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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
38/50

第36話 裏武闘会の覇者

目を通して頂き有難うございます。

誤字訂正しました。優勝してもしい→優勝して欲しい

準決勝第一試合はチャンとネイビーブルーという優勝候補同士の激突となった。

 第二試合は俺とアフリカ地区大会優勝者”bad guys”、あの最低な選手宣誓をした奴とのカードである。


 第一試合が始まり目の前で繰り広げられる正統派剣の戦いが始まると俺はネイビーブルーを応援していた。しかしやはり自力で勝るチャンの攻撃がよく当たる。じりじりと押され体力を減らしたネイビーはとうとう奥の手を使った。

 

 『精霊魔法エレメンタリーヒール・ウインドウ!』

 『!』


 チャンの顔色が変わった。


 この試合、試合中のポーション回復は反則負けとなる。しかし魔法はその内では無い。この辺りは表と同じルールで、実際表の大会でもエレメンタリー・ヒールを仕込む者は時々だが居る。


 チャンも少なからず体力を減らしていたのだろう。今のヒールで残り体力が逆転したことを悟ったチャンはそれでも冷静にネイビーが左手に隠し持つ精霊を宿した小さな杖に狙いを定め小手の上からガンガン叩きまくった。


 それが功を奏し確かにネイビーの手元で何かが壊れて飛散するのが見えた。

 これでもう回復は無い、しかし残り体力はネイビーが有利だ。

 ネイビーとなら何とか渡り合えれる自信がある。ネイビー頑張れ!


 剣と剣の制し合いは僅差で決着がついた。

 

 『勝者、 チャンチョンソン!』


 やはり手数、正確さ、一撃の重さ全てにチャンが上回っていた。


 『次、Bad gays、運転手は武台に上がって。』


 チャンの事は取りあえず後回しだ。目の前の敵に集中、集中!


 『それでは!準決勝第二試合開始!』


 ◇


 号令が終わるより早く馬之助は真横にダイブした。

 その脇腹を掠るように2発の手りゅう弾が飛んで行き、観客席の手前で落下、爆発した。


 前の試合で奴が投げた手りゅう弾は合計4個。今回もし倍持っていたとしたら8個だ。手りゅう弾だけには気を付けて行こうと考えていたので最初は事なきを得た。


 黒刀を抜いた馬之助がBad Guysに襲い掛かる。

 敵もさる者、軽やかに体を躱し次に剣で受けなかなか鎧にヒットさせなかった。

 俺は馬之助を操作しながら敵の利き手である左手、つまり片手剣を持っている方ではなく、空いている右手首の動きを注視していた。

 今までの試合運びからすると剣の合間に十中八九手りゅう弾を混ぜてくる。ストレージに保管されている手りゅう弾を叩き壊す事は出来ないが持ち出しす時に一瞬手首から先が霞んだように見えるはず。その時に右手を殴打してやれば…


 『残念でした。小指一本あればストレージからは出せるのさ、こんな風になっ!』


 ハッと敵の右手をみると小指の先に手りゅう弾がぶら下がっている。剣を振る勢いを利用してそいつは馬之助に投げつけられた。


 『ずごぉーーん』


 『何だと?!』


 閃光と爆風に一瞬目を奪われた観客たちが見た物は拉げた銀色の大盾と無傷な馬之助だった。


 「あっぶなかった。でもだれも使わないけど盾を使っちゃダメってルールでは無いからな。」俺は思わずモニターの前で呟く。


 『てめ、きったねぇー。盾なんぞ表のチキン野郎共が使う道具だぞ!』

 手りゅう弾の方が汚い様に思えるのだが、悪人には悪人の矜持があるのだろうか?観客の多くが頷いている。


 『なら、武器として使えば文句あるまいっ!』


 馬之助は盾を寝かすとそのまま敵の腹に叩きこむ。意外な攻撃に一瞬反応が遅れたバッドガイズが初めてクリーンヒットを許した。


 黒刀を振りかざした馬之助は次の瞬間また盾をかざして今度は竪ごと相手にタックルをしかける。一瞬敵の右手首が霞んだ様に見えたからだ。


  『ずごぉーーん』


  吹き飛ばされた馬之助、盾は大きく空を飛んだ。

  墜落した盾の餌食になった観客席の誰かの悲鳴が聞こえた気がする。


 だが、敵も爆風に巻き込まれ血だらけでヨロめいていた。今がチャンスだ!


 尚も手りゅう弾を持ち出す敵にすれ違いざまに3発綺麗に入った剣撃は敵の残りHPを全て平らげ、崩れ落ちた敵と剣を振った形のままの馬之助の間に割って入ったレフリーが高らかに宣言した。


 『勝者、運転手!』


 手りゅう弾は奴が握りしめる手をそっと剥がして2個とも無事回収しました。 


 ◇


 『いやあ、決勝まで来るなんて君は我が支部の誇りだよ。何とか優勝して欲しい所だが、負けても影武者として作戦には参加できるらしい。優勝者の身に何かあった時のスペアーとしての任務が待っているって事だ。何れも大変名誉な事なんだよ。』


 黒い罪のデパート、支部長がホクホク顔で饒舌にしゃべる。

 ここは決勝戦の控室だ。

 『それを聞いて少し肩の荷が下りました。ぶっちゃけ、チャン選手に勝てるイメージが作り切れない物で…。』


 『奴は暗器の達人だ。今までの試合は実力が離れすぎていて一度も出していないが決勝戦ではここぞという時に使ってくるはずだ。』


 『貴重な情報を有難うございます。準決勝で盾を見せてしまったので次は盾で防げないタイミングで仕掛けてくるでしょうね?』


 『そうだなとにかく頑張ってくれ、もし君が優勝すれば俺も本部昇進が間違い無い。』

 

 悪人の出世に興味が無いがこっちはこっちで目的がある。


 『頑張ります。でも相手は強いです。弱点か何かあれば良いのですが…』


 『奴は普段はクールぶっているがイカレたサイコ野郎だ。プライドが高く馬鹿にされると見境なくカッとなる癖があるらしい。試合開始前にナジッって見たらどうだろう。』


 『因みに過去にそういう行為を行った奴はどうなったか教えて貰って良いですですか?』


 『ああ、ミンチにされて自分の腸を首にぐるぐる巻きの状態で死体を晒されていたな』


 ぞっとしない。でもだ、もし仮に彼がカッとなった場合を想像してみよう。彼はどうやって馬之助を葬る?


 『殺る時は剣で切り刻まれたんですか?』


 『違うな、近づいて暗器だ。隠しナイフか仕込み爪そう言った類の物だと思う。』


 『近づいて…ですか…』


 俺は支部長に投げナイフセット10本を買ってきて貰えるよう依頼すると彼は喜んで出かけて行った。


 試合開始は刻々と迫り、緊張で喉の奥が突っ張る感じがしてくる。


 俺はストレージから片手用丸型小楯バックラーを出し、受け取ったナイフをロープで結びながら盾の裏側に差し込んでいく。これで落ちる事は無いしいつでも取り出せる。


 『選手、入場!』


 『殺せー!殺せー!』

 『チャン!ミンチにしろー!』

 『ミンチだ!ヒャッハー!』


 最後のは世紀末君だ。彼は俺に恨みでもあるのだろうか?

 罵声と歓喜が渦巻く中を堂々と歩む馬之助。一方相手の戦士も流麗な足運びで武台へ上がる。奴は冷静だ、奴は自分の方が強い事を知っている、奴は自信を持っている。


 『両者、中央へ!』


 前に歩み寄った二人はお互い2m程の距離でピタリと立ち止まった。ここから先は危険な間合いである。


 『それでは、決勝戦を始める! はじめ!!』


 『おいミンチ野郎!今日は俺様がテメーのミンチでソーセージを焼いてやる番だ!

  聞いているのか?この変態サイコのロリコン野郎!!』


 多分…最後の言葉が余計だったのだと思う…。


 ◇


 『ギャンッ!!』


 気が付くと馬之助の右手首の鎧に3本の筋がくっきりと刻まれていた。

 おいおい、嘘だろう?ミスリル製だぞこれ?一体幾らすると思っているんだ?


 ミスリルを軽々と切り裂いた敵の暗器。恐らくオリハルコン製なのであろう。

 中に着込んだ同材質の鎖帷子は損傷こそすれ切れては居なかった。この様子だと敵の暗器も少なからず刃こぼれしただろう。

 冷静な時のチャンなら直ぐに俺が中に着込んでいる物の強度を測り攻撃のパターンを変えてきていたのであろうが、目を吊り上げ鬼気迫る今の彼はそんな事お構いなしだった。


 『ギャンッ!!』『ギャンッ!!』『ギャンッ!!』『キュイン!!』


 最後の音は辛うじて黒刀で弾いた音だ。

 目にも止まらぬ攻撃に翻弄され棒立ちになる馬之助。

 敵は左右のフェイントを徐々に減らし直線的な動きに収束する。


 「ここだっ!」


 馬之助はバックラーを外すとそれを敵に投げつける。

 勿論敵は何なく避けるが、開店するバックラーから紐のついたナイフたちが飛び出してチャンの動きを一瞬阻害する。


 『スピン・ザ・トップ!』


 その一瞬と突いて馬之助は光りながら高速回転すると竜巻の如くチャンに襲い掛かる。

 

 『その技なら知っているぞー!』


 チャンは大きく飛翔すると頭上から襲い掛かる。此処だ!


 俺は一瞬で前回の試合で大きく拉げた大楯を出すと同時にこれまた前回回収した手りゅう弾2発を盾の前に放つ。


  『ずごぉーーん』


 爆風で武台に押し付けられた馬之助が立ち上がった時は丁度高く空中に舞っていたチャン選手が武台に叩きつけられたのと同タイミングだった。


 倒れたままのチャン選手との距離を一瞬で詰めると馬之助は彼を黒刀で滅多切りにする。


  『カン!カン!カン!カン!カン! 勝者”運転手”!!カン!カン!カン!』


 こうして馬之助は裏武闘会の覇者となった。


 ◇


(つづく)

残業と体調不良で1週間ほど書けない日が続きました。

或る程度書いてから戻って修正する事が多いので、書き貯めていたストックが底を着き戦々恐々としています。


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