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50%&50%  作者: 九曜
第3章
29/56

 〃  「雨の日の過ごし方」(2)

 あいにくの雨とひとりの女の我儘のせいで、予定がつぶれた日曜日の昼前――、

 周はリビングの座椅子に腰を下ろしていた。

 特に何かをするわけでもなく、ぼうっとTVを見ている。その横ではエプロンドレスの月子が洗濯籠を抱えて忙しそうに出入りしていた。

「月子さん、洗濯?」

 さっきからさんざん月子が行ったり来たりしているのに今ごろ声をかけたのは、ただ単に周がTVに飽きてきたからだ。

「見てわかりませんか?」

「……」

 どうにも口の聞き方のなっていないメイドさんである。

「いや、雨でも洗濯するんだなと思ってさ」

「もちろんです。天気に関係なく洗濯ものはたまっていきますので」

「そりゃそうだ」

「残念ながら、ここには乾燥機などという便利なものはないので、部屋干しです」

 無論、これは台詞通りに残念がっているわけではなく、設備不足に対する不満の申し立て。要するに「あると便利なのに、ないからおかげで部屋干しだぜ」と言外に言っているのだ。

 いよいよ梅雨本番ということを考えれば、これからが本当の地獄だ、という気がしないでもない。

「え、えっと、とりあえず何か手伝おうか?」

 月子の恨みがましい半眼に耐え切れなくなって、周はそう申し出た。

 このまま月子ひとりに押しつけていると、周自身にこそ地獄が訪れるかもしれない。

「そうですね。それは良い心がけです。では、これをお願いします」

 そう言って月子は持っていた洗濯籠を差し出す。

 が、

「い、いえ、やはりこれは私が」

 渡しかけた洗濯籠をさっと引っ込める。

 周にしてみれば肩透かしで、今まさにそれを受け取ろうとしていた手が空振った。いきなり梯子を外されたようで、むっとする。

「別にどれだっていいよ。干すだけだろ」

「い、いえ、どれでもよくありません。洗濯初心者の周様には手軽なものから……いえ、これも手軽と言えば手軽なのですが……もっと当たり障りのないものをお願いしようかと……」

「意味がわからんっ。いいからそれを貸せ。俺が干すから」

 籠を奪おうと手を伸ばす周。

「ダメです。周様は後一歩が届かないキャラなのですから。これは荷が重過ぎます」

 体の後ろにそれを隠すように身をひねる月子。

「うるさいわっ。洗濯にビギナもマスタもドクタもあるか。それくらい俺にだってできる」

「周様は私に羞恥プレイを強いるつもりですか?」

「誰もそんなこと言っとらんわっ」

 洗濯籠を巡って押し問答を繰り広げる周と月子。

 と――、

 次の瞬間、ヒュッ、と風斬り音を鳴らして、周の鼻先を何かがかすめた。

「……」

 4140カスタムスティール合金の伸縮式特殊警棒だった。

 それが周の胸の中心にぴたりと突きつけられている。

 月子は片手で握った特殊警棒で距離を確保しつつ、もう片手で洗濯籠を守る。

「それ以上近づくと、私は死にます」

 なかなか壮絶な覚悟だが、どちらかというと先に周の頭を粉砕しそうな雰囲気である。

 思わず周も両手を上げている。

「オーケー。よくわからないけど、それは手を出したらいけないものなんだな」

「その通りです」

「わかった。それは月子さんに任せよう」

「賢明な判断です」

 落ち着いた声で言うと、警棒は小気味良い音を立てて縮み、月子のエプロンドレスの袖の中に納まった。前にも見たが、いったいどういう仕組みなのだろうか。

 それから月子は一定の距離を取りつつ、周を中心に衛星のように円の軌道で移動する。決して周から目は離さない。

「俺は熊かよ……」

 そうして自室の前までくると、そのドアを開けた。

「あれ? それ月子さんの部屋で干すの?」

「もちろんです」

「ここに干せばいいのに。鬱陶しいだろ。そんなもんが部屋にぶら下がってたら」

 リビングはすでにいたるところに洗濯ものが干してある。今さら多少増えてもたいして状況は変わらないように思えた。

「……周様」

 月子は冷静な声で周に呼びかけた。

「ん?」

「お昼ご飯は何がいいですか?」

「……」

 恐ろしく強引な話題の転換だった。

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