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風船売りのピエロ

作者: 藤野

 幼い頃の話だ。俺は親戚とたまに行く遊園地が大好きで、行った時には必ず風船をねだって買ってもらっていた。

 キラキラした色々な形の風船が、遊園地に来た実感を湧かせてくれる。翌日しんなりした風船を見て少し悲しくなるのまでがお決まりの流れだ。



 しかしその日は違った。よくあるシンプルなゴム風船――もちろん浮いているが――を沢山持ったピエロがいる。赤いくるくるした髪に、真っ白な肌、赤い鼻とオーバーに塗った口。普段売ってくれる人とあまりに違った風貌に足がすくむ。俺は少し離れた所で立ち止まり、叔父さんが赤色の風船を買ってくれたのを覚えている。

 戻ってきて俺に風船を渡したその時。


 手渡された風船と太陽が一瞬被って、中に人影が見えた。人間をそのまま小さくしたような影が、風船の中で出してくれと言わんばかりに()を叩いている!


 驚いた俺はうっかり手を離してしまった。あっと思った時にはもう遅くて、赤い風船は大人も手の届かない空高くにまで浮かんでいく。

 怒られる……そう思ったが、意外にも叔父さんは笑って許してくれた。また買ってくると言う叔父さんを必死に止めて、結局代わりにアイスを買ってもらった。



 ――俺はあの時よりずっと大きくなっている。幼い俺は風船を手放してしまって「怒られる」としか思わなかったが、今思うと別の意味で恐ろしい。

 ……もし、自分があの風船の中にいたら? どんどん地上が遠のいていく光景を見てどれほど絶望するだろうか。

 あれがピエロの悪戯だったならいい。例えば人の形に切り抜いた紙を入れておいたとか、それなら風船も変わらず浮くだろうし。


 でも、その考えは呆気なく打ち砕かれた。

 さっき聞いた話では「この遊園地でピエロが働いていたことなどない」らしいのだ。……なら、あれは一体誰だったんだろう。

 俺にはあれがただの人間には到底思えない。そうでなきゃ、なぜ十数年ぶりに来た遊園地に、()()()()()()()()がいるんだ?

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