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プロローグ 異世界転生しちゃったっ!?

 俺の人生は悲惨だ……。思い返して見ると、小学校までは良かった。中学に入ってから一気に転落していった気がする。昔は神童と呼ばれたかった俺も、気が付けば35歳になり、硬いアスファルトの地面で横たわっている。


 いったい何が発生したんだ? 俺は、苦渋の生活を走馬灯を見るように思い返していた。中学生の時、成績が悪いからといって担任の教師にテストの点数をバラされたのが始まりだったように思う。あれから一気に転落人生だ。


 小学校の時は大して勉強しなくてもテストの成績は良かったし、悪かったとしても他のクラスメイトも悪いから親も担任の教師も大して気にしない。せいぜい居残り勉強をさせられる程度だ。ところが、中学生になるとみんなの反応がガラリと変わる。


 小学生の時は勉強しなくてもなんとかなると思っていた。そんな俺を嘲笑うように、他のクラスメイトは必死で勉強していた。俺は必死で付いていこうと決意する時間さえも与えられなかった。担任の教師が俺の点数をみんなの前で発表したのだ。


 それにより、クラスで最低点だった俺は、クラスの全員からバカにされた。クラスメイトの嘲笑、好きな女の子の軽蔑の眼差し、12年の俺には耐え切れない絶望と化した。俺はその日以降、学校に行く事もなくなり、家に引き篭もり始めた。


 それで中学の時の記憶はずっと家にいた感じがする。その後、俺はこのままではダメだと思い、とりあえず高校を卒業しようと通信制の学校へ通うことになる。周りは俺と同じ境遇を持った仲間達だ。気が合うだろうと思っていた。


 だが、それは間違いだった。奴らは孤独に陥ったのでは無い。自らの特殊能力を磨くために孤独を選んでいたのだ。そんな怪物のような奴らの前には、俺のスペックなど合うはずもない。俺はまた1人、孤独の道を歩み続けていた。


 そうして、高校も卒業できず、ついに社会人になる。社会人の荒波をモロに受けた俺は、一気にニートへの道を歩み続けたのだ。自分では、このままではいけない。自分を変えなければいけないと考えていた。そんな生活を10年も続けていたら、親にも見放され始めた。


「クッソ、今に見ていろよ! いずれは、俺の本気を見せてやるよ!」


 俺はニートをやめる一歩として、コンビニへ買い物を行くことに決めた。自分の足で家を出るのは、何十年ぶりのことだろう。俺は、魔王が自分で戦うイメージをして家をゆっくりと歩き出した。体が運動不足でダルい……。


「ふん、丁度良いウォームングアップだな……」


 俺は、長い長い道のりを歩き続ける。コンビニへの道は、たったの500メートルだが、真ん中には線路も通っている。近所のおばちゃんなどにも出会わないように、気配を消して移動する。俺は暗殺者ならば、一流だと思い始めていた。


「くっくっく、無能な日本政府の奴らを皆殺しにしてやるか! 俺を学校から追い出した無能教師と無能な総理大臣を抹殺してやるよ。背中に気を付けて生きているが良い! くっくっく、毎日恐怖を感じて震えているが良い!」


 俺は、小声で喋りながら歩く。周りには誰もいない。俺を止められる奴など1人もいないのだ。踏切が鳴って、遮断機が降りようがお構いなく進んで行く。無能な政府が決めた規則などに従うわけには行かない。


「このまま、線路を突っ切ってやるよ! 運転手の奴、俺の姿を見てビビリな!」


 俺は、線路を突っ切ろうとするが、道の途中で転がっている石ころを踏みつけてしまった。俺はバランスを崩して、よろけた。そこに、線路と並行して走っていたトラックが俺の左側に迫って来ていた。


「くっ、電車ならともかく、トラックごときにやられるだとっ!?」


 俺は、最後の抵抗として体を捻ってトラックを躱そうとする。トラックは、俺の半径5メートル以内に入ると途端に速く感じて来た。躱すなど、人間にはできない芸当だとすぐに諦め始めていた。所詮は、くだらない人生、勝っても意味などないのだ。


「ぐわあああ……」


 俺は、叫び声を上げる間も無く撥ねられそうになっていた。すると、トラックは急激に突進の威力を弱めた。無能な運転手がようやく俺の存在に気付いたのだ。だが、時はもう遅い。国の宝となるべき俺の体は、宙を舞って線路まで飛ばされていた。


「バカな……」


 俺の体は、空中を彷徨っている内に、電車が迫って来る。電車の動きさえも手に取るように分かっていた。だが、見えるというのと避けるというのは全く意味が違う。俺は躱すこともできずに、ゆっくりと近付いて来る電車に体を破壊されていた。


(くうう……、腕と足が吹っ飛ばされたっ!?)


 俺は右腕と左足を引き千切られて、道路に叩き落とされていた。あまりの衝撃的なシーンなのに、俺には痛みも何も感じられなかった。まるで他人事のように冷静に物事を考え始めていた。全ての回想が終わった時には、体に痛みはないが、急激な寒気が襲って来た。


(さ、寒い……。これが、死ぬということなのか……)


 俺は、右腕と左足を失い、吹き出すほどの大量の血を見て、そう悟っていた。俺の腕がどこに行ったとか、左足の行方などどうでも良かった。このまま死んでも、誰も悲しまないだろう。むしろ、死んで喜ぶだろうと感じていた。そうして、35歳の短い生涯を終えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は気が付くと、暗い闇の世界が広がっていた。銀色に光る空間が現れて、一瞬俺を包み込んだと思ったら、次は光も差さない闇の世界だ。俺は、死んだのか……、と自覚する暇もなく。誰かの声で目を覚ました。俺は、どうやらベッドの上で寝ているらしい。


「気が付いましたか?」


「ここは……」


 俺は、目の前を覗き込む女の子の姿が見えた。黒髪ロングの可憐な姿をした美女だ。年齢は、だいたい25歳といったところだ。雰囲気と口調から真面目なタイプである事が伺える。俺は、美女の背後にある翼に気が付いた。どうやら天使のようだ。


「あなたは、『神代かみしろさら』で間違いありませんね?」


 美女はそう言って、俺の名前を口にする。俺は、状況が全く飲み込めずに「はい」という言葉さえも出て来なかった。どうやら気絶して生きていたようだが、どのくらい意識を失っていたのか分からない。1日か、それとも数日間なのか、あるいはもっとか……。


 その美女を真ん中にして、両サイドに2人同じような天使が立っていた。彼女達の話す言葉を聞く限り、3姉妹のようだ。俺から見て右側の女の子が明るい声で話しかける。ちょっとヤンキー風の風貌であり、金髪のショートカットで耳にピアスを付けていた。


「おいおい、いきなりマニュアル通りの質問をするなよ。状況が全く理解できてなくて困ってるじゃん。少しは、どうやって死んだかの説明くらいしてやれよ。そうすれば、自分が惨めに死んだ記憶が蘇るっていうのにさ……」


「そうですね、ベル姉様……」


「だいたい見るからに手違いって分かるだろ。すぐにクレーム付けて追い返してやれば良いのに、スクルドは真面目なんだから……。こんなんと一緒に冒険しても、何一つできそうもないんだから、さっさとクレーム付けに行けば良いのに……」


「それは……」


 ベル姉様というヤンキーの言葉を聞いて、スクルドという黒髪ロングの美女が困っている。そこに、もう1人の俺から見て左側の天使が話し始めた。どうやら一番年上のようであり、口調と態度は優しそうだった。


「ベルダディー、クレームを付けるにしてもちゃんとした手続きをしないといけませんよ。さもないと、こちらの評判まで悪くなってしまいます。それに、この人と一緒にパートナーとなるかを決めるのは、スクルドちゃん自身よ。他人が口を出す事ではないわ」


「はいはい、ウルド姉様はお優しい事で……。私なら、見た瞬間に凡人だって分かるよ。見てよ、このお腹、運動なんてまるでしてない証拠だよ。歩けないほど太ってるなら豚くらいにはしてやっても良いけど、中途半端に太ってるから使い道もないよ」


 ベルダディーとかいう美女は、俺のお腹を思いっきり摘む。脂肪が引き千切られるかと思うくらい、思いっ切り摘まれていた。どうやら俺の体が気に入らないらしい。俺が痛みで悲鳴をあげるのを楽しむように弄んでいた。


「イッテテテテテ……」


「へえ、脂肪でも痛がるんだ。神経が通ってないのかと思ってたよ。全く、肉の鎧にもならない無駄な装備なんだから……。トラックに跳ねられて死ぬとかさ……」


 俺は、ベルダディーとかいう天使の言葉を聞いて思い出した。そう、俺はトラックに轢かれて死んだのだ。実際の死因は、電車に四肢を奪われた事による出血多量死だったのかもしれないが、ニュースの中ではトラックに轢かれて死んだらしい。


「そうだ、俺は、トラックと電車に轢かれて……」


「おっ、デブが思い出したようだよ。最初にトラックに轢かれて良かったね。トラックの運送業者が責任を感じて、鉄道会社に賠償額などを払っていたようだからね。もしも最初に電車に轢かれていたら、今頃は両親共々家族仲良く死んでるかな?」


 ヤンキー風のベルダディーは、他人の不幸を喜ぶかのようにそう言っていた。それを、年上のウルド姉様が止める。どうやらベルダディーという天使以外は、常識的な感じらしい。姉妹の中で唯一彼女を止められる存在らしい。


「もう、そこまでにしておきなさい。他人の不幸を喜ぶものではないわ。それに、手違いとはいえ、英霊候補なのよ。今までの英霊達と同じように大切に扱いなさい。そういうところが、あなたの悪いところなのよ」


「へいへい、せいぜい仮の英霊となっている短い時間だけでも余生を楽しむと良いわ。どうせ、手違いだったですぐに抹殺処分されるんだろうけどね。英霊の席を一つ分余計に空けておくほど、私達には余裕がない。無能は即殺処分だよ。ある意味、2度目の死刑って奴?」


「もう、本当に失礼な子。ベルちゃんは黙ってなさい!」


「むぐ……」


 煩いベルダディーが口を塞がれて静かになった。ウルドが自らの唇を使って、彼女の口を封じているようだ。ベルダディーは、小刻みに痙攣して抵抗しているようだが、年上の姉の妨害には敵わないらしい。スクルドという美女は、冷静に俺に話しかける。


「では、自己紹介をお願いします。といっても、ただ調査資料が合っているかを確認するだけですが……。ウルドとベルダディーの事は気にしないでください。いつもの事ですから……」


「いや、メッチャ気になるんですが……」


 美女が唇を合わせて、口封じをされている。それだけでも異常なのに、目の前にいる天使は事務的に俺に対応していた。とりあえず、2人の美女はどこか他のところでやって欲しい気持ちで一杯だった。俺は、スクルドという美女が気になり始めていた。


「では、私の語るプロフィール情報が合っているかを確認してください。あなたは、『神代かみしろさら』で間違いありませんか?」


「はい、合ってます!凄いですね、普通は『あらた』とか呼ばれることが多いのに……」


「褒めても何も出ませんよ。では、これからは、『さら』と呼んでよろしいでしょうか?」


 スクルドは、ちょっと顔を赤らめて、俺から視線を逸らす。冷静なフリをしているが、褒められた事が嬉しいらしい。眼鏡をかけて、事務的な対応を続けていた。どうやら自分の表情を隠すのに眼鏡をかけているようだ。


「では、調査を続けます。あなたが死亡したのは、今日の昼1時頃。昼飯を買いに行こうとコンビニへ向かっていたところ、線路沿いの道から出て来たトラックに跳ねられて吹っ飛ばされ、そのまま走って来た電車に跳ねられて死亡。右腕と左足の出血が致命的でした……」


 スクルドは冷静に内容を読み上げていたが、突然フッと吹き出すように笑った。どうやらツボに入ったらしい。コップに水を注いで水を飲み、なんとか事務的な対応を続けようとしていた。後ろの2人も彼女の異変に気付いたのか、口封じをやめて調査に参加して来た。


「ピンポールみたいに吹っ飛んでるわね……。右腕と左足だけが吹っ飛んだのは奇跡だわ。普通なら、原型も残らずに消滅していたでしょうね」


「まあ、ミンチでも英霊になれれば、肉体は元の姿に戻るけどね。とりあえず、生前の姿だけど、状況次第で年齢が若返ったりするからな。肉体は、遺伝子をベースに回復させてるから、腐っても復活させる事ができるし……」


「まあ、普通はもっとカッコ良く死ねるんだけど……。あなたの場合は、 ちょっと特殊でしたね。想像しただけで、ひっひっひ……。まあ、ある程度回復したから笑い事で済ませられるんだけどね……。これからどうするかは、スクルド次第だけど……」


「スクルドちゃんが、あなたを生かすか、殺すかの選択肢を握ってるの。このまま異世界で冒険して、ミッションをクリアーすれば、そのまま復活できるし、無用と見れば死ぬわ。まあ、過去のスペックを見る限りは、死ぬのが正解だと思うけど……」


 スクルドは、2人の美女に手で合図をして、少し黙るように指示する。2人の姉妹達はただのサポートであり、俺をこれからどうするかは目の前の美女『スクルド』に委ねられているのだ。俺は、ノエルの三姉妹の話を思い出していた。


(北欧神話に登場する3人の女神、本当にいたのか! スクルドは、確か未来を見る女神だったはず……。ウルドは過去を、ベルダディーは現在を、ならばスクルドが俺の未来を決めるってわけか……。死んだな……)


 俺は、早々に諦めモードに入っていた。今までの経験から、この状態で俺を必要とする女性はいない事を知っていた。今回も、それは変わらないように感じていた。スクルドは、彼女の手元にある調査資料を見て、なにかを考えているようだった。


「あの、どうしましたか?」


 2人の姉妹がゲームをし始め、大人しくなってから5分が経過した。それでも、彼女は結論を下そうとはしない。俺の口から、早く決定するように彼女を急かし始めていた。辛い結果ならば、早めに知っておく方が諦めもつくだろう。


「黙ってください。今、過去の全ての英霊の記録を読んでるところですから……。後、5分ほどで、なんとか決定する事ができます」


「後、5分ですね。分かりました……」


 俺は、静かに彼女を待つと思っていると、ウルドとベルダディーが話し始めていた。俺を不安にさせて、反応を楽しんでいるらしい。このドS共が……。


「あまり期待しないほうがいいですよ。英霊でもごく稀に消滅させられますから……。人間は、本来死んだら無になります。使える人間と判断した場合だけ、消されずに何かしらの仕事を任されるのです。それを成し遂げれば、異世界での余生を過ごせるのですが……」


「大半が、仕事を終わらせる事ができずに、そのまま余生を過ごす事になるけどね。それが繰り返されて、ようやく文明が助かる段階を維持できるのよ。英霊でも2、3回ほどで通常の人間と同じように最後を迎えてるしね……」


「英霊のスペックは、現代で言えばイチローやベッカムのようなもの。通常の人間が比べられるレベルではありません。所謂、天才や奇才といった人物達です。通常の人間が英霊になったところで、絶望するのがオチです」


「お前は、普通の人間どころか、最低レベルの奴だもんな……。豆腐メンタルとか、そういう次元のレベルですらない。勝負の土俵に立つ事さえ不可能なレベルだ。ここで死んだほうが、お前自身のためだと思うぜ」


「ごく稀に前世の記憶を持って生きているのは、実はそういうハイスペックな能力持ちのお方達なんですよ。さすがに、ハイスペックな能力者って、そうそう生まれて来るものでもありませんから……。多少は、リサイクルされてます」


 たしかに、イチローやベッカムが一発の人生で成功したとは考え難い。何度も成功を繰り返した上で、特殊な能力が上乗せされて強化され続けているのだ。科学者や医者なども同じだろう。成功者は、何度も人生を謳歌しているようだ。


「クッソ、最初から出来レースだったっていうのかよ……」


「ようやく、結論が出ました! 『神代かみしろさら』の今後の行方を決定します!」


 スクルドは、俺の言葉を遮るようにそう言った。俺は、恨み辛みが溢れ出しそうになっていたが、彼女の言葉によってそれが途切れる。いったい、俺はどうなってしまうのだろうか?

 極度の緊張から数秒間が数分間のように感じられていた。

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