第3話 とりあえず学校に行ってみる
俺は、ガングロメイクをしていたスクルドに驚いていた。年齢は、15歳程度だが、容姿が変わっていて度肝を抜かされる。気絶しそうなレベルまでビビっていた。気絶しそうなところを、なんとか耐えていた。
「うわあああああああ、恐ろしい……」
「何ですか? 女の子に向かってバケモノとか、恐ろしいとか失礼ですね」
スクルドは、自分の顔を鏡で見て驚いていた。どうやら彼女も自分の顔がどんな感じか知らなかったらしい。彼女は、ベルダディーに向かって、怒りを感じていた。どうやら彼女が原因らしい。
「もおおおお、何でガングロメイクなんですか? 新入生で顔も覚えられないじゃないですか!」
「あははははは、変な顔。思った以上にビビらせれたな。まあ、日常的に使うメイクではないか。薄い褐色くらいがモテる感じかね」
ベルダディーは、ノートに自分の化粧の結果を書いていた。スクルドが怒っているが、そんな事は気にしていないかの如く、自分のペースで作業している。スクルドは、ウェットティッシュを使って自分の顔の化粧を落とす。そして、布団をかぶる俺に優しい口調で近付く。
「ほらほら、可愛い女の子ですよ。自分で言うのもなんですが、一応女神なので容姿も普通の人間より、か・わ・い・い・♡ですよ」
「うわぁ、ぶりっ子かよ。普段は真面目なアンタが突然どうしたよ? 引くわ……」
「いや、ベル姉さんの所為じゃないですか! せっかく少し心を開きかけていたのに、変なメイクのせいで台無しですよ。また、布団を剥ぎ取るところから始めないと……」
「ちっ、めんどくせいな……。おらよっ!」
ベルダディーは、毛布をかぶって防御している俺にヒザ蹴りをしてきた。布団をかぶって急所など見えないはずなのに、的確に俺の弱い腹を攻撃して来る。俺が怯んだ隙に、布団を持ち上げられて哀れな姿をさらけ出されていた。
「ほらよ、これで奴の防御は無くなった。さあ、さっさと誘惑してきなよ♡」
「誘惑って……。まあ、話をしない事には何も始まりませんが……」
スクルドは、ベルダディーに羽交い締めにされている俺に近付く。布団越しのヒザ蹴りと容赦のない蹴りによって、俺はグッタリしていた。それでも意識はあり、なんとか布団を握り締めて耐えている。そこに、ビックリするくらい可愛い女子の顔が近付いて来た。
「大丈夫ですか? ちょっと私と珈琲でも飲みませんか?」
「ひええええええええ、可愛い……」
俺は、スクルドのあまりの可愛さにビックリして気絶していた。体は小刻みに痙攣し、焦点が定まらない。彼女は普通の女子高生の制服姿をしていたが、死ぬまで半径5メートル以内に女の子が近寄って来た事のない俺には刺激が強過ぎた。
ベルダディーは、俺が気絶した事を知ると、とりあえずイスに座らせて縛る。強制的に話を聞かせる気のようだ。スクルドが鼻歌混じりに、トーストと珈琲を用意していた。制服の上にピンク色のエプロンを着ており、さながら俺の恋人のようだ。
「ここは……。そして、この状況は……」
「うふふ、とりあえず高校生の時のあなたに戻ったと思って構いませんよ。違う点はいくつかありますが、幼馴染みの可愛い同級生とその姉妹が隣に住んでいる点が1番の変化ですかね。今回の異世界は、現代世界へのタイムワープと言った感じです」
「じゃあ、母さんやお父さん、妹もいるっていうのか?」
「ええ、この世界にちゃんと存在していますよ。あなたの過去の状況もそのままでね。今は、旅行中で1週間ほどいませんが、それを過ぎれば普通に帰って来ますよ。それまでは、新の事は、私とお姉様達に任されてます」
「そうか、母さんもお父さんも、妹もいるのか……」
「それだけでなく、学校の同級生もそのままあなたの知る通りの人物が揃っていますよ。私があなたの同級生として一緒に通学する他は、お変わりありませんよ。このまま3年間よろしくお願いしますね♡」
「くっ、行きたくない! 行っても何も変わらないはずだ! あんな惨めな想いをするのは、こりごりだ……」
「くっ、可愛い幼馴染みの女の子が毎朝起こしに来るという萌えエピソードでもダメですか?」
「いやだ……、どうせ君も呆れるだけだ……。せめて、チート能力や才能が無ければ……。何も変わる事はないんだ……」
「困りましたね……」
俺には、目の前にいる美少女の笑顔を見ても、硬く凍った心は崩せなかった。度重なる失敗により、もはや生きる気力も無くなっていたのだ。目に見えた失敗の光景が見える以上、どんな挑戦さえもする気が起きないでいた。ベルダディーは、呆れたようにこう言った。
「やっぱりこんな奴は切り捨てて、他の奴をパートナーにした方が良いよ。英雄というレベルどころか、普通の水準にさえも達していない。これを英雄のレベルまで育てるなんて不可能だ……」
「いえ、私は彼に負けています。それに、本当に上手くいかない時は、絶望さえ感じるものですからね……。私は、彼をパートナーにしますよ。どんな手段を使ったとしてもね……」
「義妹とはいえ、あんたも変わった奴だね。良いよ、好きにしな。とにかく、こいつを布団から引っ張り出す事には成功した。これ以上は、私も学校とやらがあるから行くわ。後は、2人でかってにやっていなさい」
「はい、ありがとうございました」
俺は、ベルダディーによってイスに縛り付けられているので動けない。ベルダディーは、スクルドに任せて、部屋を出て行った。俺とスクルドと呼ばれる少女だけが残る。俺がスクルドの命令に従うと判断するまでは、彼女は拘束を解く事はないだろう。
「新君、私と付き合ってください! たとえダメなところを見せたとしても、私が失望する事も愛想を尽かす事もありません。命ある限り、あなたを愛してみせます!」
「はい!?」
「あなたは、度重なる裏切りと失望によって絶望を味わって来たはず……。その悪循環を終わらせるには、死ぬまで愛し、信じてくれる女の子が必要なはずです。あなたのその大切な人物に私を加えてください。あなたを、死ぬまでサポート致します」
「それは、俺の彼女として精一杯尽くしてくれるって事ですか?」
「はい、あなたを成長させる為に尽力させてもらいます」
俺は、改めてスクルドの姿を確認する。濃い茶髪のロングヘアーに、髪の毛と同じ色の切れ長のまつ毛が見える。目は意志の強そうな雰囲気を保っているが、俺を前にしては普通の女の子のようになっていた。不安そうな潤んだ瞳で俺を見つめている。
「いや、そう言って俺を騙そうとしてるんだろ。俺の実態を知ったら、お前だってすぐに失望する事だろうよ」
「いえ、すでに覚悟はできていますよ。細部に至るまであなたを敬います。許嫁として、この家で嫁に来る前提にしています。たとえ何もしなくても、2人は自動的に結ばれる予定です。これでもまだ不安ですか?」
「確かに、俺は20歳も若くなった。でも、それでも君を幸せにできるとは思えないんだ。悪いけど、好きになる資格さえもないよ……」
「それは、私も同じです。皆さん、強がってはいますが、どこかに人には知られたくない秘密を持っている物ですよ。こんな私でも、愛してくれますか? それとも、やはり嫌いになりますか?」
「分かった。付き合おう」
「じゃあ、とりあえず学校デートから始めましょう」
スクルドは、目に涙を浮かべて今にも泣きそうだった。これを嫌いだと言う勇気は、俺にはない。可愛いし、好きになりそうだった。そっと、彼女の体を抱きしめる事しか出来なかった。これは、俺と彼女が付き合い始めた事を意味しているのだ。