たいせつなもの1
ある人物の記憶を手に入れました。
読みますか?
→はい
いいえ
「そなたに、第一部隊、部隊長地位を与える。前へ」
「はっ」
小さい頃に憧れていたこの景色は、今はそれほど嬉しくは無い。
他に思う所が多すぎるのも原因の一旦か。
「前隊長亡き今そなたしか任せられる人物がおらん。だが、私は確信を持っている。そなたの方が実力は上であることは皆の知っている所。そして国家に繁栄をもたらしてくれる事を。さあ、受け取ってくれ」
「はっ」
年を重ねる事に持つものが増える。
早く大人になりたくて、志を持った青年はもういない。
理想より現実が勝ったのはいつからだろう。
「静かにせよ! 王の御前であるぞ!」
ざわつくのも腹が決まればどうという事は無く、意識的に聞きたいものを選別できる程度に冷静だ。
「よい。不満もあるだろう。だが、そなたなら、出来るであろう?」
私に無理を言いなさる。
私にそんな技量は持ち合わせていないというのに。
そういった役目は出来るモノがあればいいと普段なら任せるのだが、この場はそうもいかないか。
「我こそは――――」
言葉とは裏腹に、私は戦いに、思考する事から逃げていた。
妻や子は寝ている頃合いの時間であろう時刻に私は星を一つ見つけた。与えられた星形の勲章は空の星に込めた想いや感動に比べて価値はどれだけあるのだろうか。
灯りの連なる横丁に入ってすぐに馴染みの酒場の扉が目に入る。
入れば普段より客入りが多く、指定席の如く利用している場所から離れた壁際に集団を見つけた。
「おう、俺の噂しているようだな?」
気の置けない良く見知った背中を叩く。
「してるのは、前の団長の支持層」
「中々に難しいですよね。団長殺しの噂」
「そういうのはお前らの役目。その分俺は肉体で働くから」
「面倒なのはいつも俺らに任せるんですから」
「その分やってくれるって信頼してますから俺ら、それにあの事も――」
「はいはい。今日は就任祝いの席だからそれはまた今度。とにかく、俺らは信じてついて行く事しかできませんから」
「妙に棘があるねー。酒でも飲み過ぎたのかな?」
「そろそろ帰らんと、妻の小言が増える」
「違いない」
「お前も独身だろ? だよな? なあ、なんか言えよ」
「俺も帰るわ」
「なあ、なあー! まじかよ。俺はもう一杯引っかけていくぜー!」
「今からは俺のおごりで無く自腹だからな、ほどほどにしとけよ」
私は友に感謝しつつ、心の中で謝っていた。
なんて、醜い人間なのだと。
私は『団長を目の前で見殺した』その鮮血が飛び散る光景は頭から離れない。
二人しかその場にいなかったこともあり、一人で帰還した私に王は英雄と称賛した。
それは私が団長を支持していた者に復讐されない様にした王の配慮であったのか知る由も無く、分不相応な称号を得た。
その時に負った傷はいえることが無く、不自由さのある左腕を動かすに、思い出させる。
今日もまた痛み出した。
台所は燭台が灯り、玄関に小さい灯りがこぼれる。
扉を開けると、妻は玄関で私の帰りを迎えた。
言葉を交わすでもなく、クローゼットに着替えに向かうと足音が後ろから付いてきた。
昨日取り出した箱に丁寧に包んでしまう。
「あんたの事は私が一番知っている。全く、小心者なのに。意地を張らないとやっていけない一番似合わない職にまで上がってしまうなんてね。世知辛いったらありゃしない」
振り返り、
「顔見りゃわかるよ。何年夫婦やってるってんだ」
立ち上がり、
「私が出来る事といったら、あんたのケツ蹴り上げてでも気を張らせることだけさ。頑張りなよ」
抱きしめた。
勇気が一上がった。