第30話 その名は「零化(アニヒレイター)」
目を通して頂きありがとうございます。
「終わりましたー。電源入れますね?
どうです涼しいでしょう?じゃあこの書類に確認のサインをお願いします。」
「いやあ、今までクーラーが無かったんで天国の気分ですよ。」
「はい、じゃあ帰ります。もし不具合がでたらこの名刺の電話番号にお願いします。」
事の起こりは昨日俺の部屋に来たジャネットが暑い暑いと服を脱ぎ出した事だった。
淡いピンクのYシャツを脱ぎ中から出て来たのは白い無地のタンクトップ!
そのタンクトップ姿は破壊力抜群、ブラのレースとか浮き上がってるし!
もうあれですよ。あれあれ!余りにもの眼福に目が泳ぎまくってしまいました。
しかしその楽園も短命に終わりを告げ、ジャネットが大家特権を発動しこの部屋にもクーラーを置くことになった。
それはそれで嬉しいんだけどね...これから電気代は掛かるだろうが設置費用大家持ちだったし。
小さな角炬燵テーブルをクーラーの正面に移動させるとUSBファンを稼働させクーラー+ファンのダブル攻撃を身に浴びると...涼しーい!
思わず万歳しながら仰向けに寝転ぶと、そこには昼間から仕事にも行かず俺の部屋に無断侵入を繰り返す天使で女神なジャネットが立っていた。
ジャネットのお顔が二つのお山に隠れて見えませーん。
俺は慌てて体を捻り体勢をうつ伏せへとシフトさせると首を捻って女神な不法侵入者を見上げる。
「どこから見ていた?」
「テーブルを移動する所からでーす」
「前からジャネットに言いたかった事が有る。」
「Oh、サリーさんに悪いので告白は受けつけて居ませーん。」
「俺のプライバシーを何だと思っている?」
「この契約書の末尾にプライバシーは放棄致しますとありまーす。良く読まないと駄目でーす。」
えっ?エアコン入れるから申込書書けって...。本社経由で頼んだら設置費用不要だから英文だけど問題ないって...言ったじゃん。
「世の中騙される方が悪いのでーす。」
くっっ!その言葉正直に生きている多くの日本国民への宣戦布告と取った。いいだろう、ジャパニーズサムライウオリアーが末裔の意地を得と見るがいい。
俺は仕事をさぼって家に居るジャネットに嫌味を言う。
「ジャネット!お前正社員だって言ってたじゃ無いか?仕事に行かなくてどうする?」
「わが社はランクが高いと月の内90%はSOHOでOKでーす」
「欧米かっ!」
いやいや流石外資系企業。よくそんなので成り立つものだ。
しかし実の所よく話を聞いて見るとジャネットはやはり特別らしい。
POJO氏の秘書的立場に有って社内では特別な仕事をこなす為に単身で支部へ出張中という形らしい。勅命と言うのは勿論ゲームにブラックカードボックスを導入し、マネーロンダリングに手を染める悪徳社員(役員?)の尾っぽをF.B.Iより先に掴む事である。
「あれ?そう言えば...何で日本何だ? 怪しい役員って日本人なのか?」
ジャネットは白いマネキンの様な美しいフォルムをしたその人差し指を彼女の柔らかそうな唇にそっと当て、俺に静かにするようジェスチャーで訴えた。
いいなあ指。俺その指に為りたい。生まれ変わったら美女の指とかが良い...
ちがうちがう、顔を近づけて来たジャネットの美しさに一瞬呆けてしまったが今は内緒の話を聞かなければ。
「POJOが目を付けているのはホームの人(米国人)が2名とシンガポールに1名でーす。全て支部若しくは本部の取締役級で立ち上げ時にゲーム開発へ可成り深く携わった優秀なエンジニアたちでーす。実は私が日本に戻って来たのはその内の一人が日本に来てから行方不明になったからでーす。」
「そいつの名前は?」
「個人情報だから教えられませーん。」
がくっ
「おい、俺はお前たちの依頼で動いているんだぞ?教えられないって事はないだろう?」
「むう、仕方ありませーん。材料は買って来るので朝食を作ってくれたら教えまーす。」
そう、女神の様に美しく世界有数のゲーム会社の上級社員であるジャネットは料理が出来なかった。試しに卵を割らしてみたら見事に握りつぶした挙句手を差し出すと「奇麗に拭いて?」と言いやがった。ドン引きである。しかし可愛さは無敵だ、俺は彼女の手を水道で奇麗に洗ってやった後、自分で二人分のスクランブルエッグと焼きトーストを作った。
◇
「あー、これ美味しい。ほら、バトさんもあーんして?」
「あーん」
”ガチャ、グシャッ”
「ジャネット、〇国に好きな人が居るって打ち明けてくれたのに...女の友情って儚いわ!」
「サリーさん!誤解です!」
そう、誤解である。だからサリー俺をゲシゲシ蹴るのは止めてくれない?地味に痛いんですけど。
「馬ちゃん、ジャネットは心に決めた人がいるの。だからアンタは私で満足して於きなさい!」
「ふむ、満足しているが?」
「とにかく! あーん、とか、間接的にも触ったりするのはNG!かと言って部屋覗くのもダメだからね?!」
はいはい。それより卵をサルベージして救わなくては。また出し巻き卵でも作って今度は冷凍保存しておくか?いや、長期保存するならしっかり火を通した方が良いから堅焼にしよう。
割れた卵を調理していると背中で二人がぺちゃくちゃおしゃべりしている。
何だか仲良さそうだ。二人共コミュ力旺盛だなあ。
「馬ちゃん、ニコル・ゴールドマンって人を探しているの?」
「誰それ?」
「えっ?極秘任務に従事してるって私に見え張ったの?」
「ああ、捜索ターゲットの人か?ってなんで先にサリーに話しているんだ!」
情報管理がガタガタのジャネットに俺は先行き不安になりながらジャネットの言い訳を片耳で聞く。
「サリーさんにも協力して貰う事にしましたー。サリーさんは口が堅いから信用出来まーす。」
「ねえジャネット、馬ちゃんの下の名前って〇×って言うんだよ?ほら、この婚姻届けに書いてあるでしょ?」
1mmも信用成らないんだが...
「おおーここはホジョ?保証人?」
「そう、でも成人だったら誰でも書ける場所なのよ。」
「ではジャネットが書きまーす。」
おい、止めてくれ。無職の俺が結婚とか誰も得しないから。その紙はサリーのトラウマを癒す一種の薬でしかないんだからっ!
「うわー、有難うジャネット...。...。...ぐすっ」
突如サリーが泣き出した。何か悲しい事でも思い出したのだろうか?
背中を優しく摩るジャネット。
俺は微レモン水をそっと差し出す。
「私ね...もう死んじゃえばいいって...でも怖いから出来なかったけど、もう如何でも良いって思ってた。二人共有難う、心配しないで?これ出したりしないから。大事にしまっとくね。」
◇
サリーは帰った。
ジャネットはサリーを駅まで送る為に部屋へ戻って行った。
俺はニコル・ゴールドマンなる人物の手がかりを探す為に彼のキャラクターネーム”アニヒレイター”(零化)という事だけを手掛かりに昼夜の街に潜った。
◇
「旦那!いい武器が入ったんですよ。一目見て行ってやってくださいな!」
武器屋に声を掛けられ、文無しだと断るのも悪い気がしたのでちょっとだけ覗いて行った。それはスーパーさんと同じ白金の長槍だった。よく手に入った物だ、お値段も14億ギールと半端ない。てか、スーパーさんこんな高いの使ってたの?
さて、
俺は街をぶらぶらしながら少し考える。
ブラックカードボックス・ウイルス感染・リアル強盗…POJO氏・レディーJ・アニヒレイター…馬之助にウイルスを感染させたのは誰か?Jは握手する、取引する等の合意行為をカモフラージュして違法なパッチ当てを実施するのでは?と言っていた。
一番怪しいのは馬之助の右手に刻印を打ったあの賞罰高級デパート野郎である。
そう、皆さんは覚えて居るだろうか?秘密結社アーマゲダンのマスターと呼ばれるあの男である。あの秘密結社内では本名がカモフラージュされ、ニックネームでしか表示が確認出来なかったので分からなかったが彼の本名が確認できてそれが”アニヒレーター”に繋がれがビンゴである。
次に怪しいのはRMT業者である。
あれの後に強盗に入られた、これは怪しすぎである。
しかし、どうやって裏を取れば良いのやら?別垢(別のアカウント)を作って彼らと接触したとして取引するお金を稼ぐまで時間が掛かる。そもそもこのゲーム内のパッチでウイルスかどうかってどうやったら突き止めれるんだろう?
そうこうしている内に乞食をするカバ氏と行き会った。
可哀そうに、俺が不甲斐ないばかりにNPCへと脱落し乞食を続ける元自キャラに俺はそっと話しかける。
『カバ氏、マスターに会う方法無いかな?』
『丁度明日の朝に講演会がありますので参加しますか?参加費用は手土産もしくは1,000万ギールです。』
この悪趣味な秘密結社が言う所の手土産とは攫われた無垢の犠牲者の事であり、そんな犯罪に手を染める気はさらさらないだが、どうしても闇結社マスターと接触する必要性を感じていた俺はほぼ無銭にも拘わらず寄付を申し出た。そしてカバ氏をちょっと待たせると高級防具商人の店へ行きストレージの中に大事にしまって於いたアイスタートルの堅盾2号を出す。
NPCの店主は適正取引価格より20%程低い価格を提示して来た。赤字だが大きく値崩れしないから仕方が無いと割り切り、売って2億強の現金を手に入れるとカバの元へ戻り寄付をする。
『はい、これブロンズ会員証です。』
どうやら何度も寄付をすると秘密結社内でもランクが上がるらしい。
教会のマークにカモフラージュされた青銅板をポケットにしまうと講演が始まる時間まで一旦ログオフする事にした。
(つづく)




