第3話 天使は?→堕落した。
「ふあぁぁあー」
結局朝の3時までレベル上げに費やした。途中lv81のボスモンスターが湧く場所があり其処で連戦して15lvを稼げたのが大きかったと思う。但しボスモンスターはlv78になった瞬間から経験値がゴミと化してしまったのには参った。中々レベルが上がらない様に出来ている物だ。
ドロップした硬貨に加えゲットした魔石やアイテムを売るとなんと350万ギールにもなった。但し低級の回復薬を体力回復薬(小)を50個程使ったので収支は+300万ギールである。
はぅ!これだけ稼げれば10回死んでも大丈夫!って今はレベルが+20の狩場でも中々死なない装備です!早く帰ってまたレベル上げを楽しもう。そう思って仕事にも気合が入る。
しかしその気合は例のネチネチ係長の前に脆くも崩れ去った。
「〇×さん、ちょっとこれ文章がおかしいですよね。」
はいはい、悪うございました。て、に、お、は、採点係長様は文章の不完全さに得意の御講義を始め俺はハイハイと頷くだけの無駄な時間を過ごす。勿論、間違えたり不満を覚えられる様な文章を書く方も悪いのである。それは認識しているがコストパフォーマンスを考えて欲しいのだ。そこで1文字間違っていて誰か死ぬのか?取引で損をするのか?表現が気に入らないとか真っ赤に直すのは自己満足でないのか?...すべては負け犬の遠吠えになるので面従背否で直立不動する。
頭の中で3回ほど係長が俺の手に依って死亡した頃に解放された。ふうー。こいつとセックスしなくちゃいけない奥さんが可哀そう、きっとねっちこく遣られているんだろうなと碌でもない事を考えながら席に戻る。
まあでも仕事なので真っ赤に成る程赤ペンで修正された書類を直すために祖有名OSメーカーのワープロソフトを立ち上げる。優秀なソフトだが日本語変換がおかしくて自動変換で間違える度に間違った語彙を覚えて益々使えなくなる。それに日本語変換中に度々フリーズして勝手に落ちてしまう事、更に言うとライセンス料がバカ高い事を除けばまあ良いソフトである。
「つきましては、前述のA案をご承認頂きたく申請申し上げます。
メリットとデメリットの比較表は下記表1をご参照願います。
‥‥‥
ワープロを打つ指が止まる。
本当は分かっている。俺がいくら申請書を書こうが上手く書けない事。
序に負け惜しみだが、申請書の文言に一喜一憂する様な大会社の将来性は先細りだと思う。
例え申請書が美しく理論整然としていても現実の実行結果は関係者全員の予想を遥か斜め上を行く事が多々ある事は周知の事実である。
そういう時は結局ゴルフ仲間・飲み仲間・仲の良い派閥で賞罰は決まり申請書通り行かなくても問題はもみ消され紙のルールを超えて上手くご機嫌を取る事が入口と出口を決めている事。
その日は1日文章を捻くり回して終わった。それが指示だった事もあるしそれ以上やる気も起こらなかったという事も多々有った。もうこの派遣先も終わりだろう、次の派遣先はどんな人たちがいるのか? 想像する元気はその時の俺には無かった。
◇
『馬之助殿、一度某の主人に会っては頂けぬか?』
説明しよう。
失意のまま安アパートに戻った俺は逃げ込む様にゲームの世界に入った。
そして再度迷宮に潜る直前に何時ものレストランの軒下で乞食業を営む古ぼけたマントを被った茶色い半袖の町人服姿のカバカバ氏に何と1億ギールと言う大金を施したのだ!何か人に施しをしたい気分だった事もあるのだがなんたってそれでも総資産約510億ギールは伊達じゃあない。取引税7,000万ギール天引き表示に苦笑いしつつカバカバ氏に別れを告げようとした矢先であった。
馬之助はその誘いを承諾した。
危ない奴かもしれないが彼の主人という者との会話がしてみたい、それだけの軽い理由だった。
『ゆめゆめ合言葉を間違えぬ様、良いですか?”天使は”と言われたら”墜落した。”ですぞ。仲間に会ったらこの手紙を渡しすのですぞ?』
おいおい確実に碌でも無い奴だろう?!
そう思いながら言われた道を辿り街の下水溝へと潜り込んだ。
バーチャルリアリティーと追及したゲームとは言え匂いが無くて良かった、之が本当の下水溝ならば胃の中の物を吐き出していたかもしれない汚い風景に思わず顔をそむける。
俯き足元を見ながら我慢して歩くと黒いローブ姿の人物が座っているのを見つけた。
『天使は?』
『...堕落した。』
『おおー良くぞ参られた我らが支援者よ。何!カバ氏の報告によると何と3,000万ギールも寄付頂いたか?有難く使わせて貰う。貴君は寄付額が大きいのでマスターが直々にお会いになるだろう、ついて来なされ。』
マスター?
ギルドマスター? 剣のマスター? 何のマスターだろう?
不可解な言葉に釣られてフラフラと後を追う俺。
”ぎいぃ”
効果音と共に壁が開く。こんな所に隠し扉が?!
ローブ男に続いて隠し部屋に入った俺はその部屋の主を目にした瞬間に足を踏み入れた事を後悔した。
なんだこの男の賞罰は!
男の頭上にはありとあらゆる賞罰が凝集した黒い靄となって闇が漂い浮かんでいた。詐欺・恐喝・傷害・ゆすり・たかり・殺人・強姦・聖職者への迫害・運営妨害。...
最後のは何だ?聞いたことも無い。運営もそんな賞罰付けるパワーがあるなら取り締まれ!
ビビッて挨拶も忘れて立ち尽くす俺。そんな馬之助に向かって外見も半悪魔化した部屋の主がおぞましい声で語りかける。
『‥‥…///‥‥-‣///‥‥…/‥‥…///‥‥-‣‥‥…///‥‥-‣//////‥-‣///‥‥…///‥‥-‣///』
あれ?外国語か?
俺は慌てて自動翻訳の会話ウインドウに視線を移す。
「この世界が憎く無いか?俺と貴様で世界を変えようでは無いか。どうした?さあ掌をこちらに翳せ。」
馬之助の手を男に翳すと手元で火花がこぼれた後、馬之助の手の甲にタイガーカラーで奇怪な紋章が穿われた。
「ようこそ同士よ、我が秘密結社アーマゲダンへ。」
こうして成り行き上とは言え怪しい秘密結社の仲間入りをしてしまった馬之助であった。
(つづく)
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