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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
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第47話 脱出

目を通して頂き有難うございます。

 そしてその頃ワールドハピネス社1Fの会議室では…


 「銃弾でサーバーが故障した場合甚大な金額の被害となるという御社の主張を考慮しまして、睡眠ガスを送り込む事としますが之で良いですね?」

 「いいえ、睡眠ガスは若干ながら腐食の懸念があります。我々としては非活性ガスによる窒息を希望します。」

 「ですから...人道的見地から毒ガス室送りの様な真似は出来かねますと先ほどから...」

 「酸素濃度低下で一時的に気を失わせ、すぐに酸素を与えれば良いじゃ無いですか?」

 「後遺症が残らないと断言できるんですか?!彼らは不法侵入者であって拳銃の不法使用はしていますが未だ誰も傷つけて居ないのですよ?!」


 話は平行線で纏まる様子が無かった。


 ◇


 義援隊第一軍のリーダー”丁絶縁”は安息角が治めるギルド”抗菌野糖”の副GMである。


 ワイバーンの群れを捌き切った彼ら第一軍はその1/3が戦線から脱落し、今は白い天使が足止めしてくれている巨大サソリを距離を持って包囲する事しか出来ない状態であった。

 

 しかし彼は諦める事が無かった。元々参謀タイプの彼は知恵を絞って戦うという事に長けており、集団を指揮する事にもその能力を発揮した。ギルド同士の集団戦ではいつも的確な指示を出して彼らのギルドを中央一に何度も導いた物だった。


 『くそっこんな所で終わって堪るか...』


 しかし残り2/3の戦力はお世辞にも超級レイドボスを相手に出来る物では無い。


 『支援隊!』


 『はっ!ここに!』


 『あの白い天使に支援を飛ばせるか?』


 『地上からは無理です。ですが召喚魔法使いが一人残って居ます。彼に飛竜を召喚させ近づけば可能でしょう。』


 『間違って攻撃される可能性もあるな?』


 『白旗を振って参りましょう。万国共通で通じる筈です。』


 ◇


 白い天使セイファの装備を纏ったカオスは空中を高速で飛び回りながら巨大サソリの外甲殻を少しづつではあるが確実に削りつつあった。


 そこへ彼から見れはとてもゆっくりな速度で飛竜に乗った剣士が白い布を振りながら近寄ってくる。サソリの近くまで来られては危険なので忠告する為に近づいて見た。


 『君達、危ないから下がって居なさい。』


 『あっNPCじゃない?こんにちわ、俺たち特別クエストの義援軍に参加した者ですけど、リーダーから貴方に支援魔法を掛ける様に言われてきました。」


 『そっそうか...(この装備の能力に取っては支援など変わらないも同然だが、無下に断るのも失礼だな…)有難く頂こう。』


 『ではこの魔導師が掛けますね。攻撃に爆破効果が付く魔法とHPの自動回復1%/分の魔法です。えーーっと...白騎士様。』


 『セイファだ。白天使のセイファと呼んでくれ。』


 これはカオス氏が恰好を付けたのではない。装備の名称がそうなっていただけである。


 ただ、支援から戻った男達が興奮冷めやらぬ様子でセイファの事を話したので一時期白天使セイファという言葉が随分噂されたのは事実である。


 『セイファっ!向こうから沢山来たわ止められない!!』


 やっと我が家に合流したサリー(ルビエル)からのギルド通信でやっとカオスも目の前の敵から視線を外し、遠くの土煙に気が付いた様だ。


 『サリー、バトゥ君に洪水系の龍魔法が使えるか聞いて見てくれ。』


 俺は必死になって使用可能魔法の説明書きをスクロールさせる。


 「えっと、水龍の怒りは巨大な水鉄砲で水龍の嘆きは底なし沼...もしかしてこれ使える?」


 ダメもとで水龍の嘆きという魔法を長ったらしい呪文を添えて発動して見ると足元から水が湧き出て目の前に大きな沼が出来た。


 『ルビエル、セイファに足止め成功と連絡!』


 その時、丁は離脱した筈の守護チームの姿がドンドンこちらに迫っている事に気が付いた。しかも馬に乗っている者は少ない。

 

 

 『槍隊槍を立てたまま前へ!味方を通したら直ぐに構えに移行!』


 『済まない丁。冥府王だ!奴が出た!!』


 『マスターしっかりして下さい、これじゃあ挟み撃ちじゃないですか?!』


 『重力で押さえつけたんだが、雑兵が奴の上に山になって...そしたら雑兵たちが分解を始めたんだ、半透明な人間の山が出来た。』


 『...』


 『それで急に雑兵達の下敷きになっていた冥府王に重力が通らなくなったんだ、透明な雑兵がまるで魔力を遮断したかの様に奴は易々出て来やがった。それからが大変だ、魔力を振り絞っていた重力使いが盾役の魔術師と共に分解された。冥府王には絶対防御が効かないんだ、こんなチートやってられるか!』


 『それで、どうするんです?挟撃されて我々も分解されちゃうんです?』


 『丁!何でお前はそう何時も冷静なんだ!手におえないからお前の所に逃げて来たんだよ!!』


 なんとも情けない大将である。が、神輿に乗るのはこれくらいが良いのかも知れない。結果天使達との距離が縮まりルビエルとサファエルが間に合ったのだから。


 『デビルっ!これ以上POJOには近づけさせない。』


 俺はサファエルでデビルの前に立ちはざかると蒼龍剣を構えた。


 遠くからは巨獣たちの群れ、すぐ脇のボスはカオスさんが押さえているが後方には目つぶしから復活しつつある厄介なボスが1匹。目の前には全てを消し去るチート魔王と絶対絶命である。しかしこの場合チート魔王1体を抜ければ逃げ切れる可能性もある、何故か分からないがコイツは武器を零化させることが出来ない。この蒼龍剣で突き刺せば奴のライフをもぎ取る事も可能なはずだった。


 しかし向き合った二人の頭上に空高く緊急メッセージが流れるとアニヒレイターが叫んだ!


 『デビル!時間が無い、薙ぎ払えっ!!』


 シークレットワードだったのだろうか?その言葉を聞いたデビルの目は更に爛々と赤く光り魔鎧から暗黒の瘴気が噴き出しそれは辺りの地面や岩さえも透明に分解して行く。


 俺はサファエルの手を見る。

 鎧は瘴気に犯されていない!しかし指先は既に分解して無くなりつつある。蒼龍剣は見えない透明な手に握られた状態で構えられ何時まで保持できるのか全く分からない状態だ。

 出し惜しみ何て意味が無い。残り全てのMPを消費して一番効果のありそうな技をクリックする。蒼龍剣はその刀身を青白く光らせながら周囲の熱を急速に奪い始めた。


 しかしデビルから噴き出す瘴気はどんどん濃くなる一方だ。

 サファエルは慌てて蒼龍剣に体を預けると突進する。もう腕なんて存在しない。小手だけが宙に浮いているバグモードだ。このまま消えてしまうのか?

 窮地を救ったのはやはりサリーだった。サリーも分解されながらルビエルの鎧を盾として俺の前に身を挺す。目の前には真紅の鎧。中身はもう殆ど消えて無い。赤い小手だけがサファエルの消えつつある体を優しく抱き寄せる様に閉じてくる。

 漆黒に浮かぶ透明なサリーの胴を蒼龍剣で貫く。手ごたえは無い、その先の見えない瘴気の先に、デビルに届けと願いなら最後の一撃を繰り出した。


 ◇◆◇


 パソコンの画面は一瞬真っ暗になると初期のロード画面が自動起動する。

 そこで表示された前回ログインIDのままパスワードを打ち込むと初めて実感した事がある。この小さな画面から広がっていた零と1の織りなす広大な冒険空間に繋がる入口が消え去った事を。


 パソコンの画面には『キャラクターデータが在りません。作成しますか?』とだけ表示されている。サリーのパソコンも同様だ。


 サリーは両手をギュッと握って唇を噛み締めている。

 時間を掛けて大きく育てたキャラクターをこの様な残念な形で失ったのだ、消失感に声に成らないのだろう。


 そう思って慰めの声を掛けようとした時、サリーが唸り声を上げた。


 「まだよっ!馬ちゃんのキャラでもう一回ログインよーー!」


 そう叫ぶとサリーは何故か知って居るのか目の前のPCで馬之助のIDをタイプするとパスワードに適当な文字を入力し始める。


 「ちょっ10回間違えたらロックだから適当は止めてっ!サリーマイラブとか絶対そんなんじゃ無いし!」


 「じゃあ誰ラブっ!」


 「qwert1234だから!!」


 非常に安易で申し訳ないが、記憶力に劣る俺はキーボードの左端を2列程継ぎ足したパスワードにしていた。


 「ちょっそれに馬之助で入ると逆探知が怖いーーーって?」


 問答無用でログインされた画面に映し出されたのは赤い砂嵐交じりの風景。


 左端に青と赤の鎧が折れ重なる様に倒れている。


 右側では馬車を破壊され、デビルの攻撃に分解されつつある守護PTの猛者達。


 目の前には純白の天使装備で剣を振るうカオス氏。


 その奥には空からこれでもと言わんばかりに無数の黄色い重質量物をボス共に降り注がす後ろから見るとすごく恰好の良い金色の天使。


 『探せ!鍵と箱だ、早く!もう持たないぞ!?』


 馬車を分解し尽くした瘴気がセイファ装備のカオス氏へとその矛先を急旋回させた時を見て、アニヒレイターがポツンと残されたPOJOの遺体に抱き付く様にしがみ付くと部下に怒鳴り散らしている。


 何が持たないんだ?


 『あった!有りました。鍵です。』

 『箱も回収しました。』

 

 しまった、箱を取り換えさなくては!それは大事な会社の運営資金だー!


 しかし狂気に犯された馬之助はデビル×××としてカオスさんと死闘を繰り広げる。

 流石のカオス氏も体の多くを侵食され失っている。


 おい、レベル333だぞ?多寡がゲームだけど一生懸命時間を掛けたのをこんなバグみたいな事故で消し去るなんて許されるのか?

 そんな気持ちとは裏腹にデビルはセイファをドンドン侵食しカオスさんを消していく。


 『鍵を穴に差し込め、よしっ!』

 『其処までだ!お前らの悪だくみ天が許してもこのコキュートスが許さん!!箱は返して貰うぞ!!』


 剣さんそんな喋ってる暇があるなら先に手を出してーー!


 『ちっ捕まる訳には行かん、それっ!!』


 アニヒレイターは鍵で蓋の開いたブラックカードボックスを瘴気渦巻くデビルの足元に投げ込んだ。そして...


 『はははは、俺たちの勝ちだ!!全員緊急退避!』


 アニヒレイターの号令で零化教徒は一斉に自らの首に剣を突き刺す。アニヒレイター本人でさえ。なぜだ?なぜここまで来てブラックカードボックスを放り出して自決する?なぜだ?


 一瞬呆気に取られたデビルの顔面にセイファの一撃が決まり馬之助をデビル×××として縛っていた狂気のヘルメットがぱっかりと二つに割れた。


 「あっコントロールが戻った。」


 『バトゥ君、戻ったか?良かった。最後にGMとして君を取り戻すことが出来て本当に良かった。』


 カオスさんが最後にそう言うと、支える主を消失したセイファ装備がガラガラと音を立てて地面に崩れ去った。


 ◇


 「馬ちゃん、何してるの?早く箱を!」


 「いや駄目だ、鎧が暴走して瘴気が止まらない。このままだとこの辺り一帯、いやこの大陸事奇麗に消し去ってしまうかも知れない。」


 「えーー、折角敵がいなくなったのにーー!」


 ◇


 その頃、ワールドハピネス社3Fのサーバールームでは侵入犯二人が赤くなったバッテリー表示を睨みながら最後の作業に取り掛かっていた。二人共緊張で汗びっしりである。


 「あとちょっとだ、あとちょっとだけ持ってくれ。神様、5年だ。これに5年掛けたんだ。頼むから電池切れでゲームオーバー何て落ちは勘弁してくれ。」


 弟分らしき男が祈る様に呟く。


 「よしっつ!入手した。お前はキャラを始末しろ、死ねば自動データ消去だ。完全犯罪だ。」


 「殺りました。」


 「馬鹿っ自分のキャラも始末するんだ!」


 指示された男が最後に残った召喚士を自決させると、兄貴分らしき男は満足そうに小型USBをプラスチックで包むと飲み込んだ。


 「よしっ投降するぞ!後はアニヒレイターがこれ欲しさに大金を出して保釈してくれる。俺たちの勝ちだ!POJOめ地獄でほえ面かいてろ!!」



 (最終話へつづく)

少し引っ張り過ぎた様でして反省しております。

次回短いですが最終話となっています。

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