1話 <オセロ部始動>
僕は、白沢結城。
江川高校1年B組に所属する高校生だ。
僕は、感情がわからない。幼いころはどうか知らないけど、覚えてる限り感情の揺らぎなんて感じたことがない。僕はこのままでいい。このほうが感情なんてものに振り回されなくていいからね。
僕は一人でいい。一人が楽だ。
この前の入学式で嫌な奴を見つけてしまった。あいつは僕によく絡んでくる。うざい。
でも教室にいなかったから同じクラスではないんだろう。
それだけはよかった。1年間絡まれながら過ごすなんてめんどくさい。
静かに過ごしていた。だが、そんな風に過ごしていられたのは一週間くらいだけだった。
「オセロ部は入りませんか~!!」
そんな声が聞こえてきたのがきっかけだった。
「オセロで、九段目指そう!真剣に一緒にオセロをしよう!」
真剣に?プロもなくて、それだけで食べたいけないのに?
めんどくさそう。
「どう、やって見ない?」
「オセロ部?何それ。部活でやることなの?」
「真剣にやると楽しいよ。」
「真剣?遊びでやるものでしょ。オセロって。」
「だよね~それより、あそこ部活行こう。」
「アッ!待って!……何で入ってくれないんだろう?」
めんどくさそうだな。かかわらないで行こう。
「アッ!待って!ちょっと話聞いて。」
誰か知らんが早く犠牲になれ。それで、捕まってこっちに来させるな。
「ちょっといい?」
肩をつかまれた。はあ~、切り抜けられたと思ったのに。
「何の用だ。」
「オセロ部は入らない?」
「興味ない。」
「そっか。」
これでからまれることもなくなるだろう。
「アッ!き、君!もしかして、白沢結城君?」
「帰る」
「待って!やっぱり白沢君だよね。」
これ、肯定するまで絡まれるのか?
「そうだけど。なに。」
「やっぱり!オセロ部は入って!」
「ちょっと、柚子、興味ないだって。強制はダメだって。」
「えっ!興味ないの!?あんなに強いのに!?大会にも出てたのに!?」
「それでもだ。本人が言ってるんだ。諦めろ。」
そうそう、あきらめてもう話しかけてこないでくれ。
「すまんな。白沢君。」
「いえ大丈夫。じゃあ。」
2人は柚子と言われた女の子を無視していった。
「はい、それじゃあ行くよ。柚子。」
「えっ!ちょっ!俊!」
帰るか。
もう絡まれないことを祈ろう。
それから、一週間、二週間とたったが柚子は、一日も欠かさず僕にオセロ部の勧誘をした。
そのたびにもう一人の男に連れていかれていた。
「ねえ、オセロ部は入ってよ。」
これにはもううんざりだ。
「いい加減にしてよ。入らないって言ってるだろ。」
「アッ!またここにいた!いい加減にしろ!もう5人集まってるんだから部はもうできるんだろ。何でそいつにこだわるんだ。」
「だって強いから。」
それだけかよ。興味ないな。
「それと、つまんなそうだったから。」
「は?」
何それ。
「どういうことだよ。」
「だっていつもつまんなそうなんだもん。日常も、オセロしてる時も。いつもず~っと。
だから、オセロの楽しさを教えてオセロしてる時だけでも楽しいって感じてほしいんだもん。」
「いい加減にしろよ!おせっかいやめてくれない?」
机をたたいてしまった。
僕がこんな乱暴してしまうことは初めてだからクラスの人たちがこっちを見てしまった。それにきずいたから、静かに座った。
「少しでもいいから見に来て。お願い。来てくれたら勧誘はもうやめるから。」
「…わかった。1回だけだ。それでもうやめてくれ。」
「わかった。約束。」
そう言って柚子はにっこりと笑いながら自分の教室に戻っていった。
オセロ部には、今日行こうと思う。いやなことは先にやったほうがいいからね。
だから放課後行ってみよう。少し見たら帰ろう。
「白沢君大丈夫?」
「何が?」
「だっていつも真っ先に帰っるから。どうしたのかなって。」
「大丈夫。なんでもないから。」
「そっか。急に話しかけてごめんね。」
自己満足かな?僕には理解しかねるけど。
まあいいか。後は、オセロ部に行けばもう帰れるな。
これでやっと静かな高校生活ができるな。
「アッ!来た!ようこそ!」
「すぐ帰る。」
「そんなこと言わないで。一戦だけでもしていかない?」
「しない。」
「あの、柚子さん?誰ですか?」
「そうだった。言ってないんだった。彼は、」
「白沢結城。オセロ六段持ち。でしょ?」
「さっすが瑠衣!そう、白沢結城君。見学に来てもらったの。」
「さすが唯一の段位持ち!」
「オセロ部っていてんのに段位持ってるの1人しかいないの?」
「だってみんな知らなかったんだもん。オセロにも段位があるってのを。でも、いつかとるよ。みんな。とにかく、一戦しよ。」
「白沢君。せっかく来たんだからやっていこうよ。」
「ほら、始めるよ。」
「座って座って。」
「えちょっと!」
強引だな。にしても帰りたい。
「じゃあ、始めるよ。…開始!」
他の人がじゃんけんをしてる。僕もしなくちゃ…?
甲乙で決めるんじゃないのか?
もう盤も広げてるしもう始め?時計もないのに?段位持ちなら大会とかにも出てるだろうに指摘しないのかな?
「白沢君は黒ね。」
「わかった。」
じゃんけんもせずに決めた。なめられた?まあいいか。そのほうが楽に勝てる。
「よろしく。」
にっこり笑いながら言われた。だから僕も同じ言葉を返した。
「よろしく。」
「ま、負けた…?」
僕が六段って聞いていなかったの?
楽に勝てたからいいけど。あんなこと言ってたから少しはできるのかと思ったけど、この弱さで段位を狙うなんて馬鹿だな。絶対全日本にも出れないよ。
「段位を狙うなんて無謀なんじゃない?」
「もう!?早くない!?」
「柚子、終わり。」
「ハッ!ま、負けました。さ、さすが段位持ちの2人。」
「じゃあ、帰るから。」
「ま、待って!無謀ってどういうこと、ですか?」
「そのまんまの意味だけど?甲乙方式じゃないし、時計もないし、弱いし。大会方式でやらない意味が分からない。」
「だって、はじめはいいかなって。それにまだ、教えてないし。だから入って!そして、私たちを強くして!」
「意味わかんないし。興味ないから。」
「逃げるんだ。こいつらを強くする自信ないんだ。」
無視しよう。どうせこいつらも同じなんだ。
「週一回来るだけでもいいから。」
帰ろうとしたとき、こいつを止めていた男が話しかけてきた。
「白沢君、うちの学校1年のうちは絶対に部活はいなきゃいけないだけど知ってる?」
「そんなわけないだろ。そんなこと先生方が言ってなかっただろ。」
「嫌。本当だよ。自分で決まんなかったら先生が独断で所属部を決めんの。それなら運動部に入るより、ここに入ったほうがいいと思わない?」
「う、運動部に入るとは決まって…」
「自分で決めなかった人は何かある限り運動部のどれかに入らせるだって。何かあるってのは、障害や病気のことだよ。」
「……………………わかった。オセロ部に入る。」
「やった~~~!!」
「ただし、週一回しか来ないからな。」
「わかった!オセロ部は平日は毎日やってるかいつでもきて!」
一日でも休みがあったらその日に行って本でも読んでよおって思ったのに。
「じゃあ自己紹介からね。私は、羽倉柚子。オセロ部部長をしてるよ!」
「俺は、三倉山俊。これでも副部長だ。よろしく。」
「私は、佐倉井南です。会計をしています。よろしくお願いします。」
「僕は藤崎瑠衣。」
あと一人僕と対戦した人がいるのだが、盤の前から動いていない。目をつむって何かぶつぶつと言っている。
「あそこにいるのは、尾井夏樹。ごめんね。夏ちゃんはオセロが大好きで、負けたの引きずっちゃう子だから。」
「ふ~ん。」
なら強くならないかもな。
「「「「ようこそオセロ部へ!」」」」
「歓迎するよ。白沢君。」
そう言われて僕は、頭を下げただけで終わらせた。よろしくするつもりがないからだ。