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50%&50%  作者: 九曜
第2章
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第13話 「月子さん、……を演じる!?」(前編)

 放課後――、

 授業中に居眠りをしたときの夢見が悪かったせいか、終礼後の清掃のときもあまねはぼうっとしていた。

 何となく教室の窓から下を見てみる。

 と、護星高校生徒会会長兼治安維持部隊隊長、菜々ちゃんが戦っていた。

 ただし、その相手は人間ではなく、学校に住み着いたのらねこ――黒猫のダミアンだった。

 互いに睨み合い、威嚇している。

 規格外の身体能力と常識を併せ持つ菜々ちゃんは、敵が体育会系クラブの生徒であれ何であれ、それが人類であるなら無敵を誇るであろうに、なぜにのらねこと同レベルの戦いをしているのだろうか。謎である。

 そこにひとりと一匹に近づく影があった。確か九条という名の先輩だったはず。

 九条は何の躊躇いもなく、ひょいと両手にそれぞれ二匹の獣をつまみ上げた。吊られたままで菜々ちゃんとダミアンが暴れる。しかし、彼は沈着冷静にダミアンの方だけを下ろした。途端、黒猫は飛ぶように逃げていく。

 そして、そのまま奈々ちゃんを連れて帰っていった。

「……」

 生徒会とか生徒会長って何だろうなぁ、と漠然とした疑問を感じる周だった。

「おーい、鷹尾。聞いてーる?」

 ふいに名前を呼ばれた。

 振り返ると4、5人のクラスメイトが教室を掃除していた。本日の掃除当番。周と同じグループのメンバーだ。

 今声をかけてきたのは、隣の席に座る岡本哲平おかもと・てっぺい

「えっと、何だっけ?」

「だーから、中間テストに向けてみんなで勉強しようぜって話さーね」

「ああ、そうだった」

 そういえばそんな話をしながら掃除をしていた覚えがある。

「で、誰がくるんだ?」

「俺たち3人に、あと一二三と森」

 今度は天根小次郎あまね・こじろうだった。

「あー、いつもの面子って感じだな」

 今小次郎が名前を挙げたふたりは女子生徒だが、この掃除当番の班分けで一緒になって以来、何かと行動をともにすることが多い。そういう点で妥当なメンバーと言えた。

「というわーけで、後でお前さん家にみんなで行くかーら」

「はあ!?」

 思わぬ展開。

「聞いてないぞっ」

「そ♪ だから、あなたが聞いてなかっただけでしょ?」

 あっさり切り返したのは件の女子生徒、一二三四子ひふみ・よんこだ。

 名前だけ聞けば親に愛されていないのではなかろうかと思ってしまうが、特にそうではないとのことで、この名前も四子本人にしてみればいたく気に入っているらしい。

 四子は掃除をする気などさらさらない様子で、机の上にどっかと腰を下ろしていた。

「なんで俺ん家よ?」

「近くてひとり暮らしだから。今から集まるのに最も都合がいいの? わかる?」

 四子は艶っぽい笑みを浮かべながら言う。

 一二三四子は高校一年にしては妙に色気のある女子生徒だった。大人っぽいというだけでなく、言葉や仕草のひとつひとつに色気を含ませてくる。自分が女であり、それが武器になることを自覚しているのだ。

「いや、まあ、そうなんだろうけどさ……」

 周個人としてはかなり都合がよくない。なにせ家にはメイドがいるのだから。

 ふふん♪ と四子は笑みを浮かべる。

「ええ、大丈夫よ。私も鬼ではないわ。男のひとり暮らしだものね。見られたらマズいものを隠すくらい時間は与えてあげるわ」

「はははー。よけいな気遣いありがとうよ、一二三……」

 ここまで理解があるというのも逆に複雑である。

「ねぇ、いいでしょう?」

 媚びるように言いながら、四子は足を組んだ。超ミニに改造したスカートから覗く太股が眩しい。

 奥が見えそうで見えない。

 見てはいけないと顔を背けつつも、目だけで見てしまう。

「ああ、まぁ……」

 そして、気持ちをそちらにもっていかれたまま、曖昧に頷いてしまった。

 途端、

「ほい、決~まり♪」

 そう言って四子は元気よく机から飛び降りた。

「……げ」

 ようやく自分のやらかしてしまったことに気づくが、しかし、もう遅い。

 血の気が滝のように引いていく周のそばを、「ばーか」と小次郎がモップ片手に通り過ぎていった。次に岡本が、ぽん、と肩を叩く。

「あいつはああ見えてガードは完璧だ。俺もどれだけ泣かされたことか」

「……」

 なるほど。

 常套手段らしい。

 

 周は全会一致で掃除当番免除となり、先に帰らされた。

 勉強会の準備のためだが、四子曰く「見られたらマズいものを隠す猶予」である。勿論、そんなものが散らばっていたりはしていないのだが、それ以上に見られたくないものはあった。

 周は駆け込むように玄関を上がった。

「ただいまーっ」

「お帰りなさいませ、周様」

「……」

 案の定、それは準備万端だった。

 戦闘準備OK。

 常在戦場のメイドさん。

 周は対外的にひとり暮らしということになっているのに、メイドがいてはマズい。2LDKのメイドさんは明らかに見られてはいけない性質のものだ。

「た、大変だ、月子さんっ。今からクラスの奴らがくるっ」

 しかし、慌てる周とは正反対に、月子は状況に対し実に冷静だった。

「お任せください。いつ来客があってもいいようにお茶菓子の備えは充分にあります」

 そして、メイドとしても完璧だった。

 まぁ、つい先日、朝寝坊したばかりではあるが。

「違ぇよ! そうじゃなくて! こんなところにメイドがいたらおかしいだろうがっ」

「そうでしょうか?」

「そうなんだよ!」

 焦っているせいか、いつにも増してキレやすくなっている周だった。

「だから、今だけでいいっ。今だけでいいから月子さんを俺の姉貴ってことにするからっ」

「……は?」

 月子の動きが止まった。

 今の今まで人形の如く表情と態度を崩さなかった月子が、このとき初めて動揺を見せた。

 このような動揺を見せたのは過去に一度だけ。

 つまり、これは月子としては着替え中に部屋に踏み込まれるのと同等の衝撃があったということを表している。

「ああっ、もう時間だ。俺は迎えにいってくるから、月子さんは準備を頼む。その服もちゃんと着替えておくように。じゃ、頼んだからっ」

 しかし、あまりにも余裕がないのか、周は月子の変化に気がつかず、言いたいことだけ言って玄関から出ていってしまった。

「……」

 ひとり残される月子。

 ……。

 ……。

 ……。

「い、今さらまたシュウのお姉さん……?」

 ぽつりとつぶやく。

「ど、どうしよう、わたし……」

 月子は頬に掌を当て、呆然と立ち尽くした。

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