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第80話 パルズ感覚が麻痺する

 ユクトside


「微かだが爆発音がした⋯⋯ノボチ村の方か!」


 俺は急ぎ来た道を戻り、森の中を駆け抜ける。

 森まで徒歩で10分程だった⋯⋯全速力で走れば1分程で戻れるはずだ!

 そしてある程度ダムに近づいた時、周囲の様子を探るとパルズの叫び声が聞こえてきた。


 どうやら盗賊の1人がパルズの左手に短剣を突き刺したようだ。


「ぎゃあぁぁっ!」


 そして盗賊はさらにパルズの右手を刺すと辺りに絶叫が響き渡る。


 一瞬頭の中になぜパルズは逃げないのか疑問に思ったが、パルズはダムの決壊を防ぐため、動くことが出来ないでいるようだ。

 もう一刻の猶予も許されない。

 俺は弟子が痛めつけられる姿を見て怒りが募り、一直線にパルズの元へと向かう。


「中々根性があるじゃねえか⋯⋯だが剣を腹にぶっ刺しても堪えることができるかな?」


 まさか剣をパルズに突き刺すつもりか! このままではパルズが死ぬ⋯⋯

 。


「とどめだ!」

「させるか!」


 そして盗賊が剣を振り下ろした時、俺は限界を超えた早さで駆け巡り、刃を右手で受け止めることに成功する。


「て、てめえは!!」

「パパ!」


 俺は無理やり剣の刃を握りしめたため右手の指から血が滴り落ちる。だがそんなことはどうでもいい⋯⋯今はこの(さえ)ずる男の口を封じるため、速やかに処分を決行する。

 俺は空いている左手でがら空きになっている顔面に向かって拳を繰り出す。


「ぶべらっ!」


 すると盗賊は言葉にならない声を上げながらぼろ雑巾のように地面を転がり、森の木にぶつかるとそのまま反応がなくなった。


「大丈夫か?」


 パルズは両手に短剣を刺され、血が大量に出ている状態になりながらもまだダムが決壊しないように土嚢で押さえている。


「へへ⋯⋯師匠が見えるぜ⋯⋯ここは地獄か⋯⋯」

「それだけ言えるなら大丈夫だな⋯⋯今治してやる完全回復魔法(パーフェクトヒール)


 俺が魔法を唱えるとパルズの身体は光輝き、両手に出来た傷が完全に塞がる。


「お、おおっ! 傷が一瞬で治ったぞ! 師匠サンキュー」


 パルズはいつも通り軽い感じで礼を言ってきた。


「パルズよくやったな⋯⋯後は俺に任せろ」

「師匠⋯⋯」


 そしてこの時パルズは緊張の糸が切れたのか目からは涙が溢れていた。

 無理もない⋯⋯後一歩遅ければ命を失っていたんだ。

 俺は弟子をこんな目に合わせた盗賊達に殺意を覚える。


「か、頭が一瞬でやられちまったぞ⋯⋯」


 頭? どうやら今俺が殴り飛ばした奴がこの盗賊団のリーダーだったようだ。


「ど、どうする? 逃げるか?」

「バカ言うな! こっちは村の奴らを囲んでいるんだ⋯⋯人質にとっちまえば手が出せねえだろう」


 盗賊達はリーダーがやられ慌てふためいていたが、逃げるより悪行を重ねることを選択したようだ。

 確かに今はセレナが村人達を護るために盗賊達を上手く牽制していることで被害は出ていないが、このままでは時間の問題だろう。


「セレナ⋯⋯後は俺がやる。パルズを頼めるか?」

「わかりました」


 セレナは俺の言葉に従い村人達の所から離れ、パルズの元へと向かう。

 このセレナの行動にはここにいる誰も驚きを見せていた。


「お、おい! いいのか? このままだと村の奴らがやられちまうぞ!」

「バカが! 誰が村の連中を護るんだ! これでは人質にしろと言っているようなものだぞ!」


 パルズは焦り、盗賊達は意気揚々と村人達へと襲いかかる。


「残念だがバカは貴様らのほうだ! 雷弾魔法(ライトニングボール)


 俺が魔法を唱えると周囲に雷の弾が現れ浮遊する。


「大口を叩いておいて初級魔法だと? そのような⋯⋯ものに⋯⋯なんだこれは!」

「や、奴の周りに無数の雷弾魔法(ライトニングボール)が⋯⋯」


 盗賊達は俺が出した雷の弾の数に驚きの声を上げている。


「10⋯⋯20⋯⋯50! ま、まだ増えているぞ!」

「し、しかも無詠唱で⋯⋯」


 俺は最終的に100弱の雷弾魔法(ライトニングボール)を生み出すと盗賊達は恐怖で村人達を襲うどころじゃなくなったようだ。


「敵の数は12人⋯⋯この程度なら⋯⋯行け!」


 俺が命令すると100弱の雷弾魔法(ライトニングボール)は盗賊達目掛けて高速で動き出す。

 すると盗賊達は雷弾魔法(ライトニングボール)を為す術もなくまともに食らい、悲痛の叫びを上げながら次々とその場に倒れていき、瞬く間に全滅するのであった。


「な、なあセレナ⋯⋯今雷弾魔法(ライトニングボール)が八個ずつ盗賊達一人一人に向かって行ったよな? 魔法ってそこまで精密に動かすこと出来るのか?」

「私は魔法使いではないのでわかりません⋯⋯けれどミリアは同じような事を出来ますよ」

「大魔導師と比べられてもなあ⋯⋯魔法の1つ1つを別の方向に動かすなんて見たことも聞いたこともないぞ」

「あえて言うならパパですから⋯⋯天気を変えても大地を割っても驚きません」

「そうだな⋯⋯師匠なら何をしてもおかしくないよな」


 パルズはユクトと知り合ってから既に常識の感覚が麻痺していたため、セレナの言葉に対して素直に納得するのであった。


 パルズside


 盗賊達が倒れた後、ジジイ達がダムの修繕を行ってくれたことで、何とか水漏れを回避することができたようだ。そして師匠は湧き水の出ている量が心配だと言い、逃げるように北の森へと戻っていった。

 お陰で俺とセレナは師匠の分まで村人達からお礼を言われ大変だったぞ。


 そしてようやく村人達からのお礼の嵐が終わった後、何やら落ち込んでいるセレナの姿があったので俺は話しかける。


「よお⋯⋯師匠はやっぱすげえな。盗賊を一瞬で倒しちまうし、改めて怒らせちゃいけない人だと認識したよ」

「そうですね⋯⋯パパがあそこまで怒っているのを私は今までに一度しか見たことがありません」

「そ、そうなのか? 盗賊達がジジイ達を人質にしようとしたからムカついたんだな」


 パルズが見当違いの言葉を発している様を見てセレナは溜め息をつく。


「パルズさんのためです⋯⋯」

「えっ?」

「パパはパルズさんがやられている姿を見て怒っているんですよ!」

「師匠が⋯⋯俺のために⋯⋯」

「そうですよ! だからあなたはもうパパの大切な弟子だということを自覚して下さい! 前みたいに素行が悪いことをしたら私が許しませんからね!」

「わ、わかった⋯⋯だけど何でお前そんなに怒ってんの?」

「別に怒っていません! 私もパパの所に行ってきます!」


 そう言ってセレナはプリプリしながらユクトがいる北の森へと向かう。


「いやいや、怒ってるじゃん」


 そしてパルズは小さく呟き、納得できない表情を浮かべながらセレナに続いてユクトの所へと足を向けるのであった。

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