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1-3.(3)

「なにあれ! 超腹立つー!」


 化学室への廊下を歩きながら、天井に向かって百葉が怒鳴った。茶色いツインテールと、ボタンを二つ開けたシャツからのぞく細い金のチェーンが、歩くたびに跳ね上がる。


真百合あいつがムカつくのは前からだけどさー! 偉っそうに、バカじゃねーの?」

「ほんと」


 珍しく、朔も大きくうなずいて悪口に参加する。


「スー、気にすんな?」


 ふたりに挟まれた菫の顔を、百葉が左隣から見上げた。


「ありえないしあんな話。旦那が行方不明とか、普通に警察沙汰じゃんね? 先輩のために協力してとか言って、自分がリオ君に絡みたいだけに決まってるよ、あのクソ女」


「だよねー」


 菫もあっさりうなずいた。


 百葉の言う通りだ。口では人助けと言っていたものの、実際のところ真百合は、これを機会にリオに近づきたいだけなのだろう。リオを取り巻くこの手のトラブルには慣れている。


 でも。


「……正直、わかんないんだよねー」


 ぽつりと菫が言った。


「なんでリオって、あんなに人気あるんだろ?」

「……えええ?!」


 百葉が菫から身を引いて、ぎょっとした声を上げる。


「スー、今さらすぎん? それ」

「……」


 反対側では朔も、細い目を無言で見開いている。


「そりゃまあ、かわいい顔してるし。お金持ちだし、有名人だし、いろいろ優秀だけど」


 ふたりの顔を交互に見ながら、言いわけするように菫が言った。


「でも、あの泣き虫のリオがなあ」


 菫の中では、保育園のれんげ組で一緒だった頃のリオのイメージがまだまだ強いのだ。見た目のせいで、いじめっ子に「ガイジン」と言われて泣いていた、小さくてかわいかったリオのイメージが。


「まあねー。それもわかる気はするけど」


 菫の左隣で百葉がためいきをついた。


「スーはさ、もーちょっと、リオ君のこと男の子として見てあげなよ。保育園の頃とは違うんだよ? お互い」


 右隣から朔も大きくうなずく。


「えー。そんな、無理だって」


「ないない」と顔の前で手を振って、菫が笑いだした。


「普通に女の子モデルにスカウトされちゃってんだよ? かわいすぎるでしょ、あの顔は。ていうか、隣にいる私の立場」


「わかるー。肌の透明感と涙袋エグいもんね、リオ君」


 思わず同意した百葉を、


「……」


 朔がじろりと横目で見た。


「――それはそれとして」


 朔の視線に気づいた百葉が、話題を変える。


「推理とか、さっきのあれはさすがに無茶ぶりだよね。知らない人の旦那探しとか」


「ほんと」


 菫がマスクの下で口をとがらせた。


「なに考えてんだろ、當山さん。去年の指輪のときとは話が違うよ」

「だよねー」


 百葉もうなずく。


「てか、あれは推理っていうか失せ物探しじゃんねー。しかも瞬殺だったんだって? リオ君」


「……あのときのリオ君は、すごかった」


 去年リオと同じクラスだった朔が、ぽつりと言った。


 さっき教室で真百合に言った通りだ。去年の冬、男バスのマネージャーの琴美が周囲の生徒を巻き込んで悩んでいたあの事件を、リオはたった一晩で、しかも話を聞いただけで解決したのだ。


 リオが琴美から指輪の話を聞いた、その翌日。


『おはよう、琴美ちゃん』


 朝の教室で、リオはなにげない様子で琴美に話しかけたそうだ。


『なくした指輪って、これのこと?』


 リオの白い手のひらで、窓から差し込む朝日にきらめいている銀の指輪。

 その光景に、琴美をはじめクラスメイトたちは皆あぜんとしたという。



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