第39話 世界大会
目を通して頂き有難うございます。
今年も世界大会の季節がやって来た。
今年の会場はアフリカ大陸サーバーである。
大会の様子はリアルタイム、ビデオ放送合わせて全世界のTVで放送される。
まあ、全世界と言ってもこのゲームの中だけだが登録者総数全世界で1,000万人と言われる巨大ゲーム空間の前TVなので視聴者数も半端では無い。
つい1か月前なら安酒場のカウンターでTV越しに見ていた筈のこの光景を
俺は絶対王者、Mr. Power Of Justice One視点で今見ている。
開会式の台上で他の選手と肩を並べ椅子に座ると会場に押し寄せた山の様に人だかりと歓声に手を振って答える。
下馬評ではやはりPOJOが一番人気の様だった。
街の賭け屋でのダークホースはデビル×××、いや狂気に犯された馬之助である。
被ると狂気状態になってしまうヘルメットを装着させられた馬之助は、アニヒレイターから下賜された怒りを力に代える魔装備により途轍もない力を携えていた。
Lvも短期間で104から191まで上げてきている。この異常なレベルアップに関してカオス氏は生贄を使った育成方法を使ったのでは無いかという見解だった。
カオス氏も居る。彼はオセアニアサーバー東部ブロックの1位通過だ。
以下参加選手を見るとこの様になっている。丸数字は対戦カードだ。①と②が第一試合、以下③-④→⑤→⑥と続く。
予選免除選手:前回優勝者 ①MR.POJO,アメリカ大陸所属,lv335(昨年と変わらず)
アメリカ大陸:予選優勝者 ⑪デビル×××,lv191(初出場)
予選準優勝 ⑧オイルフェンス,lv291(昨年予選5位,昨年比lv+11)
アフリカ大陸:予選優勝者 ③オモンディ,lv332(2年連続2度目,昨年比lv変わらず)
予選準優勝 ⑩キリマンジャロ,lv280(昨年予選2位,昨年比lv+3,)
アジアオセアニア大陸の東部
予選優勝者 ⑤カオス,lv331( 2年連続2度目,昨年比lv+1)
予選準優勝 ④灼熱の剣,lv280(初出場,昨年比lv+15)
中部(インド・ロシアに該当する)
予選優勝者 ⑦シバ,lv254(初出場,昨年比lv+34)
予選準優勝 ⑥安息角,lv292(2年連続2度目,昨年予選1位,比lv+1)
西部(ユーロ・北欧エリア)
予選優勝者 ⑨PKG,lv291( 2年連続2度目,昨年比lv+8)
予選準優勝 ⑫ロンドンバックブリーカー,lv292
(昨年予選4位,昨年比lv+1,)
敗者復活 各ブロック3位の内一番レベルの高かった選手
アメリカ大陸所属 ② サウザンドキラー lv287
(2年連続2回目,昨年地区準優勝,昨年比lv±0)
「いきなりサウザンドキラー氏か...ついてないなあ。」
俺はモニターの前でため息を付く。荒ぶる馬之助に敗北し敗者復活で3位まで上り詰めたサウザンドキラー氏は昨年度地区予選2位の本格派。本戦メンバーにあってでも中位に位置するであろう実力者である。
彼の武器は2つ有り一つは両手頸に付けられた無限回転運動を行うチャクラ達。もう一つは剣先が分身するチートな両手剣、トロルミルリーフである。
防御は一般的なフルメタルアーマータイプでその色からしてプラチナにオリハルコンが部分付与させた物と推測された。
POJOの戦略としては敵の攻撃を躱しつつ、プラチナの部分を狙って聖剣で何度も攻撃すると言った方向になりそうだ。
負けたらどうしよう。負けても誰か他の人が馬之助を止めてくれないかなあ?馬之助が負けたら急病と偽って大会を棄権しようか?…
明日の本戦開始に向けて気弱で後ろ向きな思いが湧いて来る。
ふと、デビル×××(馬之助)と目が合った。
血走った目で睨みつけてくる元自分。
救ってやりたい。そう思った。
◇
『おおっと!初戦いきなり大波乱だーー!絶対王者POJO、サウザンドキラー氏の第3のチャクラム、我々が今名付けた所によりますとフラフープチャクラムとでも呼びましょうか?腰に巻いたチャクラムを体をしならせ投擲する様は正に新体操!』
「くそっ!鎧武者の新体操とか見ても嬉しく無いし。」
『自動追尾のチャクラムはフラフープだけでは在りません!両腕のチャクラムも健在だー!POJO氏は攻撃を避けきれないーー!』
「くそっ悪いな下手糞で!!」
聖鎧の防御は健在で未だダメージは微々たる物だが、一方的に責められている。
前から後ろから飛んでくるチャクラム達を剣で叩き落とすのだが、奴ら質が悪くて地面に落とされても自動で持ち主の所に戻って行く。
『ディメンジョン・ポート』
俊動というか縮地の様な小ワープでサウザンドキラーとの距離をゼロに詰めると背中から襲い掛かるチャクラムを度外視して聖剣で滅多切りにする。
『おおーと、珍しい。ヒットアンドウエイが信条の絶対王者Mr.ONEが接近戦かつ殴り合いに突入したー!』
煩いって。
『しかし、サウザンドキラー氏も殿下の宝刀トロルミルリーフを抜いて応酬だー!両者足を止めて打ち合うー!』
之は...まずいかも?敵の分身剣が鎧を通過してダメージを与えている?
このままでは先にこっちのHPが…
どうする、どうする?
観客席の最前列には選手達の貴賓席があり、モニターの片隅で漆黒に包まれた男が睨みつける様にこっちを見ていた。
馬之助、お前は狂気状態で予選を勝ち抜いて来たんだよな?今は狂気状態だがオートモードの筈だ。POJOのオートモードは如何なんだろう?今の俺よりはマシな筈?そうだ、王者の記憶が敵を蹴散らせてくれる筈!
俺はとうとうコントロールをオートに入れた。残りHPは3割を切っていた。
大会中HPとMPはオーロラビジョンにデカデカと映し出される。
敵のHPは5割強。誰もが大会初日の大波乱を確信し始めていた頃だった。
◇
『てめえ、今になって避け続けるとか馬鹿にしているのか!?』
一旦距離を取ったサウザンドキラーが肩で息をしながら叫んだ。
無論普段が無口なPOJOは答えない。答えればオートモードなのがもろバレなので話しかけられるとドキドキする。
POJOの聖剣がサウザンドキラーの投げたチャクラムを的確に叩き落し、距離を詰めた後、的確に鎧の右肺部を集中攻撃する。
サウザンドキラー氏のHPバーが見る見る内に減って行く。
観客の半分はサウザンドキラー氏の大金星を願い応援し、残る半分は絶対王者の復活に狂喜する。
『勝者!Mr.ONE、絶対王者POJOー!!』
危なかった...HPバーは残り2割強。オートに入れてからは凄まじい回避で殆ど攻撃を受けなかったが、フラフープチャクラは何発か食らっていた。
『くそっ!今日こそお前に勝てると思ったが、次回こそ見ておけ!?』
悔しそうなサウザンドキラー氏は其れでも握手を求めて来た。
急いでオートモードを解除しコメントを入力する。
『いい試合だった。又宜しくお願いする。』
気が利かないセリフだが無言よりは100倍マシだろう。
二人共体力消費、武器防具の損傷が激しかったので控室に戻り修理や回復を受けながらモニター画面で次の試合を観戦した。
◇
『第2試合、アフリカ大陸所属 オモンディ選手,lv332 vs アジアオセアニア東部ブロック 灼熱の剣選手,lv280の試合を開始します。』
「剣ちゃん、頑張って欲しいなあ」
「!!」
振り向くとサリーが居た。
あれ?下の部屋の鍵は渡して居ないのだが?こいつまさかっ?
「馬ちゃん、私に隠し事してなあい?」
「…」
「馬ちゃんと一緒にTVでカオスさんを応援しようと思って来たんだけど...なんで大会に出てるのかなぁ?」
「…」
「馬ちゃん、そのキャラって王様だよねえ?」
がばっ
俺はサリーの前で土下座の様に頭を下げて言った。
「全部終わったらキチンと話す!だから大会が終わるまでっ!終わるまでで良いから見逃してくれっ!」
サリーは買い物袋からアイスキャンディーを取り出し齧りながら
「ふうぅぅーん」
とだけ言った。如何やら不満の様である。
「女は愛する人と秘密を共有したい物なのでーす。」
「!!」
「ジェニー!」「ジャネット!」
(つづく)
原稿ストック零。自転車操業中です。^^;




