリズベットを見ると、彼女はティステの言う通りもう気にした様子もなく、笑顔で村人に手を振っていた。

 結局朝まで寝っ放しだったリズベットは、ティステにこれでもかというくらいに怒られていた。端から見ていた勇馬と莉奈も、その時ばかりは軍人らしいティステの形相に恐怖したのだった。


 ある程度勢いが衰えたところで勇馬が「その辺にして朝食にしよう」と助け舟を出すと、涙目のリズベットが「ユウマさん~!」と一瞬のスキを見逃さず勇馬の後ろに隠れるのだった。

 当然、それがティステの火に油を注ぐハメになったのだが、莉奈も「まぁまぁ、無事解決しましたし、きっとリズさんも疲れてたんですよ」とフォローし、なんだかんだチョコバーを食べてティステの機嫌は戻ったのだった。


「……うん、確かに元気そうだ」


「だろう? あれくらい叱らんとあいつには効かんのだ。……いや、それでも効いてないともいえるが」


 勇馬は、莉奈と楽しそうに会話をするリズベットを見て、「ある意味大物だな」と思うのだった。



 ◆◇◆



「はぁ~、やっと着いたーっ!」


 リズベットが嬉しそうに声を上げると、すかさず「お前は何もしてないだろうが!」とティステがお叱りを飛ばしていた。


「まぁ、リズさんの気持ちもわかるよ。俺もティステさんの後ろに乗ってるだけだけど、やっぱり疲れちゃうもんなぁ。莉奈はどう?」


「行きほどではないですけど、やっぱり疲れましたね……」


「だよなぁ。もうちょっと移動に関してはどうにかしなきゃな。とりあえず、屋敷に戻る前に冒険者組合に寄ってこうか?」


「ユウマ殿とリナがよければ我々は構わないぞ」


「え? 私は早く横に――」


「ん? 何か言ったかぁ?」


「い、いえっ、なにも!」


「よろしい」


 半ば強引ではあったが賛成してもらえたため、勇馬達は冒険者組合に移動した。


「――あら、ユウマさん達戻られたんですね」


「ええ、たった今着いたところなんです。へとへとなんで、早速なんですけど魔物の査定と依頼達成の確認お願いできますか?」


「はい、もちろんです」


 アリエッタの指示でカウンターの上にヘビーボアの牙を置いていく。

 討伐証明として回収した部位だが、他にも村人に協力してもらって毛皮も剥いでもらったので、それらも並べていく。

 ちなみに、肉も食べることは可能なのだが、持って帰るのが大変だったため村に置いてきた。作物が減っていることもあり、村人には大いに喜ばれた。


「わっ、結構な量ですね。何体いたんですか?」


「全部で10体ですね」


「10体!? これってヘビーボアですよね!? それだけの数を同時に相手するのはかなり危険だと思うんですが……」


「そうなんですか? あ、いや、全員で協力してなんとか倒せたんですよ」


「それでもたった4人で倒すなんてすごいです! 5級になったばかりなのに、ユウマさんとリナさんは才能がありますね!」


(本当は2人で倒したんだけどな……)


 リズベットは3級らしいのだが、ティステとともに今回はまったく戦いに参加していない。なんなら、10体の内、9体は莉奈が1人で倒しているのだ。

 あまり正直に言っても変に目立つだけだろうし、とりあえず誤魔化しておくことにした。


「2級のティステさんと3級のリズさんがいますからね。2人のおかげですよ、ははっ」


「あー、そういえばそうですね。2級と3級の方とご一緒できるなんて、ユウマさん達も運がいいですよ!」


「そうですね、彼女達には感謝です」


 後ろでは、ティステにジト目で見られているリズベットが素知らぬ顔でそっぽを向いており、その様子を莉奈が苦笑いしながら見ていた。

 依頼報酬と素材の買取で、計80万リアにもなった。依頼報酬は20万だったが、素材の牙が1つ3万リアにもなり、10体分のため60万リアとかなりの額だ。

 そのせいか、若干周りの視線を集めてしまったため、勇馬達はそそくさとその場を後にするのだった。


「せっかくだし、帰りがけに市場でも寄っていこうか。莉奈はまだ行ったことないし、報酬で結構な額入ったから初討伐記念に何か奢ってあげるよ」


「ほんとですか!? やった!」


 勇馬がそう言うと、莉奈は年相応に喜んだ。

 日本で普通の女子高生をしてたのに、この世界に急に迷い込んでしまった莉奈。勇馬は、少しでも不安な気持ちが紛れればと、気分転換に誘ったのだった。


「しかしユウマ殿、本当に私達も報酬を受け取っていいのだろうか? ヘビーボアも2人で倒してしまったし……本当に気にしなくていいんだぞ?」


 報酬の80万リアはきっちり4等分し、1人20万リアの取り分となっていた。勇馬も莉奈も日本人気質なところがあり、できる限り揉め事を起こしたくないこともあって、等分することに不満はない。

 だが――、


「あのぅ、さすがに私も何もしてないのにお金だけ受け取るのはどうかと……」


 ティステだけでなくリズベットでさえも、戦っていないのに報酬を受け取るのは抵抗があるようだった。


「まぁ、そこに関しては俺も莉奈も納得してるところだから、気にしなくてもいいよ。それに、戦ったのは確かに俺と莉奈……といってもほとんど莉奈だけど、逆に言えばそれ以外は協力してもらってるしさ。まったく手伝ってもらってないってわけじゃないからね」


「そうですよ! お2人がいなかったら困ることもたくさんあったと思いますから!」


「ユウマさぁん……リナちゃぁん……!」


 リズベットは、勇馬と莉奈の言葉に感動したように目を潤ませた。


「……すまないな、2人とも。ありがとう」


「どういたしまして。それじゃあ市場に行ってみようか」


 勇馬達は市場へと向かうのだった。



 ◆◇◆



「わぁ、すごい賑やかですね!」


 莉奈は初めて見る光景に、小さな子供のように目を輝かせていた。

 市場は、以前勇馬が来た時のように人も多く活気があった。


「だな。莉奈はどんなお店に行ってみたいんだ?」


「うーん、むしろどんなお店があるんだろう? 日本とは違いますもんね」


「そうだなぁ……あっ、でも、女の子が好きそうな店はあったぞ? フィーレやルティーナに連れてってもらった店だけど、莉奈も行ってみるか?」


「はい、行ってみたいです!」


 勇馬が莉奈を連れて行ったのは、以前姉妹に連れてこられた雑貨を扱う店だ。


「――可愛らしいものがいっぱいありますね。フィーレちゃんとルティちゃんが気に入るのも納得です」


 莉奈は棚に並べられた小物を楽しそうに眺めていた。


「そうなんだよな。かなり細かく彫ってるし、結構愛らしい顔してるしね。アクセサリーなんかも扱ってるから、女子人気は高そうなんだよな」


「アクセサリーですか……」


 莉奈は、小物の棚からアクセサリーの並んだ棚に目を向けた。

 アクセサリーとはいっても、実にシンプルなもので、紐に少し綺麗な石がついているネックレスのようなものだった。


「綺麗……」


 だが、そんなものでも莉奈の目には綺麗に映ったようで、1つのネックレスをまじまじと見つめていた。


「それ、気に入ったのか?」


「え、あ、なんだかすごく綺麗でかわいいなって……」


 そのネックレスは5万リアと、この世界ではかなり高価な部類だった。

 だが、勇馬は「じゃあ、それを買ってあげるか?」と、莉奈に提案するのだった。


「え!? でも……高いんじゃないですか?」


「5万リアだからそれなりにはするけど、今回は俺もほとんど何もしてないし、前回討伐した報酬もあるから大丈夫だよ。せっかくの初討伐だし、異世界デビューの記念だな」


「……本当にいいですか?」


「ああ、男に二言はなし!」


「ふふっ、じゃあこれでお願いします」


「はいよ」


 勇馬は、莉奈が一目惚れしたネックレスを手に取った。

 それを後ろから眺めるティステは「……ユウマ殿には困ったものだ」と言い、「私、知らないですよぉ……」とリズベットはぶるりと身体を震わせるのだった。

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