第6話 ベル姉との初めて♡
俺は、勇気を出してかつて敗北したパソコン野郎に近づく。彼の名前など覚える間も無く、俺は学校に行く事を辞めた。クラスメイトや先生の名前でさえ思い出せない。かろうじて覚えていたのは、学校の名前と場所だけだ。
「なあ、スマホのゲームにハマってるのか? ちょっと協力プレイでもしようか?」
俺は、そう言ってパソコン野郎に話しかけた。前と全く変わらぬ反応が返って来る。パソコンを見つめて、キーボードを高速で叩いているが、話だけは聞いているようだ。ワンテンポ遅れて、こう返答して来た。
「良いよ。じゃあ、今日の昼の1時に学校の隣のマックで食事してるから、そこで対戦しよう。嫌なら、別の場所にしても良いけど……」
「いや、そこで良いよ。俺も、12時間くらいに人と約束があるし、その後で丁度会えるな」
俺は、適当にそう言って都合を付けた。人と会う約束など全くない。始業式は12時までで下校となる。約1時間ほどすることが無いのだ。だが、未来望がいるから適当に時間は潰せるだろう。問題は、ゲームの腕前だけだった。今のままでは、ボロ負けする。
「くっ、全く変わっていない……。このままだと、また学校を辞めるしかないのか?」
その事を考えた瞬間、未来望の存在が現実的では思えなくなった。実は、彼女など存在せずに、時間だけが戻ったのではないかと錯覚する。彼女は、俺が助けと彼女が欲しいために作り出した妄想彼女ではないかと錯覚する。
「白浜未来望なんて、本当は存在していないんじゃ……」
俺は、目を閉じて絶望し始めていた。可愛い女の子に天使、そんな存在がこの世にいて、俺に関心を寄せるはずがないと思い込む。さっきまでの数時間が、実は誰かに騙されているのではないかと感じられていた。可愛い幼馴染の女の子など、実はいないのでは……。
「失礼ですね、ちゃんとここにいますよ」
俺の言葉に合わせるかの如く、すぐ後ろに彼女が立っていた。どうやらベル姉様との電話が終わり、ちょうど教室に戻って来ていたらしい。俺と彼女の会話はラブコメのようだが、教室内にいる奴は関心すらも持っていない。まるで俺などいないかのように、無反応だった。
彼らは、みな自分の作業に没頭していて、俺や美少女の未来望さえも話しかける事さえもない。初めての学校で緊張しているというのもあるのだろうが、基本的に人との関係がなくてもやっていけると思い込んでいる奴らだった。
「くう、高校卒業資格が欲しいから、ある程度休日と通信教育でなんとかなれる学校を選んだということか。ここまでクールな奴らは、進学校でもなかなか無いぞ。ある程度は、人との関わりを持とうと話し合うはずなのに……」
「これは、たしかにクールな学校ですね。でも、全てがあなたのような事情を抱えているのです。その点を踏まえれば、仲良くなりそうじゃないですか?
例えば、パソコンをいじってる彼、ゲームやプログラムの技術は凄いですが、友達は居なくて一人ぼっちだったようです。実は、あなたと友人になる事を切望してるんですよ」
「なっ、パソコン野郎と知り合いなのか?」
「いえ、勝手にそうアレンジしただけです。真相の方は分かりません」
「なんだ、想像かよ……」
「でも、遊ぶ約束は取れたんですよね?」
「ああ、今日の午後1時にマックで待ち合わせだ。その時間で良いかな?」
「うふふ、丁度良いですよ。ベル姉様も、昼の12時くらいに新君と会いたいらしいですから。4人でダブルデートができるかも」
「えっ、俺とベル姉さんがデート?」
「はい、初めてを新君としたいそうです。私は、そういう事には疎いのでこれから勉強していく気ですけど……」
「なっ、ベル姉さんとの初めてっ!? 冗談じゃなかったのか?」
「ベル姉様もノリノリでしたよ。お昼の12時がとても楽しみですね♡」
未来望は、満面の笑顔をしていた。俺と彼女は付き合ってるはずなのに、他の女とキスするのが嬉しいのだろうか。たしかに、ベル姉さんは綺麗なので俺としてはドキドキするが、ファーストキスを彼女で済ませて良いかと疑問に思う。
「なあ、最初は未来望の方が良くないか?」
「いえ、私はした事ありませんし、経験者に任せた方が良いかと……。昼12時に学校の図書室で待っているそうです。人も少ないですし、マックからも近いです。そこが最適な場所だと私が判断しました。では、一緒に行きましょうか?」
学校の授業が終わり、担任の教師が簡単な挨拶をして解散する。未来望は、俺を逃さないように腕を掴んで一緒に図書室へ向かおうとする。俺は、彼女の顔を見ながら、彼女の可愛い唇に注目していた。
(くう、俺がキスしたいのは、お前なんだよ)
そう言う勇気も起きず、俺は引っ張られるままに彼女に図書室まで連れて来られていた。図書室の扉を開けると、春の日差しに当たるかのようにしてもう一人の美女が俺を待ち構えていた。ショートカットの金髪を有するちょっと褐色肌の美少女だ。
ヤンキーそうな風貌と指定の学校制服を着こなしていた。机の上に座り、俺を見かけると優しく微笑む。挑発的な態度で俺に近づいて来るが、キスする気満々だと思うと自然と可愛く見えて来た。ピンク色の唇が動き、俺に関心を示している事がわかる。
「よお、童貞君、よく来たな。さっさと済ませてしまうか。それとも、ここでは不満かな。なんなら、2人きりの人がいない場所でじっくりしても良いんだぞ」
「あっ、いや……」
俺が言葉を発しかねていると、未来望が口を開く。図書室は、俺と彼女達の3人しかいない。扉を閉めて鍵をかけて仕舞えば、誰にも踏み込めない聖域となるのだ。未来望は、図書室の扉を閉めて鍵をかけ、その聖域を作り出した。
「これで、邪魔者はいませんね。私は、新君を観察する必要があるので残ります。では、ベル姉様、新君と始めちゃってください!」
「分かったよ。じゃあ、しようか、新君?」
ベル姉さんはゆっくりと立ち上がり、制服の上着を脱ぎ始める。彼女の胸は大きく、上着を脱いだだけでプルンと揺れた。俺は、一瞬躊躇して後ずさるも逃げられない事を悟る。ああ、俺は今日彼女に食われてしまうのだと……。