報告1
「○○村の件です」
入口の扉付近でブロンズ製の鎧を纏った兵士が二人敬礼をし、真鍮を纏った兵士一人は人二人分ほど前に出て手を後ろに組む。
対面には壮年の男性。顔は彫が深く、特徴的な傷。服の上からも筋肉が感じ取れ歴戦を数々の勇士を未だに色あせる事の無く感じさせる。
赤い布地に金縁で装飾された椅子に深く腰を据えて、エンブレムをモチーフにした肩当てに胸ポケットには金属のチェーンにカフスボタンと所々に磨かれた金属をあしらわれた白を基調とした服装。
王への謁見を前に若年である兵士二人は固さから緊張が見える。
「○○率いる討伐隊と相打ちになった模様です」
「生存者は?」
「ゼロです」
「そうか……」
王は呟くと口は閉じたままに口角は下がったままに目線を下げる。執筆時に愛用している木板の下敷きに一定の間隔で何度も指を打ち付け考えていた。
村民おおよそ二千に対し兵士は三百数十。先発隊として向かった兵は隊長を含め全滅という結果に終わった。
隊長と副隊長のみの出発の安全を祈祷した簡素な式典の際、王の激励は決してその一部隊のみでの戦地に向かわせるものではなかったのだ。降伏勧告の使者としての激励であった事はここにいる同席した副長の兵士も知っての事である。
異常事態から調査も半ば、現地の調査隊である副隊長が先に帰還し王へ謁見しに来たという訳である。
王は冷血な人物である。知略は戦術師を上回る。ここに住む城下の町人は知才と残虐さを口々にそんな人物像を語るであろう。
頭が回るだけに、死地に向かう兵士はその理由さえ気付かず死んでいると他国の軍師は評価する程。
その段階にいる人物が未だに口を開かない。
従属している身はの全ての者はその武勲を目の当たりにしたからこそ、肌で感じるほどによく知っている。よく知っているからこそ兵は黙って王の言葉を待つ。
その沈黙は一人の兵により切られた。
「あの武神と言われた○○が戦死するとは考えられませんが、現地の調査隊からはそう報告が上がっています」
若さからか。それとも王が目的の遂行を違えたという事実が信じられないという心情か。それを知る由もなく、それの答えを求める人物はいなかった。
「いや、よい。――丁度良い。そのうち邪魔になるだろうから、何処でくたばろうが関係ないよ。駒はまだある」
労いの言葉を求めていた訳ではない兵も、王のその慈悲の心の無い口調に、カチャリとブロンズが擦れる音した。
「他には?」との王の言葉に「……以上です」と未だ黙っている部下を現世に醒めさせる為に話を切る真鍮兵。
「では、下がってよいぞ」
はっ! という掛け声と共に敬礼をして兵士は下がった。
「計画通りに進んでいる様で結構な事だ」
そんな声が兵がまだいる廊下に小さく響いた。
……
まだ使える奴を失ったのは痛手だが、得るものは大きいはずだ。
これで、他国との交易も楽になる。
奴らが牛耳っていた権利を全て我が物にできる。
次になすべきは……。