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すてーじ いちのに

「ようこそ。アーサ村へ。私は村長のイープだ」

豪邸の建物の主が僕を招き入れ、客間で媚びるように発した。

この村で一番大きい屋敷は外装も豪華であったが、内装にも手をかけており、動物の剥製、壁掛けの銃、宝石、絵画と様々な美術品が並ぶ。

そんな埃一つ被っていない悪趣味なものが陳列する長い廊下の途中にある客間に通された。

召使いらしき人物に持ってこさせ袖を通したポンチョ型の服にしたって、民族衣装の雰囲気に合わせて細かい装飾が施されていた。これ一つにしても自己顕示欲の塊としか見えなかった。


「元々我々は盗賊業をやっていたのだが、ここいらの流通で財源を一山築いたんだ」


金持ちに対する偏見は持っていたのかは、そんな友人との出会いが無かった自分に尋ねても答えが出る訳でもない。

こいつの場合はそれをひけらかす行為を含め、癇に障る。

単純に嫌いで、不潔感さえ感じる。


「私にお前を何不自由なく生活させてやる財はある。私たち的には、この村に残って――いや、村民になってくれ。それが気に召さないなら、村長の椅子だって譲ろう。なあ、残ってくれないか? いや、残っていただけませんか? この通り、頭も下げますし、何卒、何卒よろしく――」

話を遮るようにツカツカと進み、机を両手で叩き「父さん! いい加減にしてください!」と声を荒げた。

「お前は黙ってろ! す、すみませんね。お気を悪くしませんでしたか? そうだ。うちの娘なんか嫁にどうでしょうか? 容姿はそれなりですが、気が強いのが難点でして。好みでないのなら――」

娘の怒号に対しそれ以上の強さで一蹴して媚び諂う姿は、他者がどう見えたかなんて容易に想像が出来る。

その言葉で周りは言葉を発さなくなった。

自分を含めここにいる全ての目は濁り腐っていた。

村人が村長に思うことは、自分の思う事に加えて一つの感情。

表情も仕草も見える。

違うから、異物だから。

この光景は――。


「すみませんね。自分だけ長話をして。とにかく今日はもう遅い事ですし、この辺で。客間をお貸ししますのでどうそゆっくりお休みください。その間に考えていただけませんか? って決して急かしてる訳じゃないですよ。じっくりとお考えしてお答えを聞かせて下さい」


羅列した戯言達の途中、村人たちがキャーと叫ぶ声がここまで聞こえた。

ここに集まっている数人は合図するでもなく、外の騒ぎの方向へ向かう。

皆のあとをついて行った。


「村長、も、亡者が」

見える範囲ではあるが、数体その言葉通りに人とはまた違うものが横たわっている。

「スピネは右方向。救護も頼む。シピはワシについてこい」

スピネと呼ばれた女性は、亡者の足を狙い切り落とす。

そして村人も魔法で切り刻む。

「こんな時間から、しかも数が多い」

亡者と呼ばれる人型のものは、地から這いだし人に襲い掛かる。

力の強さは成人男性程度の強さの様で、捕まっても魔法を使えるこの世界の住人にとって苦も無く逃げ出せていたが、子供にとっては難がありそうだ。難がありそうでも決して死に至るほど急を要するものでもないせいか、怪我をしている者も見当たらない。

ズチャ、ズチャ、と湿り気の帯びた足音から迫りが感じ取れる。徒歩並みのスピードからも容易に逃げ切れる。そんな亡者は腕を切り落としても、頭を切り落としても動いている。

足など下肢を切り落としたり、バランスを取れなくなるように切る事でその場から動けなくする。

更に魔法によって細かく刻む。

そいつらは泥のように辺りに散らばる。

体液の色も粘度もそれだったからきっと泥と表現したのだろう。

そうやって村人全員が協力して対処していた。


僕に向かってくるそれは、感触も無く踏みつぶした。


『神様がログインしましたよー。

いやー、ごめんねー。ちょっと呼び出しくらってー。って、ゾンビ強襲イベ来てんじゃあ、ないですかあ! ほら、ぼさっとしないでさっさと攻撃して』

「なぜ?」

『なぜって、経験値だよ、経験値』

「……」

『動かないなら、僕が動かすよー。あいはば――って、終わってんじゃん。撃破数二体……。稼ぎどこだよ。稼ぎどこ』


「えーと、大丈夫そうですね……」

全身泥色に染まった女性が僕を見る。手は亡者と戦闘中同様に光っていた。

「明日の朝にこの村を出て行って貰えませんか? 失礼なのは重々承知ですが、貴方がいるとこの村がダメになってしまうので。本当は今すぐにでも出発してほしいと思っているんですが、夜道は危ないので……、そのー、申し訳ないかなって」

「『わかった』」

僕の意思に反して、一晩泊まることになった。

『夜道は暗いからねー。見えにくくってつまらんのよ』という下らない理由で。

「私は村の端まで向って残存を倒しに向かうので、それでは」と彼女は去って行った。


日が暮れる頃、村人たちは今朝の黒焦げの遺体を持ち出し、数時間で組み立てた祭壇へと運ぶ。

大男は丁寧に斧を振り落とし、死者の首をはねる。

腕を落とす。

足を落とす。

体を、二つ、三つ、四つ。見た感じで等分していた。

それが終わると、一人の女性が右手の指を切り落とした。

祭壇に向かい村人全員が一列に行列する。

一人が壇上に上がり、ナイフで切り欠片を両手で包み箱に入れる。

無言で次々に一太刀入れていき、小さくなる。

それらを四つの箱に分けいれたものを指切りの女性と村長、村長の娘と誰かが抱えて、村人を先導し村の端へ向かった。

村の端まで来ると先頭の女性が箱を土に埋める。

繰り返す事四回。四方に一つずつ。

「ご参列、ありがとうございました」と同い年位の指を切りした女が式を締める。

これが、ここの葬儀だった。


僕は村長の用意した部屋に戻る。

外の空気が嫌だった。

ノックの後、一人入ってくる。

先ほどの女性だ。

灯りも付けない暗い部屋の隅にいる僕の隣に座り、彼女は言う。

「私、バカだから分かんないんだ。私の旦那はもっとバカだったけどね。無鉄砲で考え無し、そんな性格。だから危なっかしくてね。でもね、私には優しかったんだ。私たちの結婚は村長による仕来りで決まってたけど、そんなに嫌じゃなかった。友人ですっごく嫌がった人を見たからかな。何より、私は好きな人もいなかったし、苦じゃなかった。幸せだと思っていたんだ。でもね。今日、君に殺された瞬間を見た時、何も思わなかったんだ。何も感じなかった。可笑しいよね。酷いよね。葬儀の最中の悲しくもならなかったんだ。

私って何なんだろうね?」

その顔は確かにこちらを向いていたのだが、暗くて見えない。

月明かりが彼女の髪を薄青く照らしていた。

「何話してるんだろ、私。気持ちが追い付かないんだ。ん、気持ちが追っかけてくれないんだ。皆は不幸そうに振舞っているけど、本心ではさっきみたいに騒ぎたいだけ、酒を飲んで食事して。ほら、騒ぎ声がまだ聞こえる。

ところで、私は何がしたいのか分かる? 

って分かる訳ないよね。私も分かんない。やっぱり、私ってバカだ」

顔がさっきよりも近づく。

「いいよ。村長に言われた様に、しよっか?」

「……」

「答え無いという事は、いいんだね?」


「君は、僕を殺せるのかい?」


その問いに彼女は何も言わす駆け出し、扉から出て行った。

相変わらずの姿勢で背中と肩で壁にもたれる。

窓のから見える月から放たれる光が、僕の半身を照らしていた。


『人の営みをのぞき見する趣味は無いけど、仲間か、嫁に出来るチャンスだったのに良かったの? 僕的にはもっといい女をお勧めするけどね。そういうのが趣味タイプなら責めないけどね。まあ、毒か不意打ちによって君を殺すつもりだったろうけれど、それは問屋が卸さないのだなー。リフレクションがフィルターになるからね。それに彼女自体が害と見なされれば。さぁて、どうなっただろうね?』

『道中会話2」

「僕が悪かったってー。説明させてーな。それともおまんま食べれなくて気が立っとるんか?」

「……はぁ」

「ちょっとまってな。今スキル説明開くから」

「お前が作った能力じゃないのか?」

「そやけど。日々進化しとんねん。えーと”自分に害のあるものを弾く”やっぱり考えた当初と変わらんなー」

「そうか似非関西」

「似非ちゃうし、一年くらい住んどましたー。ってあれ?」

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