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「――なん、で」
かすれた声で俊介がつぶやいた。
「えええ?!」
菫も思わず声をあげる。
「なんで? どういうこと?」
そんな、さらっと「なくなっている」とか言われても。一体、何がどうなってそんな話に?
「推理だよ。純粋な」
菫に答えたリオが、
「……いや、ちょっと言いすぎかな。『純粋』は」
苦笑して俊介に向き直った。
「この前、初めて俊介さんとお会いしたとき。俊介さんの言い方に、僕はちょっと引っかかったんです。瑞樹さんからお聞きしたことを思い出して。……実はさっきも、同じことがありましたけど」
(なにそれ、また?)
ぎょっとして、菫はリオの横顔を見る。
(なんでリオって、いつもそういうこと考えてるわけ?)
同じ話を聞いていたのに、リオが「引っかかった」というのがどの話のことだか、菫にはさっぱりわからない。
「どういうことだ」
俊介が眉間にしわを寄せた。
強面系イケメンの迫力にびくっとする菫の隣で、
「俊介さんはすごい、って瑞樹さんは言ってました。そこで出てきた話なんですけど」
にこやかにリオが答えた。
「瑞樹さんによると、俊介さんって、自分が言いたくないことは他人に質問されても巧みに回避するんだそうです。で、うまいのが、その言い方が必ずしも嘘とはいえないところなんですって。絶妙に」
リオがくすりと笑う。
「……絶対に、『なにも知らない』とは言わないんですよね。俊介さんって」
(どういうこと?)
菫はリオの顔を見上げる。
「前回、僕が冗談で、小早川さんが姿を消した方法や今いる居場所を知ってたりしませんか、ってお訊きしてみたら。俊介さん、おっしゃいましたよね。『その人の居場所なんて知らない』って。さっきもそうです。『遺体のありかなんて知らない』……なんだか妙に、限定的っていうか」
俊介が眉間のしわを深めた。
「そこで瑞樹さんの話を思い出すと、僕みたいなひねくれ者はつい思っちゃうんですよね。ひょっとして、って」
一呼吸置いたリオが、
「おっしゃる通り、『小早川さんの居場所』や『遺体のありか』は知らないとしても。それ以外のことなら、俊介さんはご存じかもしれないって――たとえば、小早川さんが姿を消した方法について」
ひどく楽しそうな顔でそう言って続けた。
「それで僕、考えちゃったんです。もしも俊介さんが、なにか知ってるとしたら? って。事件の脇役に見えた俊介さんが、瑞樹さんからの電話を受けて相談に乗っただけじゃなく、他の部分にも絡んでるとしたら。そう思って、とある仮説を立ててみたんです。僕の持ってる他の情報と合わせて。そしたら」
テーブルの上でぴたりと両手を合わせたリオが、
「ここまでの話でおわかりの通り、予想以上に、きれいにはまっちゃって」
にっこり笑って俊介を見上げる。
「ってことで、俊介さんも知りたいですよね? この先の話。僕の立てた、ぴたっとはまっちゃった仮説」
琥珀色の大きな目が、俊介に向かってゆっくりと細められた。
「ずっと心配でしたよね? あの遺体がどうなったか。僕ならお話しできます。遺体が消えたあの場所で、あのあと起こったことを」