すてーじ にのに
地に突き刺さる刀に近付くとじゅわーっと煙を出して溶けた。
『?? ああ。それ、呪われているんじゃないかな? マイナス武器。本来これにも使いようがあるんだけど。拾えないみたいだから意味ないね』
カシャーンと壁に当たる音がする。
人骨型魔物は背後から奇襲攻撃したらしく、壁にぶつかり子供が作る砂山の様に盛り重なる。
それを横目に階段を降りた。
引き返す階段は一段降りる毎に後ろの階段は闇に飲み込まれるように消えていく。
平坦な地に足をつけると階段が跡形も残っていない。
振り返れば地下へと向かう階段が部屋の隅にある。次層のに降りれば目の前にあると無作為に生成されている。初階層に多く歩き回っていただけに時間がかかることを覚悟していたが、そうでもなさそうだ。
最下層は宝石で装飾された大きな扉が立ちはだかる。それは重さもなく簡単に開く。
『うん。深層部屋に宝箱。最短で降りたから空腹システムあんまり関係なかったし、守護モンスターは一撃だし。感動が薄いよ!』
宝箱の中身を取ると浮いていた石像が割れて光に包まれると、一瞬で出口へと戻された。
日差しが眩しい。全一〇階層の洞窟探索は日中に終わった。
その場に捨て置こうとした腕輪は、馬鹿みたいに騒ぐので右腕に巻き付けた。
「どうもこんにちは。お前さんも、ここの宝に興味があるって口かい?」
洞窟から離れ、森を徘徊していると男が話かかけてきた。
髭を蓄え、紐付きの帽子にポケットの多いジャケットと探検家みたいな面長。
答えなど持ち合わせていないので、特に答えずにいると男性は何かを察した様子で、
「そうか……。お前さんも大変だったのだな。あの村から逃げてきたのだろう? 風のうわさで王国兵が駆り出されると聞いてな。今も戦場になっているのだろう。ってすまないな。配慮が足りなかった。お前の家族もそこにいるのだ……。いや、忘れてくれ」
気まずそうに帽子を深くかぶり、黙り込んだ。
「『あ、あのっ。む、村までの道。教えてくれませんかっ』」
演技派のアイツに表情まで操られて、神経がぴくぴくと痙攣が起きる。
「ああ、そうだ。街道まで案内しよう。俺はまだここでやることがあるから、せめてそこまで同行させてくれ」
『すげー。魔法無しに最速距離を進んでる。周回確定のマッパー泣かせじゃん』
つる植物だけが邪魔をする踏み固められた道を小刀片手に進む。
小走りと同じくらいの速度でずんずんと進む。
僕はといえば、手慣れた背後を目にしながらその後ろをついて行くだけ。
「ここで一旦、食事を取ろう」
草木が生い茂ってる周りに二畳ほどの広さの場所で僕に向かって提案する。
残っている草木を刈り、休めるよう手入れした。
「ここで誰かが過ごしていた後だ。お前さんも野宿するならそういう所を探した方が手早いぞ。でも、魔物には注意な」
薪を取り出し、魔法で火をつける。
暖かい。
揺らめく炎は永遠に見続けられる気がした。
薪も含めて奇術師顔負けの魔法で無空間から様々な野営道具を取り出す。
組み立て式の椅子を僕の為に作ってくれたらしく、ちょこんと座る。
ぱちぱちと音を立てる火に目を戻した。
鉄鍋を火にかけて手際よく食事を作る。
自然の一部と言われても不思議でないそんな風体と景色の組み合わせに、見惚れてしまっていた。
「さあ、熱いうちに食え。味は……保証しないがな」
勧めれれるがままに口にするが、肉や野菜が煮込まれた汁物の味は重湯に近く美味しいとは言えなかった。
この世界で五味に関するのもは全て害と認識されるらしく、その感覚が久しく無い。
この森で食べた虫入りリンゴもどきと変わらず、胃に入れる作業をするだけだった。
「俺は、王家直属の探検家だ」
食べ物を半分くらい減らした頃合いを見て語りだすのは、冒険者の性もしくは物語の定めなのだろうか? やった事のある数本のゲームの記憶からもそんな感じだった。
「って言っても、役職は調査員だけどな。カッコ悪いから自称でそう名乗ってるんだ」
一枚の紙を手渡される。
触った事の無いゴワゴワとした手触りで分厚く、ペンダント状の絵が描かれている。
「これを探しているんだ。相当な魔力が込められている秘宝だそうだ。これを身に着けたものは世界を統治できるって伝承もある位。伝説級の代物らしい」
『んー? 宝石がさっきのダンジョンの奴と同じじゃん』
そう言われると確かに似ている気がする。前面にある宝石が、腕時計の文字盤ほどの大きさといい、黒みがかった青の色といい書かれている情報と合致する。
『リストだと思っていたけれど、首に巻くものだったのかな? 首巻』
存在が津確かである伝承物が絵になっているのは矛盾を感じるが、僕が求めている点はそこじゃない。
僕はその冒険家様の目の高さに挙げた手からつる下げて見せた。
冒険家は僕の事を化け物を見るような目で見る。
「お前……、これを何処で。いや、どうやってあのダンジョンから生還した」
当然の顔をしている。人を化け物の様に見る青ざめた顔。そして、少しだけ僕を敵視する瞳。
僕は軽装である。服は数日の冒険で汚れて小さく破れて、おろしたての新品同然のあの綺麗さは見る影もない。光を反射していた模様は鈍くくすんで跳ね返す。
「あげようか?」
手首を向けて軽く揺らし、大きい宝石を見せびらかす。
「何が、望みだ」
「僕から奪い取って見せてよ!」
同時に足元からはあの時に見た亡者が這い出てきた。
『道中会話6』
「はたまた、びみょいスキル」
「ん?」
「最期に発動させたらしいんだけど、このスキル自分自身を対象に使えないのよねぇ。結局のところリフレクと使用目的が被りそうで。君の目的の自害にも使えないんだよなあ」
「どうせ使わないんだから無駄なこと考えていないで、さっさとどっちに向かうか指示してくれない? 方角あってる?」
「そのまま直進すれば、街道に出る。ちなみにスキル近道できないから。ざまあみろ。ふーんだ」