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第1話 ここは、異世界!?

 スクルドは、俺の未来を決定する。彼女の一言で、俺が消滅するのか、生き残れるかが決まるのだ。できれば、今までの失敗を帳消しにするような偉大な英霊になりたかった。今までバカにしていた奴らを蹴落とすような、そんな素晴らしい人物に……。


「では、『神代かみしろさら』と一緒に冒険する事にします。今の段階では能力値は低めですが、英霊になれる可能性もあると考えています」


 俺は、スクルドの言葉を聞き、とりあえず胸をホッと撫で下ろした。しかし、脅威はまだ去っていない。彼女の姉妹2人が、彼女に対して猛烈に抗議して来ていた。自分で言うのもなんだが、俺も彼女の頭が大丈夫かと心配にさえなる。


「ちょっと、スクルドちゃん? 彼は、小間使いの奴隷じゃないのよ? 最低限、数十年は一緒にいないといけないのよ? そりゃあ、ゴミのように死ぬかもしれないけど、失敗した場合のペナルティーは、あなたが負う事になるのよ?」


「そうよ。ねえ、考え直そう……。次に当たる英霊候補は、イケメンかもしれないんだよ? コイツとパートナーになるよりは、次の人物に期待した方が良いって。そりゃあ、真面目で任務を放棄したくないのは分かるけどさ、限度ってものがあるよ?」


 2人は、血相を変えてスクルドを説得しようとしていた。スクルドが勝算のない危険な任務を、ただの義務感で実行しようと思っているらしい。俺も消滅さえしたくないが、英霊になれるとは夢にも思わなかった。スクルドは、2人の言葉を遮ってこう言う。


「大丈夫です。私には、彼の経歴から導い出した可能性があります。大丈夫です、勝算はありますよ。ただ、私が次の任務を選ばしてもらえるならばの話ですが……。彼とそれにマッチする任務を選べて初めて成功する任務だと思います」


 スクルドの言葉は、姉2人を説得できるほどの影響力を持っているらしい。ウルドやベルダディーでさえも納得し始めていた。どんな根拠があるのか分からないが、物凄い豹変ぶりだ……。


「ふー、どうやらガムシャラに選んでいるようではないようですね。ならば、今回はスクルドちゃんに任せましょう。私達のパートナーは、どこでも活躍できる英霊です。どんな任務でも、完璧にこなしてくれるでしょう」


「私は納得してないけど、まあ何かしらの意図があるのは分かるわ。でなければ、こんな現状最悪の男を英霊にするはずないもんね。この男は気に入らないけど、スクルドの言葉は信じてみるよ。危険な賭けだけど、コイツが死ぬまでだし良いか……」


「案外、キツイ条件の方が、成功した時の評価も段違いで上がるかもしれないし、サポートが優秀ならば、あるいは……。やってみる価値はあるかもですね……」


「そういう事か……」


 2人は納得しかけていたが、俺は納得していない。荒野で裸で送り出されるような感じならば、前と同じように死んでしまうかもしれないのだ。せめて、チート能力でも得られなければ、勝負の土俵に出る事はできない。


「ちょっと待ってくださいよ! 俺は納得していない。俺の背景も考えてください。何の有利な条件も無しに、そんな危険な賭けに出る事はできない。せめて、チート能力でも与えられなければ……」


 納得しかけていた3人が、えっと言うような顔で俺をみる。3人からして見たら、俺は消えるか、生き残るかのどちらかしかないのだ。当然、生き残れる方を優先すると思っていたらしい。だが、俺からして見たら、勝負はすでに決まっているのだ。


「うーん、あなた自身が選択できる立場だとは思えないんだけど……。だって、英霊にならなきゃ消えちゃうんだよ? それと、チート能力って、何?」


 スクルドの素朴な疑問に、ウルドが答える。一応、現実世界の知識は得ているようだ。


「えっと、それは異世界転生した人が得られるという、かなり有利な条件で冒険を始められる能力の事よ。特殊な復活能力だったり、最強レベルの能力数値だったり、いずれも主人公が最強になれるように設定された出来レースみたい……」


 ベルダディーは、ヤンキー風に俺に凄んで話しかけてきた。こわいが、美しいと思う顔立ちが、俺の目の前に迫ってくる。キスできそうな距離まで近付き、香りの良い息が俺の顔にかかる。今は、そんな事を考えている場合ではない。


「チッ、自分が無能だからって、有利な能力と数値を得て無双するっていうのかよ。努力さえもしてねえ負け犬にはピッタリの考え方だな。自分は、前の世界では努力してたけど、周りは有利な条件で戦ってたから勝てなかったってか?」


「そんな事は、思ってません……。ただ、有利な条件を与えられた方が、任務をこなすには有利かと……。成功率も変動するんじゃなりませんか?」


 3人は、俺から離れてコソコソと話し始めた。今まで聞いたことのない話なのか、3人で密談しているようだ。まあ、俺には聞こえる距離だったけど……。


「おいおい、そんなシステムがあったのかよ? それ使えば、誰でも英霊になれるじゃねえかよ……」


「そんなわけないでしょう……。それに、ここに来るのがチート能力持ち前提だから考えもしなかったわ……」


「いえいえ、無理ですよ……。そんなん出来たら、英霊を選別するなんてしてるわけないじゃないですか……」


「どうするよ?」


「なんか、それっぽい事言ってヤル気にさせちゃう?」


「じゃあ、そうしましょう。彼は諦めるのが早かったんで、その辺をちょっと変えて欲しい……」


 俺が彼女達に近付いてくると、スクルドは笑顔で迎える。さっきまでは無表情に近い顔付きだったが、途端にニッコリ顔になっていた。これは、根拠のない褒め言葉を語る時の顔だと気が付いた。母親も先生も、あんな顔してた気がする……。


「それでは、『神代かみしろさら』のチート能力を発表します。『諦めない事』です!」


「えっ、それだけ?」


「はい! 頑張ってください!」


 どうやら、チート能力は貰えずに、言葉だけの物だったようだ。そんな言葉だけで頑張れるわけはない。俺は、抗議しようと思っていると、その対象のスクルドが姉達に連れられて行った。どうやら、彼女達も納得していないようだ。


「ちょっと、あんなんで良いの? 絶対に、あいつ頑張ろうとか思ってないよ?」


「まあ、そうかもしれませんが、彼の行動から1ヶ月程度も持たなかったようなので……。せめて、3年は諦めないで頑張ってもらいたいなと……」


「確かに、1ヶ月やって諦めるのと、3年やって諦めようとするのでは価値が違うわよね……。ってか、1ヶ月どころか、記録を見たら3日だったし……」


「そういう事です。諦めないだけでも、相当のチート能力なんですよ」


「中には、諦める勇気とかほざいてる奴もいるけど?」


「所詮は、ニートのような奴が考えた言葉よ。私の心には響かなかったわ。それよりも、ナポレオンの『我輩の辞書に不可能はない』の方が為になるわ」


「諦めるのは、個人の自由だけど、早過ぎては血肉に成らずに、恥肉になるだけだもんね。スクルドちゃんの好きにやってみると良いわ」


「はい、分かりました」


「なるほど、スクルドがアイツを諦めてないって事か……。少しは、協力してやるよ。まあ、2ヶ月くらい?」


「じゃあ、『神代かみしろさら』を異世界に転送します!」


 スクルド達は、勝手に納得していた。俺を強制的に異世界へ転送させようと、俺の前に掌を向ける。俺1人だけ納得していない。俺は、抗議しようと言葉を述べるが、彼女達は聞いていない。


「ちょっと待っ……」


「転送完了!」


 こうして、俺はベッドの上から消えて、どこか良く分からない世界へ飛ばされていた。どうやら同じベッドの中のようだが、心地良い感じが蘇ってきた。そこは、俺が生前に良く使っていたベッドと全く同じだったのである。

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