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3-2.(3)

「……え?!」


 突然のリオの告白に、菫が思わず声をあげた。


「ちょっとリオ、なんで?! 最初からわかってたってこと?!」

「まあまあスー、落ち着いて」


 リオが両手をあげて苦笑した。


「単純に、あの話の流れだと、それが一番自然だなって思っただけだよ」

「……どういうこと?」


 リオの言葉に、菫が眉をひそめる。


「だってさ、考えてみてよ」


 リオが菫の顔を見返した。


「体育館でチェーンが切れたとき。うっかり者の琴美ちゃんだけじゃなく未玖ちゃんも、指輪が転がった先は箱の隙間だって、ちゃんと目で追って確信してたわけでしょ? そのあと、短時間とはいえ指輪と未玖ちゃんだけになった数分間を経て、指輪が消えたって話になったわけだから」


「……言われてみれば、そうだけど」


 菫が口をとがらせる。

 そうはいっても、あの優しくて真面目な未玖を疑うなんて。琴美と未玖の仲の良さを知っている生徒ならなおさら、考えもしなかっただろう。


「とはいえ、動機は予想外だったけどね。それに証拠もなかったし」


 リオが眉を下げた。


「だからまあ、推理っていうほどじゃないんだ、あの一件は。僕の想像とでもいうか」


「そうかなあ?」


 菫が首を傾げた。


「そこまでわかってたんなら、推理って言ってもいいんじゃない?」


「……そうかな」


 照れたように言うリオに、


「そうだよ、名推理じゃん――ああ、でも」


 にこにこしていた菫が、ふと顔を曇らせた。


「ちょっとだけわかるかも。未玖の、友だちに置いていかれるみたいでうじうじしちゃった気持ち」


 ――『釣り合ってなくない?』


 華やかな友人たちやリオに比べて、ぱっとしない自分。

 今朝、学校で言われた悪口を、菫は思い出していた。


 自分のことが気にくわない人たちに、悪意で言われたことだ。根拠なんてない。気にするだけ無駄。

 そんなことは、十分わかっているはずなのに。

 大事な友だちと釣り合わない自分、というイメージは、思いのほか重苦しく菫の中に残ってしまっている。


(……いけない。リオが心配する)


 菫は軽く頭を振ると、


「その点リオって、そんなつまんないことで悩んだりしなそうだよね?」


 笑顔を作ってリオの顔を見上げた。


「ちゃんと、気持ちの整理できそうっていうか。ていうか、リオならそもそも思わないか。友だちに置いていかれるとか」


 苦笑すると、


「そう?」


 白い顔に、リオが不思議な笑みを浮かべた。


「僕だってあるよ? うじうじすること」

「ほんと?」


 目をまるくした菫に、


「ほんと」


 歌うような優しい声でリオが答える。


「だから、スーがそんな気持ちのときは話を聞かせてほしいな。力になりたい」


 琥珀色の大きな瞳が、ローテーブル越しに菫の目をのぞきこんだ。


 けぶるような淡い色の睫毛と、形のいい唇。

 テーブルの上にのせていた菫の左手に、温かいリオの手がそっと重ねられる。


「スーが悲しいときは、そばにいたいんだ。……たまにはスーの、王子様にならせてほしい」


 熱のこもった声で囁かれて、


「……」


 菫は頬が熱くなるのを感じた。


 ほっそりしていても自分のものより大きい、リオの――男の子の手。

 目の前の明るい色の瞳に、自分の顔が映っているのが見える。


「……スー?」


 リオの整った顔が、ゆっくりと近づいてきて――。



「キャー!!! スーちゃああん!!!」



 バーン! とノックもせずにドアが押し開かれると同時に、質・量共に規格外の美声がふたりを襲った。


 菫とリオが、テーブルを挟んで飛びのくように身を離す。


「いらっしゃい!! 久しぶりね! 元気にしてた?! んまー、またきれいになって!!!」


 晴れやかな笑顔で部屋の入り口に仁王立ちしているのは、こちらも規格外の美貌とスタイルを誇る金髪美女。


 リオの母親、エリカの登場である。


「……母さん、声が大きい」


 飛びのいたときののけぞるような格好でしばらく固まっていたリオが、両手をラグの上についたまま、静かにうなだれた。茶色い髪からのぞいた耳は、赤く染まっている。


「あーらやだ、ごめんなさいねええ?! 久しぶりにスーちゃんに会えて、もー私、嬉しくて嬉しくて!!!」


 クレッシェンドにつぐクレッシェンド。

 ちっとも反省していないエリカの顔と声に、


(さすがオペラ歌手、声量半端ないわ)


 リオと同様ラグの上にしりもちをついたまま、菫は思わず感心していた。

 普段は喉を温存するためにウィスパーボイスで過ごしているエリカだが、昔から興奮するとこうなるのだ。


 ふと見れば、ローテーブルの向こうのリオは、


(あらら)


 家の外での愛想の良さが嘘のような、むくれた顔をしている。

 ここは、自分が緩衝材にならなければ。


「お久しぶりです、リオママ」


 キーンとする耳をさりげなく押さえながら、菫はリオにそっくりの美女に向かって微笑んだ。




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