第2話 同級生『白浜(しらはま)未来望(みらの)』登場
俺は死んで異世界に来たはずなのに、なぜかいつもと同じベッドに入っていた。実は、トラックと電車に轢かれたのが夢だったのではないかと感じてきた。尿意を催し、親に見つからないようにトイレへ向かう。その時、驚くべき物を見てしまった。
「なんだ……、これは……」
俺は、鏡に映った自分の姿を見る。そこには、15歳だった頃の姿が映し出されていた。そして、自分の腹を見る。ベルダディーに贅肉を掴まれていた腹は、脂肪さえもなくなり、瑞々しい肌をしていた。俺は、カレンダーを確認する。
「これは、本当に20年前の俺なのか……。しかも、四月。俺が学校に入学した時だ」
俺は、脳裏に学校へ行こうかという恐るべき考えが浮かぶ。あの頃に戻れば、俺はやり直せるかも……。そんな考えが一瞬だけ脳内に浮かび上がったが、昔の状況を思い浮かべて絶望感を感じ始めた。また学校へ行っても、同じだろうと……。
「無理だ……。投稿しても、絶望を感じるだけなんだ……」
俺は、頭まで布団を被り、ベッドの上で震える。たとえチャンスを与えられようが、結果が同じならば意味はないのだ。俺は、引き篭る事に決めた。すると、玄関のチャイムが鳴り始めた。すぐに止むだろうと思っていたチャイムは、ずっと鳴り続けている。
「くそう、ホラー小説かよ? 俺を過去に戻して、何をさせる気なんだ?」
俺は、窓を見ることもせず、布団を頭まで被ってふて寝を決め込んでいた。オバケが出て来ようが、絶対に起きないという固い決意をする。アクションさえ起こさなければ、どんな恐怖も襲って来ることはないはずなんだ。
「チャイムが、鳴り止んだ……。ついに来るのか!?」
激しく鳴り響いていたチャイムが突然に鳴り止む。これは、オバケが侵入して来る前兆だった。俺の部屋に入り込み、布団をめくって顔を見ようとするのだ。オバケの顔を見たら最後、恐怖で死んでしまうだろう。
「絶対に見るものか……。部屋にも入れない。布団も離さない。顔も見ない」
俺は、どんな事があっても寝続けると決めていた。恐怖のホラー、これが俺が送り込まれた異世界の舞台なのだろう。俺を震えるほど怖がらせて、早々に消す予定のようだ。たしかに、使えないキャラならば、一気に殺す異世界に飛ばして状況を楽しむ方が良いだろう。
「スクルドという女、どうやら予想以上のドSらしいな……」
「何ですって?」
「ひええええ……。スクルドの声をしているが、その声に釣られて出て行ったらオバケというオチだな? そんな、バケモノの姿を見せられてたまるか! どうせ腐った死体とか、目玉が暗黒色に染まってる怪物なんだろうな?」
「ちょっと、失礼ね! 何にもしないから出てきなさい! 部屋の鍵は、お母様に貰ってるから、抵抗しても無駄よ! まずは、一緒に学校へ向かうのよ!」
「その手には乗るか! どうせ、顔を見たら二目と見れぬ化け物だろう。こちとら、長年アニメを見続けて、知識やタイミングも分かってるんだよ。きさまの安い挑発と誘惑には乗らない!」
「はいはい……」
スクルドは、俺の許可なく部屋の鍵を開ける。くっ、鍵を持っているというのは本当らしい。このままでは、幼気な俺の心に、死の恐怖という絶望が植え込まれてしまう。絶対に彼女の顔を見てはダメだ。俺の布団を掴む手に力がこもる。
「ほら、幼馴染の美少女が、朝起こしに来たという鉄板のシュチュエーションですよ。ほらほら、アニメ好きには堪らないでしょう♡」
「くっ、その手には乗るか。顔を見た瞬間、バケモンなんだろ?」
「そんな事ないって!」
スクルドは、俺の布団をひっぺがそうとするが、さすがに力負けしていた。引き篭もりニートの俺だが、それでも女子に力で負けるはずはない。学校へ登校など、絶対にしない。俺の抵抗に彼女が困っていると、もう1人の女子の声が聞こえて来た。
「アイツ、起きて来ないの? こんな人も羨むシュチュエーションまで用意したのに……」
「ベル姉様、手伝いに来てくれたの?」
「まあね……」
くっ、敵が2人に増えたか……。だが、俺の20年のニート根性をなめてもらっては困る。出ないと決めた以上、絶対に布団から出る事はない。女子が2人に増えようが、俺の力には敵わないはずだ。
「ほら、出て来なさいよ!」
「くっ、そうはさせるか……。この手は、絶対に放さない……」
「チッ、ラチがあかないわね。私に任せなさい」
ベルダディーの言葉で、スクルドが俺から離れる。ようやく諦めてくれたか……。そう思っていると、突然の衝撃が俺を襲う。腹をぶち破られるような膝蹴りの一撃。俺の布団を握る手が緩んでしまった。
「ふん、ようやく布団をひん剥いてやったね」
「がっは、死ぬ……」
「お姉様、さすがに膝蹴りは死んでしまいます……」
スクルドは、なんだかんだ言いながら、俺から布団を奪って行く。最後の防衛戦を突破され、俺は目を瞑っていた。瞼を閉じている限り、たとえ彼女達でも俺に顔を見せる事は不可能なのだ。
「チッ、まだ抵抗するか……」
「どうしましょう?」
「スクルド、最後の手段だ。脱ぎな!」
「ええっ!?」
ベルダディーに襲われ、スクルドは服を脱がされているようだ。衣擦れの音が俺の視界を広げようと誘惑して来ていた。パサリと、服を脱いだ音が聞こえる。これは、罠だ。見てはいけないと思いつつも、ゆっくりと目を開けてしまっていた。
「いやあ、ベル姉様、服を脱がさないで……」
「ふふふ、可愛いよ、スクルド……」
俺は、スクルドの姿をチラッと見ようと薄目を開けた。そこには、色黒の女がアップで映し出された。俺は思わず、バケモノと叫んで気絶していた。スクルドは、エッと思ったような表情をして、俺の顔を見つめていた。
「ひえええええ、バケモノ!」
「うわああああ、どうしたんですか? 新君、しっかりして!」
スクルドの声を聞き、俺はショックで倒れ込んでいた。行動や表情は、さっきの優しい女神様だが、顔が予想以上に黒い。それは、まるで山姥のようであった。所謂、ガングロメイクといったところだ。