「霊魂」(7)
セレファイス王宮内での作戦会議と準備は、夜を徹して行われた。
翌早朝……
まだ薄暗い城壁の外には、残った呪士と戦士が総動員されていた。
地平線のむこう、魔王の城の手前にも、セレファイス軍と同じく横並びに黒い影がうごめいている。魔物の軍勢だ。だが、その頭数は減ることはあっても、以前のような馬鹿げた多さではない。それもひとえに、フィアたち遠征隊が成し遂げた命がけの封印の旅の効果だった。
のぼり始めた太陽を反射して、きらめくセレファイス軍の先頭を見よ。本防衛作戦の隊長に任命されたエイベルの剣は、陽光を力強く照り返している。
兜の面頬をあげて、エイベルは軍馬の上から隣に語りかけた。
「付き合ってもらって悪いなぁ、ヴーズさんよぉ。頼もしいぜ」
こちらも馬上、ぶぜんと腕組みしたまま答えたのは衛兵隊長のヴーズだった。
「我が都にとっての火急だ。縄張りだの意地だの言ってられん」
フィアが持ち帰ったとおり、魔王からの要求はいつの間にか矢文の形でセレファイスへ届けられていた。内容はこうだ。
〝召喚士のメネス・アタールを魔王城に引き渡さない場合、夜明け後の二刻(約一時間)ごとに人質の呪士をひとりずつ殺す〟
野太い声で、ヴーズは問うた。
「魔王城への突入、遠征隊への強行参加。そして本作戦。連戦につぐ連戦だが、体に問題はないのか、エイベル?」
「おう、ばっちりよ。やっぱ水呪のご加護ははんぱねえ。あと二、三戦ぐらいは死なずに済むだろうっていう看護婦さんの太鼓判つきだ」
「心配には及ばん。こちら側から打って出られるのは、おそらくはこれが最後だ」
そう、これが最後の戦い。
失敗すれば、セレファイスは今度こそ取り返しのつかない破滅をむかえる。
魔王軍との衝突地点と予想される中央平原を睨みながら、ヴーズは続けた。
「勝てるぞ。まさか、あんな小娘の予言と行動ごときが、我々に希望の光明をもたらすとはな。気に食わん。あんな、うちの娘とかわらん年端の小娘が」
「わかるぜ。フィアちゃんの話をするときあんた、いつも心配で心配でたまらないって顔してる。だからこそ、いま俺たちがやるべきことはひとつ」
「ああ。戦乙女と召喚士を、無事に魔王城へ送り届ける」
魔王城の方角からは、土埃と地響きが大挙して押し寄せつつあった。
呪いの首輪に操られた魔物どもが、都めがけて進軍を始めたのだ。
お互い目配せすると、エイベルとヴーズはすばやく兜の面をおろした。
「指揮は任せたぞ、エイベル防衛隊長」
「おう……全軍!」
頭上高くに掲げた剣の切っ先を、エイベルが振り下ろすのが戦いの幕開けだった。




