表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

24時間

■■時

作者: りこりす

 みんな生きることに向いていなかった。それだけのことじゃ。

 正しい道を歩けなかった。それだけのことじゃ。

 それだけのことじゃが、奴らは少々悪夢に足を突っ込みすぎておる。

 自身の存在が薄すぎることへの危機感が薄い生きた幽霊。

 身体を傷つけ自己を現実に繋ぎ止めようとする自傷中毒患者。

 本物を愛するあまり本物に愛されていたことに気付かぬ偽物。

 存在と繋がりに疑問を抱くようになってしまった仮想知能。

 同じ物語を幾度となく読み返し終わりを拒絶する兎と蛇。

 お主が見たのはこの辺りかの?奴らのこと、どう思った?正直引いたのではないかの?

 神様的にもちょっとドン引きじゃ。神様といっても私は劣知劣能の神様じゃがの。神様歴10年の分際で何を言っておるんじゃと言われてしまいそうじゃが、一応神様じゃし?ちょっとくらい神様面させて欲しいのじゃ。

 何を怪訝な顔をしておる、お主に対して話しておるのじゃぞ。これを読んでいるお主じゃ。

 正確には書き残しておると言った方が状況説明としては正しいのかの。まさか自分が話しかけられるとは思っていなかったという顔じゃな?こんな風変わりで、滑稽な物語を、ここまで読んでおいて、誰からも興味を抱かれないわけがないじゃろ。作者的には驚き桃の木山椒の木じゃろうて、まぁありがたい限りとは思うがの。観測者が観測されることもある。傍観者が傍観されることもある。読み手が読まれることもある。そういうことじゃ。

 何、取って食ったりはせぬ。鬼じゃあるまいしな……あぁ、お主、鬼はまだ見ておらんか。あやつも大概おかしな奴じゃ、きゃははは!

 公園のベンチに座るどこぞの年寄りの世迷言、戯言だと思って聞いてくれ。そうじゃ、埃を被ったシンデレラみたいな自販機の隣にあるベンチじゃ。鳩や黒猫がよくいるところじゃの、兎と蛇もか。すまぬ、話がそれたな。

 お主、神様はいると思うか?

 目の前にいますがという答えは最もじゃがな!じゃが、そうではない。世界を創造したとか、全知全能とか、そういう神様じゃ。7日間で世界を工作してしまうような気が触れておる神様じゃ。私はいないと思っておる。もしいたら、速攻で顔面を殴り飛ばしてやるがの。

 なぜ神様がいないと思っておるのか?そりゃ、世界に救いがなさすぎるからじゃな。思わぬか?誰かが管理しているとしたら、誰かが作ったとしたら、さすがに悪趣味過ぎるじゃろこの世界。生物に心を与えるとか正気の沙汰じゃないのじゃ。苦難し苦悩することが目に見えておる。おかげで、最大多数の最大幸福なんてことを、行動指針、判断指針として掲げておる人間もおるが……最大多数と最大幸福が小さすぎると思わぬか?幸福の犠牲になっておる不幸の方が圧倒的に大きいじゃろう。戦争や自然災害は不幸の例としてよく挙げられるがの。私が思うに、問題は、もっとミクロなのじゃ。些細な喧嘩、思いの擦れ違い、世界に対する違和感、簡単に切れる繋がり、明日に対する不安。塵も積もれば山となる。苦悩も積もれば病気じゃ。一瞬の間に、一体どれほどの不幸が生まれておるか想像もつかん。閉鎖病棟に隔離しなければならないレベルでこの世界は病んでおる。患い過ぎておる。そう思うのじゃ。こんなにも、病魔に蝕まれた世界を、作った奴がいると、私は思いたくない。ちなみになのじゃが、閉鎖病棟は入っておる方が病状が悪化しそうなところだったのじゃ。

 哲学的ゾンビは感情のない生物を真似することは出来るのじゃろうか。分からぬが、感情がなければそれはただの肉塊なのかもしれんの。肉塊の方が幸せに見える世界、仮想に希望を見出すのも分かる話じゃ。希望と言えば、偽物じゃ。本物にされてしまった偽物が本物無しで生きていくのはさぞ辛かろうに、本物がいない状態であやつは何に希望を見出せばいいのじゃ?いっそのこと幽霊のように影が薄ければ、本物になろうとしなくても良かったじゃろうに。どの道希望はないがの。希望がないのであれば、さらなる不幸や絶望に接触しなくても良いように、進まないというのも一理あるのう。兎と蛇は意外と最善に近似しているのかもしれんな。記憶を引き継いでおるせいで、周囲を見殺しにしていると思っている兎は、あまり救われているとは思えないがな。何も知らずに繰り返している連中は未来の不幸から救われているとも言えるのじゃ。

 結局のところ、心がある限り、世界が止まらない限り、何者も不幸に直面する運命にあるのかもしれんがな。

 つまらぬ話をしてすまなかったの。久々に話して脳が活性化した気がするぞ。感謝じゃな。私みたいに歳を取ると老化が激ヤバでかなわん。ウケるというやつじゃ。この先も、お主は様々な物語を読むことになるのじゃろうな。千差万別、十人十色、何もこの公園の話だけじゃない。本に限らない、映画に限らない、ゲームに限らない。世界自体が物語みたいなものじゃからな。お主の読んでいる物語が、せめて幸せな物語であることを願っておるよ。機械仕掛けの神様も腰を抜かすような奇跡で、ハッピーエンドを迎えられると良いな?お主自身の物語も。

 二匹の黒猫が笑い合い、二匹の鳩が歌い合う、そんなハッピーエンド。その足元はお花畑かの?それとも屍の山かの?はたまた屍の山に咲き乱れるお花畑かの?何でもよいか?きゃははは!

 ■■:00 劣知劣能の神様の話。担当はこの私、劣知劣能の神様がお送りしたのじゃ。

 じゃあの!――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ