テストで満点をとる簡単な方法
「簡単な計算ぐらいできませんと、騎士になんて一生なれませんよ」
ペイジおばさんの厳しい声が部屋に響く。
「計算なんてできなくても、騎士には関係無いよ。剣が強ければいいんだ」
「騎士とは教養も備えていなければなれませんよ。計算もマナーもできなければ、傭兵がやっとです」
(そんなこと言われたって、かけ算は僕には難しすぎるよ)
「7×4は28だと何度も言っているでしょう」
「7の段なんて覚えられないよぉぉぉ」
これで何回目だろうか、7の段を間違えるのは。
こんな感じで午前中が終わる。
午後は礼儀作法の勉強だ。
「礼の仕方が間違っています」
「たかだか礼の仕方なんて誰も気にしないよ」
「騎士の方がされる礼はとても美しいものでしたよ」
ペイジおばさんは僕が騎士になりたがっているのを知っていて、なにかと騎士ならどうとかこうとか言う。
昔、騎士の人と付き合いがあったらしい。
立派な騎士を目指す僕は、それを言われると逆らえない。
(騎士についていろいろ聞けるのは楽しいけど、やっぱり苦手だ)
ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン
「鐘が4回、4時だ!」
4時は勉強が終わる時間だ。
「明日は計算のテストをしますよ」
「うぇぇ、そんなの聞いてないよぉ」
「今言いましたからね」
ペイジおばさんはとんでもないことを言う。
テストの点数が悪いと、罰として1ヶ月トイレ掃除当番になるのだ。
(結局今日も7の段言えなかったのに)
「あなたはやるときはやれる子だと信じていますよ」
「がんばりまーす」
ペイジおばさんは、まったく根拠の無いことを言う。
今日できなかったことが、明日できるはずがないのだ。
真夜中
ママが寝ていることを確認すると、僕はこっそり階段を下りる。
いつも勉強している部屋につく。
ノートで7の段を確認して、窓の木枠にそれを書き写す。
ペイジおばさんは、あまり目が良くないから見えないはずだが、僕なら机に座りながらバッチリ見える。
(これでトイレ掃除をしないですむぞ)
僕はそう確信すると、こっそりベッドへ戻るのだった。
「アンガスっ、起きなっ!!」
ママのいつもの怒鳴り声で目が覚める。
昨日、夜起きていたからだろうか
(ね、眠い・・・)
半分寝たまま朝ごはんを食べる。
「アンガス、今日はテストをするんだってねぇ」
ママの言葉にハッと目が覚める。
「なんでママが知っているんだよ」
「そりゃぁ、ペイジさんが教えてくれたからねぇ。アンガスの頭の具合も見たいし、私もテスト受ける様子を見ようかねぇ」
ママがとんでもないことを言う。
ママは恐ろしく勘がいいので、僕がカンニングをしたらすぐ気づくだろう。
(ヤバい ヤバい ヤバい トイレ掃除は嫌だぁぁ)
「別にいいよ。ママも掃除とか忙しいだろうし」
「1日ぐらい大丈夫」
「えーっと、あれだよあれ、普段いない人がいたら集中できないし・・・」
「ふーん。ママがいたらなにか都合が悪いのかい」
(完全に勘づかれたぁぁぁ)
(もうダメだ、1ヶ月トイレ掃除とか地獄だよ)
テストの時間を迎えた僕はきっと悟りを開いたような顔になっているだろう。
「直前の勉強もしないなんて、よほど自信があるんだねぇ」
ママはニヤニヤしながら言う。
(いいえ、諦めているだけです)
そして、テストが始まった。
見事なまでに7がでるかけ算ができない。
僕は考える。
(このままだと1ヶ月トイレ掃除だ。しかし、今から窓を見れば答えがわかる)
(しかし、この事がママにばれたらトイレ掃除どころじゃない)
(やらないで諦めてたら立派な騎士にはなれない!!)
僕は決心した。
(トイレ掃除を黙って受け入れるなんてごめんだ)
そして、窓を見て答えを書き写す。
[7×9=63]
僕がそれを書き終えた時、僕が窓を見ていたのに気づいたのだろうか、ママが後ろを振り返り窓を見ようとする。
(ばれませんように ばれませんように ばれませんように)
僕は祈ることしかできなかった。