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1-2.(3)

「そういえば、学部どうするの?」


 思いついて、菫は質問を変える。

 もうすぐ、高校の進路希望調査票の提出締め切りだ。


「んー、まだなんにも」


 のんきな声で答えたリオに、


「……そっか」


 つられて菫もトーンダウンした。


「まあリオなら、別に付属じゃなくても選び放題だもんね」


 成績優秀なリオなら、たとえ外部受験するとなっても、どの大学でも余裕で合格だろう。


「KIRIYAの経営のために、経営学部とか?」


 思いついたまま口に出すと、


「そういうわけでも」


 リオが目をそらした。


「父さんたちは、好きなことしろって」

「へえ」


 菫は目を見開く。

 リオのひいおじいさんが興した会社を、二代目社長だったリオのおじいさん、つまり自らの父親から継いだあと、事業を拡大してKIRIYAの名を海外にまで知らしめたリオの父親。三代目社長である彼は、ひとり息子のリオに跡を継がせるつもりだとばかり思っていた。


 だが、


(そうはいっても、あのおじさんだもんなー)


 保育園の頃から知っているリオの父親の自由な姿を思い出して、菫は納得する。人気オペラ歌手だったリオの母親とも、留学先で知り合ってすぐ、周囲が反対する間もなくスピード結婚したのだとか。


「そうだなー」


 リオがのんびり口を開いた。


「どうせスーがいないなら、うちから近くて学部多くて、途中でコース変えられるとこならどこでもいいかなー。あ、東大とか?」


「そんな理由で東大選ぶ人いる?」


 あきれた声で言いながら、


(まあ、リオならそれもありか)


 菫は内心納得する。


「だって、スーがよそ行っちゃうんだもん」


 リオがふてくされた顔になった。


「それも、僕には絶対無理な女子大」


 リオの言う通り、栄養学を学びたい菫は外部の女子大を受験する予定だ。


「でもスー、頑張ってね。受験」


 リオに顔をのぞきこまれて、


「だよねー。冬休みからは塾も行かなきゃ」


 菫が肩を落とした。


「心配だよ。初等部の『お受験』以来、受験らしい受験してないから、私」


「大丈夫。スーならできるよ」


 リオが微笑む。


「いつだって、好きなことに向かってまっしぐらでしょ? そこがスーのすごいとこじゃん」


「そうかなあ」


 菫は首をひねった。

 単に、好きなことをやっているだけだ。そんなの、すごいと言われるほどのことだろうか。


「寂しいけど、応援するよ。スーがやりたいことが一番だもん」


 リオの言葉に、


「ありがと。でも別に、会えなくなるわけじゃないって」


 菫は苦笑する。

 菫の志望校のキャンパスも、ふたりの自宅からそう遠いわけではない。


「リオも、早くやりたいことみつけなよ」


 菫がリオの顔を見上げた。


「私だって、リオのこと応援したい。そうだなー、進路決めるのが難しかったら、とりあえず好きなものが何か考えてみるとか?」


「えー」


 リオが顔をしかめて首をひねる。

 つられて菫も、リオと目を見合わせたまま首を傾げた。


 なんでもスマートにこなすリオが、本気でやりたいことは何なのか。尋ねても、いつも「わかんない」という答えが返ってくる。


 高二のこの時期、進路が決まらないのはそんなに珍しいことではないが、いつも余裕のあるリオにそう言われると、はぐらかされているような気もしてしまう。


「だからー。いつも言ってるじゃん」


 不意にリオが、菫に顔を近づけた。


 マスクの上の大きな瞳に自分の顔が映っているのが見えて、菫は思わず瞬きする。


「スーだよ」


 きっぱりした口調でリオが言った。


「僕の趣味は、スー」


「……はー」


 ためいきをついて、菫はリオから身を離した。


「リオっていっつもそれ言うけどさあ。真面目に訊いてるんだからね! 私は」


 むくれた菫に、


「僕だって真面目だよ」


 リオが微笑む。


 ボーイッシュな美少女と言われてもまるで違和感のない、お人形のような白い顔。その上にミステリアスな笑みが広がると、歌うような声が再度こぼれた。


「僕の趣味は、スー」




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