第2話 レベルアップ
ゲーム内で良い装備を揃えるのって中々大変ですよね。
お前一体アレから何杯飲み続けてたんだ?
それにしてもおかしいのは確かに迷宮のB6Fで死んだはず。死んだら病院へ強制搬送され限度額一杯までの借金中だった馬之助はアカウント没収の末路が…
そう思って所持品を見ると鞄の1枡に見たこともない黒い立方体があるのを発見した。
不審に思ってそれにカーソルを合わせてみるとポップアップで説明書きが出た。
『ブラックカードボックス:伝説のブラックカードボックス、無制限の支払いが出来る。』
「おい、借金地獄か!!」
思わず声に出して突っ込んでしまったが、続いてスクロールしてきた文字を読んで絶句した。
『支払い限度額:512億ギール』
急いで昨日分のログを23時以降で全検索する。これを読めば何が起こったのか分かるはず!
『…エールを1杯飲みました:銀の杯亭…』
『…富くじを2枚買いました:協会窓口…』
『…目的地を迷宮に向けてセットしました。:PT無し…』
『…おめでとうございます!富くじに当選しました。支払いは10分後に自動的にブラックカードボックスの形でイベントリに送付されます。※イベントリを1個以上開けて準備下さい。イベントリに空きがない場合、アイテムは路上にドロップされ‥‥…』
当たってるがな~!!!
しかも500億ギール強? 現実マネーでない処が小市民だが課金で得ようとしても100万円くらい貢がないと無理なのでは?いやいやいや、いやいや馬之助君良くやった!
俺は大金持ちになったのに何時もの湿気た居酒屋で安いエールを飲むモニター内の馬之助にもっと高い酒飲もうよと話しかけるがオート時に於ける馬之助の行動は普段の行動の最大公約数な訳であり...。
◇
「さて、一体何を始めようか?」
俺は嬉しくてつい声が出てしまった。
先ずは装備だ。憧れの準聖剣ランドミサイルは通常手に入る最高級の武器だが此れの+6という上位強化レベルの物が月に1回開かれるオークションに出ている事を俺は知っていた。
お値段は何と50億ギール。適正価格が高すぎて誰も買えずに過去3回売れ残っているのだ。
若しくはオークションの出展者も売れる事は期待して居ないのかも知れない。
「こんな凄い武器を持っているんだぞ」と自慢したいだけかも?
何故ならば通常非公開でも構わない筈の出展者名を公開にしているからだ。彼の名は「カオス」、この街の人間ならポッと出の新人以外誰もが知る有名人だ。
過去2年に渡りこの街のトーナメント優勝者で在り昨年度アジア・オセアニアエリア大会での8位入賞者。補欠枠で参加したワールド大会で2回戦突破、街の栄誉市民でありギルド「カオスワールド」のギルドマスターでもある彼は全世界1,000万人の頂点に君臨する紛れもないトッププレイヤーだった。
しかし次のオークション迄は2週間有る。
俺はNPCが経営する武器屋・防具屋・アクセサリー屋の中でも普段足を踏み入れた事すらない高級店ばかりを梯子して瞬く間に全身銀色に光り輝く鎧に包まれた新・馬之助を作り出していた。
青銀に輝くミスリルのヘルメットは防御力+40と優れものだ。耐久値は勿論100%、新品だ。露店のくすんだ中古とは違うピッカピカの装備である。
新品独特の光沢に満足しながら街中を闊歩する馬之助の雄姿を悦に入りながら飽きることなく眺める。ちょっと自慢したかったので理容店に入り出て来た親父に『精悍な感じにしてくれ』と頼むと案の定装備を褒めて来た。
『■じゃあ刈り上げちゃいますから。それにしてもお客さんいい鎧ですねえ。』
『そうだろう?ミスリル製だ、凄いだろう?』
『■はい、我々街人には一生手が出ない装備ですね。大層強い敵を相手に毎日頑張られたのですね?』
自身も角刈りの理容店主が鏡の向こうで頷きながらしゃべる。本当は宝くじで当てた不労所得が原資だがそれをいうと詰まらないので話を合わせる。
『おう、昨日の敵も手強かった。』
◇
さて、防御力の+40という数字に関してだがこれは攻撃値が100倍の4000までなら1撃で破壊されないと言った目安でもあるがもっぱら装備の防御力の総計が多い程攻撃からダメージを軽減してくれるという意味でもある。
防具はダメージが通るような攻撃を受け続けると耐久値が下がり始め、それにつれ強度も下がり始める。
最終的に耐久値が0付近になると強度もほぼ無くなり飾りと化してしまうが、その頃には見た目もぐしゃぐしゃで余程の乞食でも無ければそんな物は被らない。
鉄なら鉄くずとして街の金物屋が安価に引き取ってくれるだろうが之はミスリルだ。ボロボロに成っても武器屋で30万ギールくらいでは引き取ってくれる物と期待する。因みにお値段は2500万ギールでした。(高!ここよりもっと田舎町に行けば一軒家が買えるのでは?)
体はこれまたミスリル製のフルプレートアーマー1億ギール也。馬之助は未だlv54とレベルが低く筋力もしくは素早さが足らないのか装備すると動きが緩慢でぎこちない。因みにトッププレイヤーのカオス氏はlv333である。彼らクラスになると経験値も1,000万オーダーで稼がないと次のレベルに上がれないとTVのインタビューで言っていたのを思い出す。
此のまま迷宮に潜る積りだったが敵に攻撃が当たらなければ意味がないと思い街の薬屋で素早さと力を一時的に上げる薬を数個買う。1本100万ギール...おい金額がおかしいだろう?
しかし攻撃さえ当たれば今まで散々苦しめられた魔物共も新調した強化+2のミスリル剣(攻撃力+45)の餌食でしかない。感覚的には敵の防御力×2と攻撃力を比べてそん色なければいい勝負できると言った感じで買ったのだが。
ネット情報によると近所のダンジョンにいるB6Fのカマキリ亜人(Lv53~59)はHPが凡そ400~500で防御力は20~25、これに対して馬之助が持つ武器の攻撃力は+45であるがこれは鉄の剣(-1)攻撃力9の時と比べて一気に4倍以上の値である。
逆に敵の攻撃力は20~22,腕力は大よそ50らしい。こちらの防御力がミスリルのフルプレートアーマー+120,ヘルムが+40にその他装備諸々を含めて総計165にレベルを√した値が加算されて173が防御値になるのでダメージは殆ど受けていない。
今のは簡易式で実際はもっと複雑な式が有って攻撃力とステータスからは攻撃値、防御力とステータスからは防御値という値が算出され、更に攻撃値-防御値の差が更ダメージ計算の式に用いられるという仕様になっているらしいのだが詳細は未公開らしい。
只し、攻撃値-防御値の計算値がマイナスでも何かの補正で若干はダメージが通るのだがプラスになると半比例してダメージが大きく成るという特性があった。そして今カマキリ亜人達に与えるダメージは500HPを超えている。つまり言いたかったのは今俺はカマキリ亜人達を一刀の元にバッサバッサと切り倒している。所謂無双モードという奴だ。
勝てなかった敵に楽々勝つ、これ程ゲーマー魂を揺さぶる事が有るだろうか? いや今思いつかないだけで有るかも知れないがとにかく俺は戦いに酔いしれていた。
『パパパパー!ピロリローン!』
レベルが上がった!もう1か月近く上がらなかったレベルが物の15分で1Lv上がった。レベルアップに伴いステータスが+4されたので高価な薬を温存する為に全て素早さに投入する。
楽しい!
又レベルが上がった!
ミスリルのフルプレートアーマーのお陰でダメージらしいダメージを負ってはいないので持って来た回復薬(大)は勿論の事、回復薬(中)も手つかずで回復薬(小)を5個ばかし消費しただけだった。各回復薬のお値段と回復力は100万ギール(最大HPの90%),30万ギール(最大HPの20%),1万ギール(最大HPの3%)となっている。
この調子なら未だ大丈夫だろう、俺は狩りの効率を考えて素早さに全振りする。
攻撃は全て命中、運は低めなのでクリティカル発生率は並みだが武器の力で押し切れる。
”ぷしゅー!”
今日は飲まないと誓った2本目のチューハイに手を延ばす。
こんなにゲームを楽しんだのは2か月ぶりくらいだろうか?
馬之助は迷宮をどんどん下りレベルを49から79まで上げた所で日付が変わった。
◇
(つづく)
読んで頂きどうも有難うございます。