第33話 裏の頂点を目指して
目を通して頂き有難うございます。
裏武闘会は隣町カンサイで日本時間の深夜に有った。
昼夜の街をお昼前に出て、深夜の街カンサイへ入る。
会場は郊外の古代遺跡を借り切って行われていた。
この大陸の半分の南半分の街から怪しげな男達が集まり遺跡に繋がる郊外への街道は怪しげなローブを被った男達に封鎖され試合は部外者を一切遮断して行われた。
実はここへ来る前にカオスGMに報告を兼ねて相談し、勝つために黒い忍者ソード、彼のもう一刀の愛刀を拝借して来た。
なのでダンドミサイルを返そうとすると緊急時用に未だ持っていて良いと言う。それではカオス氏の獲物が無くなって狩りが出来なくなってしまうのでは?と尋ねると、彼はニカッと笑ってこっそりと教えてくれた。
「実はな、此処だけの話だが新しい武器がやっと完成したんだ。」
「完成?買われたのでは無いのですね?」
「バトゥ君、君もこれから上を目指すなら覚えておくと良い、誰かの御下がりではそれ以上は目指せない、市販の武器では猶更だ。大会で優勝してレアアイテムをゲットしたり、レアモンスターからのドロップを狙ったりするのも素材として。其処から強化改造を繰り返してオリジナルの装備を揃えて行く、これが大変なんだ。」
大変だろうな...特に金銭的にも。
「分かりました!でも俺は生活が苦しくて...言い訳かも知れませんが次の仕事が決まったらログイン時間が減ると思います。」
そう言うとカオス氏は「それは人それぞれ、無理をする事は無い」と言ってくれた。
それから、更にカオス氏は必勝の策として鎧の内側に着こむ鎖帷子を貸してくれた。これは普段GMが使っている奴で、これのお陰で何度も命拾いしたと言っていたので相当貴重な物を貸して貰ったと認識している。装備の名称は”オリハルコンの鎖帷子”
そんなチート装備を持参した馬之助が負ける訳も無く、3日掛けて行われた予選会は
馬之助の優勝で幕を閉じた。幸い同じ地方の人間はトーナメントのブロックがばらけたので支部メンバーと当たる事も無かった。
決勝の相手はヒャッハーな感じの人だった.世紀末的メイクに肌は脆出し獲物はちょっと曲がった短刀という如何やって勝ち上がって来たのか全く持って不思議な奴だった。
しかしそれは試合開始と同時に判明した。
まず敵は口に含んだ針を馬之助の目に向けて飛ばして来た。
実はカオス氏からのアドバイスで目を狙われる事を想定してミスリルフルフェイスヘルムの内側には1枚透明な素材を上から降りてきている。現実なら曇って仕方が無い所だろうが其処までリアルにはなっていないらしく、これのお陰で目をやられる事は無かった。
だが透明板に当たってフルフェイスの中へ落ちて来た張りが顎のあたりでチクチクする。
というのは馬之助の挙動がおかしいのである。調べて見ると顎のあたりに妙なダメージがあって、どうもこの感じは針自体の物では無く何か塗ってある様なのだ。気を取られて動きが止まったのを毒が利いたと勘違いしたのか敵は速攻をしかけ鎧の隙間に短刀を突き刺してくる。短刀にもタップリ毒が塗られていたのだろう、哄笑しながら短刀を繰り出す敵の目には勝利の確信が見られた。勿論中に着こんでいるオリハルコンの鎖帷子のお陰で無傷だったが、もしそれが無ければ恐らく身動きできないまま泡を吹いて終わりだったのだと思う。ゆっくり近づいて来た敵を忍者ソード一閃で真二つに切断したが闘技場の機能で直ぐに傷はふさがり敵はぶっ倒れた。しかし全くカオスさんに勝たして貰ったような物であった。
◇
『という訳でお陰で勝利させて頂きました。』
カオスGMにそう報告すると殊の外喜んでくれた。裏武闘会の本戦は1週間後なのでランドミサイル以外の貴重な借用品を一旦返し礼を言った。
『で、もしそのアニヒレイターという敵ボスに会う事が出来たらどうする積りなんだい?』
『実は俺このゲームを媒体としたウイルスに掛かった事がありまして、それをレディーJに指摘されたんですが彼女がそのウイルスを解析して今度は俺を媒体に感染させることが出来る様にしてくれたんです。』
実はJ、天才プログラマーらしい。その天才が丸1日部屋から出てこないかと思えばとんでもないプログラムを引き下げて俺の部屋にやってきたという訳だった。
Jの作戦はこうだ。
俺がアニヒレイターと握手する。何とか握手すればそれをキーに相手のPCにプログラムを送り込めるらしい。そして位置情報に繋がるあらゆる情報をあるサーバーに送信する。我々はその第3者のサーバーをさらにハッキングする事で敵の情報を知る。うーん、犯罪じゃ無いのか?これ。
「おー、犯罪者相手に正攻法で攻めたら国家権力だって苦労しまーす。我々マンパワー無いですから絡め手で非合法ウエルカムボンバーでーす。」
おいおい、なんだそのウエルカムボンバーって。絡め手なんて難しい日本語を使う割にはとうとう英語もまでも妙になって来てないか?
俺は作業するジャネットを黙って見ていた。
このインストールが済んでからは握手するたびに相手のPCにウイルス交じりのパッチ当てが為されることになる。そしてあるサーバーに集められた情報からその人物の居場所が可成り絞った形で特定できるらしい。
サリーの住所とか調べれるんだ...一瞬そう思ったがそんな自分を叱りつけた。知りたければ堂々と聞けばいいのである。
因みに何故情報を俺やジャネットのPCに集めないかと聞いた所、こちらとの繋がりを隠す為だそうだ。ふむふむ、色々考えている物である。
◇
『それでは行って来ます。』
『うむ、頑張って優勝してこい。』
『ヤバそうだったら逃げて来いよな?』
『バトゥ殿、武者修行頑張れ。』
『■私サリーちゃん、宜しくね!』
幹部達に見送られて俺は王都へ向かう。そこで北半分の優勝者及び準優勝者と合流し俺たちはアジア大陸の中央国サーバーへ移動する。そこの北の都で大会が行われるからだ。
アニヒレイターも来るに違いない。負けられない、その思いだけが俺に圧し掛かっていた。ここ一週間カオスさん達に付きっきりで特訓して貰い可成り上達したと自分でも思っている。だが所詮は付け焼刃、装備の力を借りる事になるのは必須だった。願わくば俺よりも装備の整った敵が現れない事を祈るばかりである。
街の出口にはアーマゲダンのマスターと従者の一人が遠方から数日前に出て来た準優勝者と共に馬車で待って居た。
マスターはローブの上に奇麗なマフラーをしていた。俺はこのチートアイテムを知って居る。これは賞罰を消すアイテムだ。但し1日8時間しか効果を発揮できない筈、案の定馬車の中に入るとマスターはマフラーを仕舞った。その途端彼の頭上には黒雲が立ち込め見ていると酔いそうになるくらい沢山の賞罰文字がうごめき始める。
俺は隣を見た。ヒャッハーな人は今日も相変わらずだった。横を見てこの絵面は辛い、彼の頭上にも殺人・強姦・拷問などの賞罰が蠢くが彼の場合は顔のメイクが世紀末で怖い。
大体最終的には表の大会を制覇する為にやっている癖にこんな反則のデパートみたいなのを選抜メンバーに選んで如何するんだろうか?
俺たちは無言のまま馬車に座る。いつの間にか眠ってしまった様だった。
起きた時にはオートモードの馬之助が馬車の中で縛られ世紀末星人に口から毒を流し込まれる寸前だった。
咄嗟に突破スキルを使い馬車外に飛び出して難を逃れた。
馬之助も馬之助である。少しは抵抗するなりすればいいのに。馬車の中では眠っていたアーマゲダン夜昼支部のマスターが世紀末星人を怒鳴り倒していた。そして世紀末星人は縛られ王都までの道のりを荷台の上で過ごすことになった。自業自得である、ざまーみろ。
(つづく)




