41.ナイスショット!
「本当に酷いですね……これじゃ冬を越せないって言ってた意味もわかります」
莉奈が悲しそうに言った。
彼女の言う通り、せっかく目の前には広大な畑が広がっているというのに、まともな作物がまったく残っていない。村人のショックは相当なものだろうと容易に想像がつく。
「足跡があるな。結構大きいように見えるけど……ティステさん、これってなんの動物かわかる?」
「ああ、この形とこの大きさは1つしかないな。――『ヘビーボア』だ」
「「『ヘビーボア』?」」
初めて聞く名前に、勇馬と莉奈が同時に聞き返す。
「ヘビーボアとは、魔物の『ボア』の上位種のことを言うんですよ。あ、ほら、リナちゃんが襲われてユウマさんが倒したグレートウルフ、あれもウルフの上位種なんで、あんな感じですよ」
「え、じゃあこのヘビーボアも大きいの?」
莉奈はグレートウルフが少しトラウマになっているのか、リズベットから『あんな感じ』と聞かされ、少し引き攣った表情を浮かべた。
「うん、大きいよ? グレートウルフと同じくらいかな。でも、強さ的にはヘビーボアのほうがグレートウルフより弱いんだけど――」
リズベットは荒らされた畑を見渡し、
「――数がねぇ、多いのさ……はぁ」
と、うんざりした顔を隠すことなくため息をついた。
「言われてみれば、これだけ広い畑を荒らすとなると1匹2匹じゃ収まらないかもしれないか。いくらグレートウルフより弱いといっても、数が多いなら危険な気がするなぁ」
「その認識で間違ってない。むしろ、これまで作物だけの被害で済んでいるのは運がいいとすら言えるかもしれないな。いやまあ、彼らには言いづらいが……」
「なんにせよ、昨日話してたように夜通し見張るのがいいのかな」
勇馬はあの後、監視カメラや罠の設置も考えたが、結局のところ駆除するのであれば手っ取り早く弾丸をばら撒いたほうが早いと思い直した。
そして、そこに莉奈が手伝ってくれれば、より効率的に対処できると思われた。
「そうだな。もし夜通し見張るのが辛いようだったら、リズと私だけでやるが……」
「いや、それじゃ意味ないでしょ。見張りなら交代ですればいいんじゃないかな? それか、縄と音が鳴るものを仕掛けるとか。そうすれば、ヘビーボアが畑に侵入したときにわかるし、それから対処するでも間に合う気がするけど」
「あ、それいいですね! そうすれば寝て待ってられるし、何かあれば飛び起きればいいですもんね! そうしましょう、隊長!」
リズベットは、我先にと勇馬の案に賛成の意思を表明した。彼女としては夜に寝ずの番をするよりも、少しでも寝ながらヘビーボアがやってくるのを待ち伏せするほうが断然よかった。
「お前はまったく……だが、確かにユウマ殿の言う方法でいいかもしれんな。無事な畑の周りに仕掛けて、それが鳴り次第起きて対処するとしよう」
ティステの理解も得られて、リズベットは実に嬉しそうにしていた。
「あ、そうだ。ちょっとそのために莉奈と一緒に準備したいことがあるから、後をまかせてもいいかな?」
「ああ、構わない。後のことは村長にも伝えて村人にも手伝ってもらおう」
「ありがとう。莉奈、ヘビーボアと接触する前に、1度しっかりと戦える準備をしよう」
「わ、わかりましたっ」
「ティステさん、ちょっと銃を使うから、危なくないように少し村から離れようと思うけどいいかな?」
「まぁ、あまり遠くへ行かなければ……何かあったらすぐに教えてほしい」
「了解、それじゃ行こうか」
「はい!」
勇馬と莉奈は村を出て、近くの林に移動するのだった。
「――ここなら多少音が出てもいいだろうし、人に間違って当てちゃう危険もなさそうかな。さっそくだけど、能力について話したいと思うんだ」
「能力、ですか?」
「そう。異世界物のアニメとか漫画とか小説って見たことあるかな? そういう物語の中だと、定番的な『チートスキル』みたいなもんなんだけど……」
「え!? 勇馬さん、チート使えるんですか!?」
「おぉ!?」
莉奈は『チートスキル』という単語に、顔を急激に勇馬に近づけて食い付き、興奮気味に聞き返した。
「勇馬さんのチートってどんなスキルなんですか!? やっぱりサバゲーに関するものなんですかね? それともまったく関係ない勇者とか賢者的なものなんですか? それかもっと全然『こんなの役に立たねぇ!』みたいなスキルとか!? あー、でも、どんなスキルでも使えたら嬉しいですよね! 私も子供の頃からそういった異世界物が大好きで、ずっとそういうの憧れてたんです! あっ! ということは、私にも何かチートスキルがあったり!? いったいどんなのが――」
そのままひとしきり喋り倒した莉奈は、
「――ご、ごめんなさいっ!!」
ようやく我に返ったところで、勇馬に頭を下げた。
「ははっ、いいよいいよ。莉奈の異世界物に対する気持ちは十分伝わったからさ。それにしても、こんなに饒舌に話すなんて思わなかったから、ちょっと意外でびっくりしたよ」
「うぅ、恥ずかしい……」
莉奈は赤くなる顔を手で覆って隠した。
「まぁでも、そんだけ夢中になるものがあるってのは悪いことじゃないと思うよ? それに、俺だってそういうアニメとか見たりしてたし。だから、魔法が使えないって知ってショックだったなぁ……」
「え!? 魔法使えないんですか!?」
勢いよく顔を上げた莉奈は、勇馬がフィーレに魔法について聞かされた時のように、衝撃を受けた顔をしていた。
「ああ、限られた『血』を受け継いだ人にしか使えないらしいんだ。だから、この世界からすると異世界から来た俺達は、どうやら使うことができないみたいなんだ」
「そ、そんな……っ!」
明らかにショックを受けた顔をする莉奈に、「うんうん、気持ちはわかるよ」と、勇馬は同情の言葉を掛ける。
やはり、日本人という同じカルチャーを学んできた者にとって、魔法を使えないということはかなりのマイナス要素のようだった。
「ま、その代わりにチートなスキルがあるんだけどね」
「そ、それはどんな……?」
興味津々といった様子の莉奈に、
「俺のは『ミリマート』っていうショップサイトを利用することができるんだ。つまりどういうことかっていうと――」
勇馬はその内容を説明してあげたのだった。
「すごい! まさしくチートスキルじゃないですか! しかも撃てば100発100中って……それ、この世界に勇馬さんに勝てる人いないんじゃないですかね?」
「どうだろう? まぁかなりの優位性はあるとは思うけど、身体は別に強化されてるわけじゃないしね。矢が当たれば怪我するだろうし、剣で首を刎ねられれば死ぬと思うよ」
「まぁそれは……とはいっても、十分すぎるほどのチートですよ。私も狙ったところに当てれたりするのかなぁ」
「実はそれを試してみたかったんだよね。さっそくだけどやってみようか」
「はい!」
莉奈のM24にバイポット取り付け、うつ伏せになってターゲットを決める。
スコープを覗いて1000mほど離れた位置にある、人の頭程度の大きさの石をターゲットとし、莉奈に撃ってもらうことにした。
(この距離を、ただのサバゲーマーの女子高生が当てるのはそう簡単なことではないはずだ。でも、もし当てることができたのなら――)
「勇馬さん、撃ってもいいですか?」
初めて本物のライフルを構えているというのに、勇馬には彼女がやけに落ち着いているように見えた。
そう、それは勇馬が89式小銃を構えているときと同じように――。
「ああ、いいよ」
「……なんか不思議な感じです」
「というと?」
「なんていうか――当たる気がするんです」
勇馬は確信した。
彼女にも自分と同じ能力が授かっているのだと。
「いきます――」
バァンッ! という大きな音とともにライフルが反動し、莉奈の身体が揺れる。耳栓をしているとはいえ、一斉に木から飛び立つ鳥からも、相当な大きさの発射音であることを物語っていた。
「勇馬さん」
「どうだった?」
勇馬は双眼鏡も持っていないため、弾着の確認をすることができない。
だが、彼女の顔を見て、その必要はないとすぐに理解した。
「――当たっちゃいました!」
あふれんばかりの笑顔で喜ぶ莉奈に、勇馬は「ナイスショット!」と声を掛けるのだった。
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