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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
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第43話 冥府の魔王

目を通して頂き有難うございます。

 『あー、皆避けてーーー!!』


 最初こそ狙いがまちまちだったレーザー群は次第に正確さを増し巨大なヒュドラの肉体を徐々に削り屠って行く。


 今は街の戦士達も建物の屋上から遠巻きにその様子を見守っている。皆満身創痍の状態だ。


 『気が進まないけど、碧雹の装備よバズーカを主として敵を打ち砕け!』


 現れた聖雹の天使にレディーJが命令する。


 『バズーカ!カオスさんの居る王都へJを連れて飛ぶんだ!!』


 ◇


 『おいバズーカ...お前変な所に手を回すんじゃ無い...いや手を離すなバカ...死ぬだろうが...あああああああーーー!サリー代わってくれ!!』


 惨めバズーカ、Lvが高いだけで使い道の無い役立たずキャラであった。


 しかしもう切り札を与えてしまったからには仕方が無い、戦って貰うのみである。


 『Jほんっと大きいわねー!』


 サリー天使も胸とか揉んでるけど女キャラ同士だからもういいやっ!


 一方POJOの画面ではデビル×××の鎧から機械の様な手が4本が生えて王者を捉えていた。


 しかしHPの減りはPOJOの方が少ない。デビルは残り5割、POJOは残り7割である。


 『■魔界召喚 堕天の黒翼!!』


 またも見知らぬ呪文を唱えるデビル。


 漆黒の鎧が光をも吸い込む真暗闇に落ちた瞬間其処から黒い羽が群れを成した羽蟻が如く湧き出てPOJOを襲った。


 『■ぐふっ』


 やばっオートがバレた。いやそれよりも今の攻撃で鎧の耐久がかなり減ってダメージを食らったPOJOの残り体力がデビルと並んだ。


 『■ぐははははは闇の天使が力、思い知ったか!』


 『■ぐうぉぉおおおおー!ダイナモレーション120%!!』


 珍しい...POJOが試合中に声を出すなんて。余程追い詰められているのだろう、もうオートだマニュアルだ気にするのは止めよう。頑張れPOJO。


 『■ディメンション・ミラー・パラレルワールド!!』


 『ブンッ』


 POJOの体が霞みデビルの鎧から延びた4本の腕から脱出するとそのまま8人に分身した薄赤ゴールドの騎士達がデビルに襲い掛かる。


 『■怒号魔柱馬焦光波ーーー!!』 


 POJOの分身はほぼ無敵、或る種チート業だと思っていた。


 だが、カオス氏との対戦で刺し傷が4つ有った様にそれは残像であっても虚構では無い。

 何が言いたいかと言うと差し違え覚悟でデビルの放った特大魔砲波は時間と空間を跨いで出入りする無数のPOJO氏全てに同時にダメージを与えたという事だった。


 『どおぉーーーん』


 爆発の煙が晴れた頃、そこには燻りを上げ残りHP1割を切った瀕死のPOJOと聖剣で8か所を串刺しにされHPバーが読み取れない程弱り切ったデビル×××がお互い必死の形相で相対していた。


 『■ま、魔吸収…』


 やった!デビルは最後の最後で大きなミスを犯した。


 あと1撃か2撃POJOが聖剣を叩き込めば勝負が決まる。魔吸収はPKG戦でも見せた様に隙が多く攻撃してくれと言っている様な物だ。


 『■うおぉぉおおー!』


 POJOが剣を振りかざして突進する。フェイントも縮地も技も無い、文字通り死力を振り絞った一撃だ。


 『■エレメンタリー・ヒール・ダークネス!』


 何っ!ダークネス?ダークネスと言ったのかこいつ?そんな属性は無い、いや作ったのか?何処までチートな奴らなんだ!!


 デビルの鎧から生えた4本の腕が竹串の様に割れ、扇上に開くとデビル×××のHPが目にも止まらぬ速さで上昇していく。


 会場は各国で起きたテロ騒ぎで自国へ戻ろうと席を立つ者、それでも試合に見入る者と様々では会ったがレフリーの声を皆が耳にした。


 『しょっ勝者、デビル×××!!』


 会場内の誰もが耳を塞いだ。


 いや人込みをかき分けて黒い集団が喜々として武台へ進む。


 教団だ、アニヒレイター!奴だ!!


 彼らは一人の小男を武台へ引きづり上げると言った。


 『さあ、勝利の権利である賢者の石を寄越せ!』


 『★しょっ 勝者はそちらの方です...優勝者以外には渡せません。』


 『デビル!POJOを殺せ!!』


 試合中はHP1未満になると強制的に試合終了となり瀕死の状態でHP1をキープするのだが…


 回復役の魔導士達がPOJOに駆け寄ろうとするが黒鎧の教団員達に後ろから袈裟切りに切り捨てられてしまった。


 『ぐはっ!』


 馬之助(デビル×××)の魔槍がPOJOの喉を突き刺す。


 POJOの体から光が奪われ死亡フラグがポップする。


 『ジャジャーーーン!!!』


 突然サリーとJのモニターから壮厳な管弦の調べが鳴り響く。


 「ちょっと何これー?ねえ見て、テロップよ。えーっと、緊急クエスト⇒王者の遺産警護:王者が死んだ!遺体は秘密の遺産と共に王都から生まれ故郷のラズベリーヒルへ運ばれる。それを狙う冥府の魔王から遺産を守り切れ!達成条件:王者の遺体が破壊される事無く目的地へ運ばれる事。報酬:ゲームの存続 って何よこれーー!!」


 『ふはははは!そして我はデビルに命令する。賢者の石に願うのだ、この世界の本物の死を!死にはデーターの消滅を与えると!』


 『■この世界の死にデータ消滅という罰を与えよ』


 賢者の石はその言葉を聞くと大きく輝き、そして消滅した。


 『よし行くぞ!』


 『ちょっと待ちやがれ、テメーら好き勝手しやがって!このPKG様が通さねーぞ!』


  その時POJOの遺体が霞んで消えた。画面は白い部屋に変わった、病院の天上だ。

  しかしステータスがDEADのままで何も起こらない。

  色々クリックしてみるが『イベントモード中なので操作できません』と表示されるばかりである。仕方が無いので終了するとバズーカIDでログインする。


  一方その頃試合会場ではアニヒレイターに立ちはざかるPKGに呼応したかの様に一人・また一人と武器を手に戦士が集まってくる。世界大会の観戦者達は自らも次のチャンピオンを目指す猛者共の巣窟でもあった。


  しかしその猛者たちもアニヒレーターの背後から歩み寄るデビル×××の異様な光景に思わず後ずさりをした。


  彼の背後には上空高くまで黒い羽蟻の大群が群がり、1匹1匹は無秩序に飛び回っているのだが、それはまるで巨像の如く恐ろしい顔の形を浮かび上がらせていた。


 『冥府の魔王は王を殺した者を媒体として具現化する。そして冥府の魔王に触れた者は消滅する…。』


 アニヒレイターは両手を大きく広げて叫んだ


 『仮初の死では無いぞ! レベルダウン?とんでもない!!

  無・ゼロの羅列・デジタル的消滅・何とでも呼ぶが良い。私はこの呪われた世界に本当の安らぎを齎してやるのだー!!』


 『パルメチック・ガトリングドーム!』

 『新仙斬剣!!』

 『アルマジロアタッーク!』


 PKGの必殺技がアニヒレイターに届く前にデビルから湧き出る黒い群れが立ははざかった。PKGは構わず目の前の黒い集合体へ技をぶつけた。


 『ぐぅ!』『ぐぁ!』


 PKGの左右から攻撃を仕掛けた剣士と格闘家が両ひざを付く。

 二人共体の半身が削られたかのように消失していた。


  パルメチック・ガトリングドームを打ち終えたPKGも自分の右手を見て驚愕する。

 右手首から先が無いのだ。

 左手でその場所を触って観ても何もない。何も無いのにまるで見えない手が掴んでいるかのように剣は空中で構えられている。


 『何だ?バグ...なのか?』


 『お前の右手のデータが生まれる前の状態、零に戻ったのだ。さあ、お前たちに永遠の安らぎを与えよう。競い合ったり、虚栄を張り会ったり、あくせく働いたりしなくても良い零の世界がお前たちを待って居る。』


 『ふっふざけんなっ!その俺の右腕を返せ!!』


 アニヒレイターはデビル×××の陰に隠れ側近たちと撤退を始める。


 PKGは勇敢にもデビルに襲い掛かるが攻撃は黒い羽虫達に阻まれてデビル本体には届かない。


 『ミスター!アンタの体が!!』


 気が付くとPKGの左の肋骨から肺までが大きくえぐり取られている。


 『何なんだ?HPは減ってねえ、ダメージは受けて居ないが体が無くなって行く。おいっ!全部無くなったらどうなるって言うんだ!?』


 『■冥府の魔王に攻撃された物は消滅する。』


 デビルの暗い声が木霊する。


 『『『にっ逃げろーーー!!』』』


 次の瞬間、事態を把握した一部の者達が一目散に逃げ出した。


 これはゲームの世界である。


 しかし皆数多くの時間や資産をつぎ込んで育てたキャラクター達なのだ。


 安心してプレイできるのは万が一死亡という状態に陥ってもギルさえ持っていればレベルダウンという罰はあるものの蘇生してくれると言う措置があるからである。


 それが訳の分からない魔王にちょっと攻撃されただけで貴重なデータを全ロストするなど許容できる訳が無かった。


 『逃げろー消されるぞ!!』『データが消えるんだ!!』『運営は何をしている!』

 『訴えるぞー!!』『押さないで!』『俺が倒してやる!』『バカは死ね!』『何だとー?!』『・・!』『!!』『!!!』…


 叫び声が重なりもう皆が何を言っているのか分からなくなっていた。


 PKGは其れでも頑なにデビルの前に立ちはざかる。もう既に体の3/4が消えてそれでも尚剣を構える姿は壊れたビデオゲームの様でもあった。


 『剣は消えない...つまり攻撃が通る手段は残っているって事だーー!!』


 最後の力を振り絞りPKGが突進する。その前に体を投げ込み身を挺して盾になる人影が一人、アルマジロアタックを放ったあの格闘家である。


 乾いた砂上の彫像が風でサラサラと崩れ落ちる様に格闘家の体は失われて行く。口が開いて何かを訴えるがそれが言葉になる事は無かった。


 『うおおおおーー!!』


 PKGの聖剣エクスカリバーが鋭く突き伸ばされ、それは黒い羽虫に深く覆われたデビルの右肩を貫いた。


 『■ぐぬぅぅぅー』


 魔鎧の上から肩を押さえて呻き声を上げるデビル。何故か魔鎧は再生をしなかった、冥府の王の副作用か?


 『ざまあみやがれ…』 そう最後に呟いたPKGはエクスカリバー1本を遺して完全に消滅してしまった。体も聖鎧も他の装備も全て、勿論イベントリの中身も、所持金も、キャラクターその物がロストしてしまったのだ。強制ログアウトさせられたPKGの操作者が再ログインした時に見たのは『キャラクター情報が在りません。NEWキャラクターを作成しますか?』という腹立たしいメッセージだけだった。


 「何処の世界にユーザーのデータを勝手に消す会社が有るって言うんだ!訴えてやる!!」


 PKGを失ったプレイヤーはそう息巻くと公式HPを開きキャラクター復活依頼と消された事に対する非難のメールを打とうとする。


 しかし公式HPはその機能を果たさなかった。


 何故なら其処には『このサーバーは零化軍が占拠した!!』とデカデカと表示されるだけであったからである。


(つづく)

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