1-3.(5)
向かって右のハーフアップの子が、喧嘩腰で菫に続けた。
「當山先輩たちから聞いてるんですよ。リオ先輩に協力してほしいのに、甲斐さんがじゃまするって。彼女面して」
どうやらこの子たちは、茶道部の一年生らしい。
「幼馴染だからって、リオ先輩のやることに反対するとかおかしくないですか?」
左の巻き髪の子にも思いきりにらまれて、
「そんな、なにも言ってないって」
菫はためいきをつく。
「私がなにか言う前に、當山さんの話断って逃げちゃったんだもん、リオ」
「逃げたとか、そんなの甲斐さんの偏見ですよね」
かみついてくる巻き髪に、
「いや、リオの友だちならみんな知ってるよ」
情けない気持ちで菫は答えた。
「面倒くさいとすぐ逃げるんだよ、リオって」
どうしてこんなことまで説明しなきゃいけないんだか。
そこへ、
「スー、お疲れー」
背後の廊下の角から、のんきな顔の百葉が現れた。
「百葉~」
味方の姿に、振り向いた菫の肩から一気に力が抜ける。
すたすたと歩いてきた百葉が、
「なにしてんの? お昼休み終わっちゃうよ?」
菫の腕をぽんと叩くと、
「帰るから」
一年生たちに向かって、さくっと言い放った。
(話、はや!)
目をまるくした菫と、
「え?」
急に現れたギャルっぽい二年生に動揺している後輩たちを前に、百葉が続ける。
「あんたたち、さっきから黙って聞いてりゃぐるぐるぐるぐる、アホみたいに同じこと言ってるけどさー。ぶっちゃけ、スーからリオ君に頼んでほしいんでしょ? 探偵ごっこ。でもそれもう断ってるから、スーは」
やたら率直な百葉の発言に、
「ちょ、失礼じゃないですか?」
「探偵ごっことか」
気の強そうな一年生たちが気色ばむ。
それを気にするそぶりも見せず、
「ごめんね? この子ピュアで、人の言葉の裏とか読めないの」
隣の菫を指さして、えへへと百葉が笑った。
「てか、ほんとはわかってんでしょ? スーは別に、リオ君のじゃまとかしてないって。スーとリオ君が仲いいのが気にいらないだけだよね? あんたたちみんな」
ずけずけと言われて、一年生たちが言葉に詰まる。
そこに近づいた百葉が、
「ちゃんと、言えばいーのに」
くるんと巻いた睫毛を持ち上げて、ふたりの顔をのぞきこんだ。
「『リオ先輩が、“趣味はスー”とか言うのが、ムカつくんですぅ』って。『リオ先輩から離れてくださぁい』って」
(ええええ?!)
煽るように言った百葉の背後で、菫は仰天する。
(そういう話だったの? 今日のこれ)
全然わかっていなかった。道理で、まるで話が終わらないわけだ。
「……そんなの、言ってないし」
顔を赤くしたハーフアップが、低い声を押し出すようにして百葉をにらんだ。
「てか、そっちこそ何なんすか? しゃしゃってきて」
「意味わかんない」
ようやく言い返した下級生たちに、
「えー。あたしはスーが全然帰ってこないから、お弁当どーすんのかなって思ってー」
百葉がしれっと答える。
「じゃ、そーゆーことで」
くるりと後ろを向いた百葉が、菫の肩を抱き、ばいばーい、と背後のふたりに手を振って歩き出した。