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36.初討伐

「え!? 冒険者っていたの!?」


 クレデール砦から領主邸に戻った次の日の朝、勇馬は朝食後にフィーレ、ルティーナ、ティステ、フラン、そしてララとルルの2人と歓談していると、思わぬ情報を得られた。

 どうやら、この世界にはファンタジー世界定番の『冒険者』という職業が存在しているらしい。ワクワクするような言葉の響きに、勇馬は驚きつつも興味津々だった。


「はい、いますよ。でも危険な職業だし、わざわざユウマに教えるほどでもないかなと、この間街に行ったときは『組合』には連れて行かなかったんです」


「えぇっ、それは是非とも教えてほしかったなぁ、フィーレ」


「冒険者に興味あるんですか?」


「それはまあ、俺も男だし……でも、冒険者がいて危険な職業ってことは、もしかして魔物とかがいるってこと?」


「あ、そういえば話したことなかったですね。ユウマと初めて会ったときに倒してくれたウルフも、実は魔物だったんですよ?」


「そうだったんだ……ま、そりゃそうだよなぁ。魔法があるんだし魔物がいてもなんにもおかしくないはずだよな」


 よくある異世界物語としては、冒険者になることが1番初めの展開だが、勇馬の場合はそれを一足先に飛び越えてしまった形だった。

 勇馬が「ここは原点に立ち返るべきか」などと考えていると、


「ん、どうかしたか? ルティ」


 ルティがジッと勇馬のことを見つめていた。若干訝しげに。


「怪しい……」


「へ?」


 ルティーナがぽつりと呟く。


「なーんか、ユウマとフィーちゃんの仲が良くなってない? お互い名前を呼び捨てなんてしちゃってるし。少し前まではそんなことなかったのに」


「いや、別に仲いいことは悪くないだろう」


「なんていうか、『何かあったのかな?』って感じるんだよねぇ。ティステもそう思わない?」


「確かに、ルティーナ様の言っている意味もわかります。まるで――だ、()()()()になったかのような……」


「――っ!? ゲホッゲホッ!!」


「っな!? ティ、ティステ! あなた何言ってるの!?」


 ティステの思わぬ指摘に、勇馬は飲みかけていた茶が変なところに入ってむせ、フィーレは顔を真っ赤にして糾弾する。


「ふーん、これはじっくり取り調べる必要があるなぁ……」


「ルティーナ様、ルルもお手伝いします! ララも手伝ってね?」


「え!? う、うん」


 ルティーナが目を光らせて呟くと、ルルがそれに乗っかり、ララは思わず返事をしてしまった。


「だから別に何もないって……な、フィーレ?」


「……何もではないですけど」


「フィーレ!?」


 拗ねたようにぷいっとそっぽを向いて否定するフィーレに、勇馬は意味がわからず困惑の声を上げる。

 彼女としては、砦で2人で話したあの夜の時間は特別なものと感じており、それを『何もない』とすることなんてできなかった。

 もちろん、勇馬の思考はそんなフィーレの思いにまでたどり着くことはできなかったが……。


「ユ~ウ~マ~~!!」


 ルティーナとルルが手をワキワキさせながら勇馬に近づく。ララも2人の動きを見習って、ぎこちなくマネをしていた。


「い、いや、嘘じゃないって! ちょ、やめ――あああああぁぁっ!?!」


 その後、洗いざらい吐くように、勇馬は延々とくすぐり地獄を味わう羽目になったのだった。



 ◆◇◆



「まったく、酷い目にあった……」


 勇馬は自室のベッドに腰かけ、大きく息を吐いた。


「ユウマ様が誤解されるような行動取るからいけないのですよ?」


「ちょっと、ルルってば!」


「誤解ねぇ……」


 どっちかといえば勇馬よりもフィーレに問題があったように思えたが、ルルからすると勇馬のほうが問題だったようだ。


「それより、ユウマ様はこの後『冒険者組合』に行かれるんですか?」


 冒険者組合とは、先ほどフィーレとの話に出てきたもので、冒険者を管理したり、依頼の受注や発注、報酬の受け渡しなど要するに冒険者『ギルド』と置き換えるとわかりやすい。

 あれから誤解が解けた後、勇馬はどうしても気になったので、ティステと2人で冒険者組合に行くことになったのだ。

 フィーレやルティーナも当然一緒に付いていこうとしたが、フランに『本日はお仕事があります』と言われてしまい、今日は家から出ることができないようだった。


「そうだね。ティステさんが案内してくれるそうだし、1度見に行ってくるよ」


「では、ララとルルも一緒に連れて行ってください!」


「え?」


 勇馬が話を詳しく聞くと、フィーレ達に街へ連れて行ってもらったときやクレデール砦に滞在したときは彼女達は一緒に行けず、かなり落ち込んでいたそうだ。

 それもあってか今回こそ同行したいようだったが、


「――だめですよ。あなた達にはまだまだ仕事があります。ユウマ様にご迷惑を掛けてはいけません」


「はい……」


「はぅ……」


 彼女達の上司にあたるソフィに窘められ、あえなく撃沈するのだった。



 ◆◇◆



 冒険者組合は、市場を抜けて大きな通りに面したところにあり、周りの建物よりも少し大きかった。

 勇馬はいつものようにティステの後ろに騎乗し、組合の前で馬を降りた。


「ここが冒険者組合ですか。そういえば、ティステさんは来たことがあるんですか?」


「はい、あります。軍と組合は持ちつ持たれつの仲ですので、私も冒険者としての資格を持っています」


「へー、そうだったんですね」


「ちなみにこれがその証です」


 そう言って、ティステは胸元からプレートを取り出した。それは紐で繋がれており、彼女の首に掛けられていた。


「えーと、これは数字でしたっけ?」


「はい、『2』とここには刻印されています」


 青銅製のプレートには、異世界の文字で数字が刻印され、裏面にはティステの名前が彫られているそうだ。それが意味するものは持ち主の『等級』、要するに冒険者ランクで、ティステは『2級』ということになるようだった。


「ちなみに何級から何級まであるんですか?」


「下が5級から始まり、上が1級となります」


「うぇ!? 2級だなんて、すごいじゃないですか!」


「い、いえ、それほどでも……休みの日などを利用して、鍛錬する意味で依頼をこなしていたらいつの間にかなっていました」


 ティステは少し照れたような笑みを見せた。


「いやいや、それならなおさらすごいですよ。合間に依頼をこなして2級までくるなんて、結構すごいことなんじゃないですか?」


「どうでしょう? ただ、3級までが多く、それより上はあまり見ないかもしれないですね」


「ほらぁ、やっぱすごいじゃないですか。とりあえず、ベテランのティステさんがいれば安心ですね」


「いえ、そんなことは……でも、冒険者としてはいろいろ知っておりますので、私にお任せください」


 そう謙遜しつつも、ティステは満更でもなさそうな顔で頷いた。

 勇馬達は組合の中に入り、まずは受付に向かう。そこで冒険者として登録するようだ。


「すまない、このお方の冒険者登録を行いたいのだが」


「いらっしゃいませ、冒険者登録ですね。私はアリエッタと言います。早速ですが、こちらに必要事項をお書きください」


 受付嬢のアリエッタは羊皮紙と羽ペンを渡してくるが、あいにく勇馬はまだ字が書けない。最近ようやく、少しずつ読める字も出てきた程度だ。


「ユウマ様、代筆いたします」


「すみません、お願いします、ティステさん」


 勇馬がどうしようかと困っていると、事情を知っているティステが助け舟を出してくれた。


「これでいいだろうか?」


「はい、えーと……ユウマ? さんでよろしいですか?」


「はい、そうです」


「では、初めは皆さん5級からとなりますので、冒険者証をご用意しますね」


 アリエッタはそう言って奥に一度下がり、羊皮紙を渡して戻ってきた。


「出来上がるまで少々お待ちください。それまでの間に、冒険者についてのご説明は必要ですか?」


「いや、その点については私から説明しよう。それより、今はどんな依頼がある?」


「そうですね……基本的にはいつも通りといったところなんですが、実は、近頃魔物が増えていて困っている方が増えているんです」


「ほう」


 ティステはアリエッタの言葉に頷く。


「魔物は普段そんなにいないんですか?」


「そうですね。いつもは魔物退治だけじゃなくて他にもいろいろ依頼はあるんですけど、今はいつも以上に増えています」


「何か理由はあったりするんですか?」


「いえ、それがわかれば1番いいんですが、どうしてそうなっているかも不明なんです」


「それは……困ってしまいますね」


「はい。ですから、是非積極的に魔物討伐をお願いしますねっ」


 にこっと見事な営業スマイルをアリエッタは見せるのだった。

 そのうちに冒険者証が出来上がり、勇馬達は依頼書が貼られている掲示板から依頼を受注して組合を出た。受注のシステムとしては、掲示板に貼ってあるものを受付に渡し、後は依頼をこなしてくるだけだ。

 今回勇馬達の受けた依頼は「グレートウルフの討伐」で、当然このグレートウルフは魔物にあたる。


「――そのグレートウルフがこの森にいるんですか?」


「はい、目撃情報ではそうなっていますね。以前、ユウマ様に助けていただいたときに襲われたのもウルフでしたし、この森には多くいるのかもしれません」


「ああ、そういえばあの時も結構な数いましたね」


「ええ、それをすぐに倒してしまうユウマ様はさすがとしか言いようがありませんが」


「まぁ、それは武器性能のおかげとも言えるかなぁ」


 勇馬達は、初めて出会った森にまで足を運び、討伐対象のグレートウルフを探した。

 ティステが言うには、見つからずに1日が終わるなんてことも多いため、そこに関しては運次第のようだった。


 ガサササッ!!


「――ティステさん!」


「いきましょう!」


 森の中を大きな影が猛スピードで走り抜けた。

 勇馬達は、慌ててその影を追いかける。


(騎乗、やっぱできたほうがいいな……)


 馬に乗れないため勇馬はティステにくっついているが、やはり1人で乗れたほうが動きやすいだろうと、勇馬は心の中で今後練習しようと決心した。


「いました! ――あっ、人が襲われています!」


 遠目に、グレートウルフに体当たりされた人が、木に叩きつけられているのが見えた。


「ティステさん、止めてください! 降りて撃ちます!」


「はい!」


 馬を急停止させ、勇馬は飛び降りると同時に89式小銃を手に『召喚』させる。

 ホロサイトのレティクルを巨大な頭に合わせ、


『グルルッ!!』


 振り返ったグレートウルフが牙を剥き出しにするのと同時に、引き金を引いた。

『レ(連発)』を選択された89式小銃は、何回も撃針(ファイアリングピン)で次から次へと現れる新しい弾薬の雷管(プライマー)を叩き、軽快に走り出した弾丸がグレートウルフに突き刺さっていく。

 ほとんど声を発することさえできず、グレートウルフはその場に倒れ、絶命するのだった。


「大丈夫ですか!?」


 勇馬が大きな声を掛けながら吹き飛ばされた人物の下に駆けつけると、


「――え?」


 そこにいたのは黒い髪をした女の子で、気を失う直前に一瞬だけ目が合ったその顔は、勇馬と同じ日本人にしか見えなかったのだった。

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