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第二世界群

メモリー&レコード【プロトタイプ】

作者: 空静

ロゼリア王国。それは王ではなく将軍が政治を行う国。

昔は現人神と権勢を誇っていた国王も、いまとなってはお飾りの存在と成り下がった。

そんな形ばかりの国王と貴族たちは、王都でひっそりと暮らしているというー。



***



見渡すほどに大きく、煌びやかで豪勢な部屋の奥、階段を上った先。そこには贅を凝らした美しい椅子が鎮座され、長い銀の髪を持つ人形のような女性が憂鬱そうな面で座していた。


「陛下、ご決断ください!今度こそ愚かにも陛下から権力を奪った野蛮人どもの討伐を。腑抜けた彼奴等に、研鑽に研鑽を加えた我らの力で制裁を加えるべきです」


陛下、と呼ばれたその女性は真実王である。

ロゼリア王国国王たるエリア・ドゥ・フィ・ラン・ロゼリア。それが彼女の名だ。

もっとも、この名前をきちんと知る民はそれほど多くないが。


エリアはため息を1つ吐き、臣下を窘めた。


「ならぬよ、ディートハルト伯爵。妾とてあの者共を赦すつもりなど微塵もない」

「ならば!」

「よく考えよ、いまここで奴等を不用意に排除すると民はどう思うだろうか」

「それは…」

「奴らの政治に大きな不満はない今、妾たちが奴らに争いを仕掛ければ、妾たちは平和を乱す『敵』となる。民がついてこない政治には未来はないのだ」

「…しかし、私は彼奴等を。騎士を許すことはできません」


ディートハルト伯爵は悔しそうな面持ちで絞り出すように言った。

それは、この場にいる貴族全てに共通する思いだった。


もう300年ほど前になろうか。ロゼリア王家が政権を握っていたのは。




***



ロゼリア王国は、元は他の国と同じように王家を中心とした貴族達によって政治が行われていた。


平和な時代は長く続き、王侯貴族が平和ボケしていたその時、突然隣国との戦争が起こった。

宣戦布告もなしに奇襲してきた隣国に対し、貴族は対策をろくに取れず、また修羅場を潜ったことのない兵士ばかりの軍は敗戦を重ね、敗北はほぼ見えたようなものだった。



思わぬ救世主が現れるまでは。



『騎士』と呼ばれる職業の者たちがいた。

その者たちは先祖に家督を継ぐことができず平民落ちした貴族の第2子、第3子を持ち、国全体を守る王国軍とは別に、個人を守護する護衛として成り上がり、その頃には貴族たちは騎士を雇うのが普通となっていた。


その騎士たちが戦争を請け負うと申し出してきたのだ。

当時、騎士たちのトップに立っていたゲリアス


護衛として『訓練ではない』戦闘に慣れていた騎士たちの快進撃は凄まじく、なんと敗戦間近のロゼリア王国を勝利させた。


その褒美としてゲリアスが求めたのはその隣国の領土。英雄であった彼の申し出を断ることができず受理。広大な隣国の領土と名声を持ったゲリアスの民への影響は大きく、そして王は力を失い始めた。



***



「『解除』のアビリティ持ちが見つかったのか!」

「はい、陛下。これで殿下の呪いが解けるやもしれませぬ」


エリアが国王に即位してからまずはじめに成し遂げた事業がある。

国民アビリティ所持検査と呼ばれるそれは、国民の才能を明らかにし、国をさらに富ませるためということを建前に、身分に関係なく7歳の子供に対して行われる検査。

この世界にはアビリティ、と呼ばれる特別な力を持つ人間が生まれ、国王たるエリアも当然持っているものだ。

アビリティの内容は多岐に渡り、火や水を出したり五感を強化したりといろいろある。


他者のアビリティを判別する『鑑定』のアビリティ持ちを各地に派遣し、子供がアビリティを所持しているか、またそのアビリティの力は何なのかを調べさせている。


その中でも有用と判断されたアビリティ、通称『ストレンジ・アビリティ』持ちの子供は王城内の施設である『王立アビリティ研究室』によって育てられる。

もちろんこれは強制ではなく任意であるが、研究室で育てられた子供、通称『ストレンジャー』は将来の確固たる地位が約束され、時には貴族への叙爵も行われているほどである。

そのため、貴族にしては箔が付き、庶民にとってはとっては成り上がりの手段であるこれを拒む者はいない。


ちなみにだが『鑑定』のアビリティ持ちは貴族に多く(これは『鑑定』のアビリティ持ちの者たちを貴族にしたという歴史がある為である)騎士家に対しては一切の鑑定をしていない。



しかし、そんな国を挙げての大事業であるアビリティ所持検査をもってしてもエリアの求めるアビリティを持つ人間は300年以上見当たらなかった。


「今までにも『変更』『制御』といったアビリティ持ちが発見されても呪いを解くことは叶わなかった。今度こそリルラとケインを目覚めさせることは叶うだろうか」


諦めるような、それでいて祈るような。そんな面持ちでエリアはつぶやいた。


***



王城の奥深くにその部屋はある。

ランプなどは何もなく、ただ小窓から差し込む月明かりが唯一部屋を照らしている。


部屋には少女と、少女を囲むようにして生える荊、少女を守ろうとする少年が寝そべっていた。

2人のまぶたは硬く閉ざされており、もう300年も目覚めていない。

2人のそばによる影は、少女とそっくりな見た目をしていた。


「リルラ、ケイン。弱い妾を許してくれ。妾は、そなたらを絶対に助けるからな」


紅い月が空に輝く。

それはまるで、さらなる不幸の予兆のような。そんな不吉な輝きだった。


お読みいただきありがとうございます。よければ下記より評価をお願いします。


この時点での関わりは一切ありませんが別作『夢見た転生のその先は。』と同じ世界線でのお話になります。

アビリティ=スキルのことで、別の国の為に呼ばれ方が違うという裏設定があります。



人物紹介


エリア・ドゥ・フィ・ラン・ロゼリア

ロゼリア王国の女王。

エリア以降の名前の意味はそれぞれ

ドゥ→王女、フィ→王妃、ラン→国王

をあらわす。

正真正銘人間のはずが300年以上生きている…?


リルラ

「殿下」と呼ばれたエリアそっくりの少女。

300年以上眠り続けているらしい。


ケイン

リルラの側で共に眠り続ける青年。

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