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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
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第45話 王の遺産を守れ

目を通して頂き有難うございます。

『シバ---!!』

 安息角の目の前でシバの体が分解されていく。

 黒い羽虫に飲み込まれるかのようにドット単位で消滅していくシバを安息角は助ける事はできなかった。


 『シバの仇ーー!食らえファイナル・デス・クロー!!』

 準聖剣が3筋の斬撃になって冥府王と化したデビル×××に襲い掛かり確実にダメージを与えた筈だった。


 『駄目だ!奴らの中にヒーラーが紛れている!!先に雑魚を蹴散らすんだ!!』

 『『『 応! 』』』

 

 『重力魔法、メガトン縛り!!』

 守護PTの魔導師が掛けた魔法でデビル×××の周りの地面が球形に陥没する。

 『ぬうっ!あの魔導師を打ち取れ!!』

 アニヒレイターの号令に零化教徒の親衛隊がどっと押し寄せる。

 『そうはさせるか!!』

 守護PTも一致団結して仲間の魔導師を守る。

 戦況は硬直しかけていた。

 『やもえん、一旦退却だ!!サイクロプスを放て!!』

 零化軍は十数頭の一つ目巨人サイクロプスを放つと撤退を始めた。

 『無理に追うな!サイクロプスを馬車に近づけるな!』

 オモンディーの叫びに集団は目標をサイクロプスに切り替え防衛戦を継続する。

 最後のサイクロプスを屠った時、オモンディが辺りを見回すと守護PTは17人に迄減り、一人は冥府王に半身を削られ戦線離脱を余儀なくされていた。


 ◇

 『■先を急ぎましょう。』

 NPCの催促にオモンディーが首を横に振った。

 『戦力補強が必要だ。冥府王あれは危険だ、セトゥの魔法で足止めが無かったら俺たちは全滅していた...セトゥ、他にも重力魔法の使い手を知らないか?』

 『アメリカ大陸にも一人、ファオラニという魔導師が。』

 『バック、あそこにいるTV屋を連れて来てくれないか?』

 『■こんにちわー。USTVのレポーターをしていますニックです。』

 『ニック、よく聞いて欲しい。これから世界各地に向けてこの王の遺産ミッションへの協力者を募りたい。放送して貰えるだろうか?』

 『■勿論ですともミスターアフリカ!』

 『■ここで緊急特番です!現在アメリカにいるミスターアフリカ、オモンディー氏より全世界のLLONユーザーに向けてメッセージが届いています。』


 『こんにちは、全世界の皆さん。私はオモンディ、世界大会にも出場して居たので知って居る人も多いかとは思います。実は今私達はこの世界を守る重要なクエストを遂行中なのですが、世界大会で王者POJOを破った漆黒のデビル達に妨害を受け苦しんでいます。デビルに触れると体を消されてしまいます、我々の大切な中まであるシバも消されました、奴を足止めできる重力魔法使いを探しています。我々の座標はアフリカ王都郊外エリアの13012-1201-0です。明日の朝まで待ちます、どうか援軍に来てください。』

 

 極東サーバーからアメリア大陸サーバーに移動したホール内でその放送を見た俺・サリー・カオスさんは急いで座標の場所へと飛ぶ。

 アメリカ大陸王都の街並みは美しいままで殆ど被害が無かったようだ。

 しかし、郊外にでるとそこには夜昼の街を襲ったヒュドラを凌ぐ巨大な魔物が2体も出現していた。

 ◇

 『馬車を守れ!くそっ奴らなんでこんな化け物を使役できるんだっ!』

 ロンドンバックブリーカーが剣を構えるがそのしなる長い触手の1本に弾かれ宙を舞う。

 『バックに回復を!魔導師、炎だ!!あのイカ野郎にぶちかませっ!!』

 『ファイナル・ファイヤー・バード!!』

 『インフィニティー・テスラ・ループ!!』

 巨大な炎と雷撃が天を突くような赤い巨大イカに襲い掛かる。

 『グモモモモー!』

 巨大イカの隣には双頭の巨大亀がその巨体に似つかわしくないスピードで首を延ばすと魔導師の一人食い攫う。


 『ミシュタールが殺られた!剣士は魔導師の前を固めろっ!!』


 必死に防衛するオモンディーの右腕にPT申請のランプが点滅する。

 

 申請者はセイファ・ルビエル・サファエルとなっている。直接申請するのだから近くにいる筈だが視認できない。知らない名前だが今は猫の手も借りたいほどである、既に15人を切ったPTだったがこれら新しい3人を承認する。


 『聖断!!』


 白い稲妻が巨大イカの頭上に落ちたかと思うとイカの体に大きな亀裂が入った。


 オモンディーは目を見張った。切り合った感触からするとあのイカはレベル300近くある。それを圧倒するあの力は?世界選手権でもこれほどの攻撃を目にした事は無い。運営の切り札か?

 もう一体巨大亀の頭上からも声が響いた。女性の声だ。

 『皆亀から離れて! 我赤の扉より下界に降り立つ天使なり、その名を刻め紅玉天ルビエル!!』

 空は黒雲に包まれ赤白色の大口径レーザーが横殴りの豪雨が如く降り注ぐ。堅牢な甲羅を穴だらけにされた巨大な双頭亀はHPを9割減らして虫の息である。


 『蒼龍剣!』


 サファエルも伝家の宝刀を呼出し亀に切り込む。

 翼が羽ばたく度サファエルは加速し、蒼龍剣の青い光が一直線に亀の首筋を切断する。


 『うおおおおおーー!!』

 地上のPTメンバーから歓声が上がった。

 巨大亀はその巨大を地面に撃墜させ大きな振動と共に沈んだ、同時にメンバーのレベルが一斉に上がった様だ。

  

 『聖断!!』 イカも片付いた様だ。またもや地上から歓声が上がる。しかし俺たち天使装備組には経験値が配布されなかった。


 『天使たちよ、助太刀ありがとう!』


 『直ぐに前進しましょう。』 しかし、カオス氏の申し出にオモンディー氏は首を横に振る。


 『明日の朝までだけ待って下さい。想像を絶するあなた方の力を軽視する訳ではないのですが冥府王、奴の死を呼ぶ黒い攻撃は危険すぎるのです…。』


 ◇

 「なあ、サリー。レディーJのイベントリにはもう1セットだけ装備があるんだけど...これをオモンディさんに使って貰った方が良く無いか?」


 現在レディーJは王都に置き去りである。


 「でもこの鎧脱げないんでしょう?後で揉めたらやだから止めといたら?」

 ふむ、一理ある。

 名前表示も天使名に代わってしまっているし、死=データロストという状況に陥っているこの状態でむやみやたらに装備しない方が良いのかもしれない。


 『緊急告知!』

 突如空に大きくテロップが流れた。

 『現在本社サーバーを占拠した謎の集団に対して警官隊と銃撃戦に突入しました。サーバーへの供給電源を停止しましたが犯人グループは巨大なバッテリーを持ち込んだ模様。バッテリー切れによるサーバーダウンの予想時刻は不明です。』


 「なんだか大変な事になってるなぁ」

 「サーバーなんか占拠して一体何がしたいんだろうねー?」サリーが首を捻っている。

 「今の状況を管理者権限で覆されない様にじゃない?」

 「だから、黒い人たち何がしたいんだろうねぇー?」

 奴らがやった事と言えば世界大会の優勝賞品を使ってこの世界の死=データロストという枷を嵌めた事。世界中にテロを起こして混乱を与えた事、そして今正にPOJOの遺体から遺産、これは恐らくPOJOが持つブラックカードボックスを指し示す物と思われるが、を奪おうとしている事。そして馬之助から覗いた情報で彼らはこれらテロ行為の結果リアル世界で巨額の富を得ると言う...その繋がりがどうしても俺には理解できなかった。


 「アニヒレイターを捕まえて白状させればスッキリすると思う...」

 「でもその為には馬ちゃんのキャラ殺さなくちゃ行けないかも知れないね...」

 それは仕方のない事だ。操られているとは言え馬之助は今や全世界の敵である。

 「まあ、子供キャラでも育てるさ...」

 しかし、その時脳裏に過ったのは引退の2文字であった事は確かだった。

 ◇

 『ファオラニです。重力魔法を使います、宜しくお願いします。』

 『インピドールです。同じく重力魔法を使います。ヨロです。』

 『ハムナプティアです。聖魔法で防御が得意です。』

 『アナシルティムです。空間魔法で絶対防御が使えます。』

 翌朝までに全世界から集まったのは1000数十名のキャラクター達。その中で募集した重力魔法使いは僅か2名で、大半は命知らずな冒険野郎だがレベル200を越える者は極僅かだった。

 オモンディーは重力魔法使い2名と絶対防御魔法使い2名の計4名の魔導師を仲間に加えると、集まった中からレベルの高い5名を選びPTに補充した。残った1000名余りに対してはレイドPTを10組編成させ先行して出発させる事で露払いとして協力して貰う事にした様だった。

 『■USTVのニックです。ミスターアフリカ、敵の繰り出す巨大生物ですがどうやらサーバーハッキングで作り出されたチート生物の様だという見解が運営から出されました。これついで如何思われますか?』

 『死亡でデータが消える仕様といい、この妙な特別クエスト騒ぎと言い運営にはもっとユーザーの立場を尊重したやり方を考えて欲しいです。』

 『■このクエストに失敗するとゲーム自体が終了してしまうというお話でしたが?』

 『はい、私も本当にそんな事があるのか半信半疑ではあるのですが、もし本当なら大変な事ですので全世界のユーザーの皆さんの為にもこの防護クエストは完遂させたいと考えています。まあ、もし失敗してゲームが終了何て事になったら困るのは運営の方だと思うのですがね。』

 『■これに関して運営からは何ら公式コメントは発表されていません...』


 「プッ」 モニターの電源が切られた。

 ここはワールドハピネス社本社ビル。3Fのサーバールームには今武装集団が立てこもり警官隊とにらみ合いが続いている。

 2Fには警官隊が2部隊詰めていて、ここ1Fの会議室で重役たちが緊急の会議を行っていた。そこには日本から駆け付けたRジャネットの姿も有った。

 「ミス、ジャネット。社長がお亡くなりになっていたというのは本当なのか?」

 「ミスターペッグさん。残念ながら本当です。」

   ペッグ氏はカルフォルニア支部の支社長だ。

 「ミス、ジャネット。開発の妙な方針は社長の意向で進められてきた。しかし、死亡したらデータが消えるだの負けたらゲームが終わるなど大凡ユーザーの同意が得難い事ばかりだ。一体社長は何をしたかったのか知らないか?」

 「はあ、そこはゲームの中にリアリティーを持ち込みたいと言っていた事くらいしか思いつきません。私もこの仕様はおかしいと感じています。」

 会議は無くなったPOJO氏の代わりにジャネット嬢が中心となって話し合われたが、サーバールームが占拠されている今、具体的に何かアクション出来るという訳でも無かった。

 「そう言えば、社長殺害の容疑でジェニーが捕まったとか?失踪してわが社を辞めたニコル・ゴールドマンも一緒だったとか?」

 「そうだわ!あの二人が何か知っているかも知れない。F.B.Iに面会を申し入れて見ましょう。」


 ◇


 「ジェニー、態々貴方に会いに来たのは今ゲーム内が大変な事になっているの。貴方が盗んだPOJOのID、あれが無いと運営資金の引き出しが出来ないのよ。なのにPOJOは世界大会で敗れ死亡、そうしたら私達も知らない特別イベントが発生して現在遺体の争奪戦中...。貴方とニコルが仕組んだ事なの?」

  「‥‥」

  「黙って居ちゃ分からないわ!この人殺し!!」

  「‥‥ニコルのパソコンを調べればわかるわ。」


 ◇

  「いえ、証拠品を調べるだなんて言われましても…ジャネットさん、我々が今懸命にやって居ますので...」

  「此方には専門家が沢山います。HDDをフルコピーして貸して頂くだけでいいんです。」 ジャネットは食い下がった。

  「分かりました。それではコピーしますが持ち出しは許可できませんのでこの建物内に部屋を用意させていただきます。そこで解析をお願いします。何か分かったら我々に直ぐ教えてください。」

  ◇

 『うあぁああー!サイクロプスの大群が出たぞー!』

 露払いの先行PTが混乱に陥っていた。

 一つ目のサイクロプス達は皆巨人で平均で2.5m、中には3mを超す個体も交じっていた。レベルは150近辺と見られ先行PTの中にはレベルが100前後の者達が多かったので一人、また一人とサイクロプスが振り回す大きな棍棒の餌食になって倒れて行った。

 命知らずの集団も、目の前で仲間がバタバタと倒され攻撃が中々通らない現実を目の前に逃げ出す者が後を絶たない状況となっていた。


 『前方のPTが瓦解した!魔導師は遠距離弾を打てー!!』

 第2陣から赤や青の魔法弾が雨の様にサイクロプス達に降り注いだ。突出していたサイクロプスの数匹が集中砲火を浴びて焦げながら倒れる。

 『いけー!ドンドン撃てー!』

 魔法での遠距離攻撃は棍棒しか持たない力自慢のサイクロプス相手には効果的な先方であった。サイクロプス達が徐々に数を減らし出した頃、零化軍から再び増軍が放たれた。

 『ワイバーンだっ!デカい!!』

 魔法弾の雨の上をワイバーンが飛翔する。

 素早く弾を避けながらあっという間に第2陣の先頭に取りつくと鋭い牙で持って魔導師達に食いついた。

 『魔導師下がれー!剣士隊と槍隊前へーーー!!』

 ◇

 遠望鏡を仕舞うとミスターアフリカは馬上から隣の安息角に声を掛けた。

 『第2陣の司令官は中々優秀な様だな?』

 『うちのサブマスです。奴自身もこのPTの末席に座れるくらいの実力は持っていますが、確かに奴は集団戦の指揮が得意ですね。』

 『このまま我々を足止めしておいて、次に敵は如何出てくると思う?』

 問われた安息角は顎に手を当てて暫く考えると次の様に答えた。

 『またデカいのを持ち出してくると思いますね。』

 『その時はまたお願いできますか?天使の皆さん?』

 オモンディーの問いに頷くカオス氏。サリーは仕事で今はオートに入れている。その所為かルビエルは全くの無反応だ。

 『■速報ですが、各王都を襲っていた零化教徒の軍は鎮圧された様です。』

 ニックが最新の情報を教えてくれた。

 『ほうら、お出でなすった。天使の皆さん、お願いします!』

 左手から巨大な影が迫ってくる。牛だ、20mは有ろうかという巨大な猛牛が10数頭、群れを成して地面を揺らし土煙と共に真っすぐに突っ込んで来る。

 『ルビエル、サファエル行くぞ!』

 セイファの掛け声と共に3機の天使達は一斉に飛び立った。

(つづく)

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