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50%&50%  作者: 九曜
第3章
28/56

第20話 「雨の日の過ごし方」(1)

 梅雨である。

 どうにも季節感の薄い周の周辺世界だが、きちんと梅雨はやってくる。多少思い出したように到来した感はあるが。

 日曜の午前中、周は自室で窓越しの雨を見ながら、耳に携帯電話を押し当てていた。

「あぁ? 中止だと?」

『ああ、中止だと』

 回線の向こうで答えたのは天根小次郎だ。

『雨天中止』

「雨天決行じゃなかったっけ?」

 そう言いながら周は窓を少し開けてみた。

 途端、激しい雨音と湿気が部屋に流れ込んできた。顔を歪めて、すぐに閉める。

『文句なら一二三に言え。その一二三が雨だから外に出たくないと言い出したんだからな』

「あのエロ女め……」

 周の頭に、高校一年にしては変に色気のあるクラスメイトの顔が浮かんだ。なぜか含み笑いだった。

『と、まぁ、そういうわけだ』

「オーケー。了解」

 周は投げやりな返事を返して通話を切った。端末を勉強机の上に放り出す。

 要するに今日、周はクラスメイトの何人かと遊びにいく予定だったのだが、あいにくの雨で中止になったのである。

「一気に暇になっちまったな」

 もう一度窓の外を見る。

 そう言えば、菜々ちゃんが今日ダミアン狩りに行くと言っていたのを思い出した。あれはどうなったのだろうか。

 ダミアンとは護星高校に住み着いている黒猫である。みんなで餌をやったりして可愛がっているのだが、なぜか我らが生徒会長だけは目の敵にしているのだ。天敵だと言ってはばからない。

 菜々ちゃんはそのダミアンを学校から追い出してやると息巻いていた。この雨の中、頑張るつもりなのだろうか。

「って、そんなことはどうでもいいな」

 周は勢いよく椅子から立ち上がった。

 自室を出て、廊下を抜け、リビングへと這入る。

「月子さん、今日出かけるの中止になったから」

「そうですか」

 キッチンで朝食の後片付けをしていた月子が振り返る。

「それは残念です」

「まぁね」

「いえ、私がです。周様がいない間くつろげると思っていたのですが、実に残念です」

「……」

 すごく何か言ってやりたい気分の周。でも、たぶんこのメイドさんに何を言っても無駄だろうという気もする。

「くつろぐで思い出しました。最近、私の秘蔵の高級クッキーが減っているように思うのですが、周様、勝手に食べていたりはしませんか?」

「ねぇよっ」

 この家で最強の生物である月子さんの私物に手を出すほど、周は命知らずではない。

「そうですか。私の思い違いでしょうか」

「なんじゃねぇの? それか、ネズミでも出たか」

「ひ……っ」

「ひ?」

 何かノイズを聞いた気がして周は月子の顔を見た。

 それに連動するように月子が顔を逸らす。目が泳いでいる、というか、何かを探すように視線で床の上を走査している。

「……」

「……」

「月子さん、ネズミ苦手?」

「いえ、まさか……」

 ぴたり、と動きを止め、背筋を伸ばして答える。

「じゃ、ネズミが出てきたときはよろしく」

「も、勿論です。お任せください」

 まるで周がそのネズミであるかのように、月子は、きっ、と周を睨む。

「ところで周様。ネズミは本当にいたのでしょうか……?」

「……」

 周は冷ややかな目を月子に向ける。

 さっきの勢いはどこに行ってしまったのだろうか。

「い、いえ。きたるべき日のために目撃証言を集めているだけです。相手の人数や装備がわかれば、こちらとして対策が立てやすいので」

 普通のネズミは武装などしていないのである。

「どうだったかな? 見たような見てないような……」

「はっきりしてください! そんな曖昧なことでは困ります。これは重大な問題です。この家にネズミはいるのですかいないのですか!?」

「えっと……うん。今のは冗談かな、と」

 さすがにこれ以上引っ張ると、ネズミより先に周が退治されそうだ。

 月子はほっと胸を撫で下ろした。たちの悪い冗談への報復すらも忘れている辺り、心底安心したようだ。

「とりあえずあまり食べてると太……おぶすっ」

 電光石火の勢いで飛んでくる地獄突き(ヘル・スタッブ)。

「太りません。周様の体調管理を任されている私が自らの管理もできなくてどうしますか」

「なるほど。そりゃそうだ」

 尤もな主張に納得して、周は踵を返す。

 が、ふと気になるものを感じて、もう一度月子へと振り返る。すると、月子が両手をウェストに当て、なにやら深刻そうな顔で視線を落としていた。

「……」

「……」

 はっとして月子が顔を上げる。

 瞬間、周が逃げるように身体の向きを変えた。リビングのテーブルの上にあった朝刊を手に取り、座椅子の腰を下ろす。

「さ、さーて、今日は何すっかなー」

 棒読みだった。

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