魔法の力!?
「私は、あなたはやればできる子だと信じていましたよ」
(疑ってるからテストするんじゃないか)
「まさか、しっかりかけ算ができるなんてねぇ」
(答えを写しただけなんだけど)
ペイジおばさんとママの驚いた声に、心の中で答える。
奇妙なことに、ママは窓の方を見たが、何も気がつかなかったのだ。
「僕はいつか立派な騎士になる男なんだ。当然だよ」
ママたちには、とりあえずそう答えたが、僕の頭の中は混乱している。
(あの時、ママはしっかりと窓を見ていたのに、どうして気づかなかったんだろう)
「ごほうびに、今日の晩ごはんはごちそうだ」
ママはそう言うと、嬉しそうに部屋を出ていく。
「明日の礼儀作法のテストもこの調子ですよ」
ペイジおばさんは、またとんでもないことを言って部屋を出た。
(礼儀作法のテストなんて聞いてないよぉぉぉ)
ペイジおばさんが、「今言いましたからね」と言った気がした。
(どうしてママは気づかなかったんだろう)
1人残された部屋で首をかしげる。
木枠にはしっかりと7の段が刻まれている。
とりあえず、ママが立っていた場所から見てみたが、はっきりと7の段が見えている。
立っていた場所は関係無いみたいだ。
どうしてばれなかったのか、気になって仕方がない。
「ママ、何本指をたてているか見える?」
今度はママの目が悪くなったのか調べる。
だけど、ママの目が悪くなったということはなかった。
(お手上げだぁ。うまくいけば、カンニングしほうだいだとおもったのになぁ)
僕は、窓の横の7の段とにらめっこする。
「どうしてお前は、ママにばれなかったんだ?」
文字が返事をするはずもなく、時間がどんどん過ぎていく。
長い間睨み付けると、なんだか不思議な気持ちになってくる。
この世界に僕と7の段しかいないような、そんな気持ちに。
そして、ふと気づいた。
(この7の段はどうやってけせばいいんだぁぁ)
誤算だった。
ママが明日掃除をする時に、ばれてしまう。
考えても、考えても消す方法が思い付かない。
(神様!!7の段を消してくれ!!)
(消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ!!)
何かが僕の体の中から抜けていった気がした。
そして、気づくと7の段はなくなっていたのだ。
(魔法だ!!僕は魔法が使えたんだ!!)
騎士には2つの種類がある。
純粋な剣技のみで戦う剣騎士、魔法と剣を使い分けて戦う魔騎士である。
剣騎士になるのは、よほどの腕でないといけないが、魔騎士は魔法さえ使えればそうでもない、とペイジおばさんに聞いたことがある。
(それに、これからはカンニングしほうだいだ)
僕は、外に出ると魔法を色々なものに使ってみる。
大きな岩を真っ二つに割ったり、その岩をもとに戻したり、世界が僕の思い通りになったような気がした。
僕が想像したことが、そのまま現実で起こった。
(今の僕なら何だってできる気がする。狼女だって、もう怖くないぞ。僕は魔騎士になる男なんだから)
今日の晩ごはんは、ローストビーフだった。
柔らかい、焼きたての牛肉に、ローストビーフを焼くときに出た肉汁を使ったソースをかけて食べる。
さらに、ふっくらやわらかいヨークシャー・プディングと一緒に食べると最高だ。
(今日の朝は最低の一日になるとおもってたのに、魔法が使えるようになったり、ごちそうが食べられたり、やっぱり最高の一日だった)
「ママ、プディングおかわり!!」
「今日は特別たくさん食べるねぇ。ちょっと待ってな」
ママは、僕の顔を見て、少しあきれたような顔になりながらおかわりをくれた。
真夜中
(今日はみょうにお腹が減ってたなぁ。普段の倍は食べちゃった)
そんなことを思いながら、僕は礼儀作法について書いたノートを取り出す。
(よしっ、魔法でおぼえちゃおう)
(覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ 覚えろ)
・・・・・・・
どれだけ念じても、まったくおぼえられない。
(明日の礼儀作法のテストどうしよぉぉぉ)
真っ暗な僕の部屋に心の声が響きわたった。