すてーじ にのいち
『道中会話5』
「広義にすることで様々な形で使用できる。例えば自動反射となれば手動幅が狭まるんですよ。ただの反射のみとなれば、両者を含むことも排除することも自分次第で好きに改造できるんです。それに加えて、予想のしていない様々な進化も見られるかもしれないんですよ。ここまで僕しか喋ってないですけど、ついていけてますか?」
「暇なの?」
「そうです。暇なんです。川沿いを歩いているだけで何も変わり映えしないですし、君の暇つぶし位になればと思いまして」
「歩くのに精一杯で、暇じゃないから。静かにしてくれないかな?」
「冗談。少しでも構ってくれるまで話し続けますよ」
森が騒がしい。
誰か襲われている。
それとも縄張り争いか。
どちらにしろ好都合だ。
襲ってくる奴が減るのだからな。
にしても、無理を言いやがる。
生還者がいない洞窟に入れなんてよ。
待ち人がいない、俺だからか……。
宝を持ち帰れば英雄――なんてな。
過去の冒険者記録を調べたが、初期の探索部隊以外で死ぬような人物が潜ったと記されてはいなかった。
生還するのが当たり前という人が数人はいたはず、なのに全てが死亡。
凶悪な奴がいて殺されたというのは、多分ハズレ。
爪跡は死後につけられたものであろう。
それ以外の不確定要素があると考えるべきだ。
利き腕じゃない腕が失われていた点、集団で潜った場合の剣による殺傷という死因。
たどり着いた結論は、食料。
安易な考えだと思うが、今の自分にたどり着く結論はその程度。
生存率を少しでも上げると、大量に買い込んだ食料……。
呪いに近いな。
生きて帰れっかなー。
*
テレビ番組、動物園。
間近で見た事のある四足歩行の生き物はそれくらいだ。
腰丈のネズミ、それよりは一回り小さいが爪や牙が鋭く素早いウサギが襲ってくる。
目の前で例の如く見えざる壁に跳ね返される。生えている硬質のものは砕け割れ、接合部からは出血する。それを何回と見てきた事か。通り魔の様に突進して怪我を負えば逃げるの繰り返し。学習する生き物では無い様なのでこれからも続くようである。
種別が判断できたのかといえば、この煩いナビのせいである。
『平原ではモンスターを見かけなかったけど、森に一杯いるっすねー。森に追いやったのかなー? できればレアなモンスターに合いたいなー。ゴブリンとかオークとか序盤に出そうなのもでないっすねー』
橋を渡った先には、木々が生い茂る森の入口があった。横道には街道らしき二車線ほどの広さがあるあぜ道が彼方まで。先にある町や村に向かうとなれば、当然そちらを進むべきであるが、
『その森の中にあるダンジョンをクリアしないと物語は進まないから、次のとこ行っても探索に戻るようになるから、そっちで』
とそんなエゴな指示により言われるがままに森へと進んだ。
木々の呼吸の香。肌にかかる湿度。木漏れ日。少し入るだけで景色は一変した。
現実世界と比べるなら、原生的か野性的なのだろうか?
突如ガアガアと鳴く声がこだまする。
上を見上げれば巨鳥の黒い影が日食する。
生きているモノが違った。
元居た世界の人や動物それともまた違う、この世界には魔物というジャンルが確かに存在してパズルのパーツの様に組み込まれていたのだ。
腹が空く。
果実を落とす。
力を所持してからの数日間と、幾度も向かって来ては同じように負傷するせいで大まかな形が想像できるようになると、神経の無い皮膚という感じに体の一部であると錯覚を覚える。その薄壁さえ見えるようになってきた幻覚さえある。
体調の変化により形は歪むという認識理解により、道中に無意識で形状変化させていたらしく、手足を動かすと同様に形は変化する。
かといって精密さはほとんどなく、松葉杖を足替わりに使うに近い。
落とした実は器型に窪ませた真ん中に落ちる。
『う――ん。バリアに薄い所と厚いと所を細かい網目状に作る感じ。それで、接地面を鋭く刃物みたいにする感じ』
宙に浮かんでいた実は伸ばした掌にポトリと降ってきた。
意識をしないと形状は元に戻る。常時半径が自分二人分と三メートル程の半円。これは自身に害があるものを無意識で自動的に反射する作用の他に、意識的に発動して形状を変化させる二種類目の性能があるらしく、能力の効果終了と共にべちょりと取り残された水分を含んだ繊維物は地面が先に食べた。
一口、齧る。
取り切れなかった残りの不純物は口元から零れ落ちる。
水分はほとんど無く、皮と
齧り口には、蠢く虫らしき幼虫。
口に入り、舌で味を感じ、胃に入る。
果実よりも、生虫の方が安全であるのか。
そしてもう一口噛み、飲み込む。
『オー、ジーザス。って僕が神様なんだけど。国の作成に目を向けるとこういう所で粗が出るんだよなぁ。都市経営ゲーと農業経営ゲーには手を出した事あるのだけどね』
餓死を選択は、前の村にて否定された。
手渡されたスープをダメにしたのだった。
水分は零れ、器は触れられず手から落ち、具材の大半は土を纏う。
定住者が食するもの全てが体に合わないという壁の判断にその日食べる事を諦めた。
餓死が終了に繋がらない事を聞かされた道中、草を食べ飢えをしのいだ。
彼のお気に召さない死は、リスポーン地点からやり直しになるらしい。
達成されないと知った手段に価値は無く、空腹という不快感を解消する為に胃に物を入れる。
『なび-げーしょん。なび-げーしょん。この近くに氷穴があります。そこに進んでお宝を手に入れて下さい』
指示された方角へ向かうと、温度が違う風が当たる。
薄着でまだ過ごせる程度の涼しさと裏腹に入り口が見ると、洞窟外まで氷がはみ出していた。
氷穴という名の割に寒さが物足りない。
穴に入ると本当に名前通りの場所だった。
壁に張り付いている氷は薄っすら青く水晶の様に見える。
やはり、さほどは寒くは無い。
何故だか地表面は凍っていなくて、ジャリジャリと小石交じりだった。
『おお! ローグライク系、キター!! いい仕事しますね。僕。このダンジョンは不思議な事に入ると、なんと毎回形が変わるんです。そして、そしてー。一つ行動すると、モンスターも一つ行動するんです。不思議ですねー。一番大事点は、お宝が最深層に隠されている事。道端にもレアなのが落ちていることがありますけどね。あ。それと上には戻れませんから、下に潜るだけです。あしからずー。ちな、最下層に行き着けば脱出できると思うので。ではではー。ぐっどらっくー』
進めば進むほど、本当に摩訶不思議であった。
広い場所に出たと思えば、人一人分の通路が丁字に分かれる。壁には常に松明が灯されていた。床には金銀財宝はもちろんの事、新品の剣盾、巻物や本、瓶詰の液体と統一無く雑多に転がる。やはり怪物は襲ってきては勝手に自滅する。さっきの森と異なるのは、消滅する点と落ちているものに似通ったアイテムを落とす点。
足元に来た握り飯を、踏みつける。
『食料ですよ!? なにやってるんですか!?』
木の実。持ち上げるが、硬くて食べられそうにない。投げ捨てると近くにいた巨大リスが食べ始めた。
『それも空腹回復アイテム。ってか、無駄に種類多くね? 今踏みつけたグミも。――果物は食べるんだ……。地べたに落ちたご飯は進んで食べるのも絵面的にキモイですね。妥協ラインは何かに包まれているやつでしょうか? 自分的にも。ラップに包まれていればいいんですが。魔法で宙に浮いているの設定は無しですかね? まあ、セオリー的に、空腹状態でダンジョン入ること自体間違えなんだけどね』
空腹を満たし、階段を降りで地下と進んだ。