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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
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第27話 不審メール

目を通して頂きありがとうございます。

女神は肩を竦めると俺に向かって右手を差し出す。その滑らかでほっそりとした白い手を包み込むように優しく握ると彼女は少し顔を歪めながら言った。

『やっぱり感染してるわ。ワクチンを打つから腕を出して?』


『暫くすると許可を聞いて来るからOKを押してね。』

腕に注射を差しながらそう説明する彼女だが、俺には何の事やらさっぱり分からなった。

しかし、1分もしない内にゲーム内の右下にメールマークが点灯した。


何これ?!こんな機能が有るなんて一言も聞いて居ないんだけど?!


しかし彼女の言葉通りにメールを開居た時に出て来た英文メッセージをろくすっぽ読みもしないでOKする。


『ちょっと1時間程席を外すのでオートにするけど、エッチな事しないでね。1時間後に直接任務内容を伝えるから聞いてからNOってのも無しね。』

『勿論だ。』


『■バトゥはケットシーの生態には興味ないかしら?私は彼らの事が大好きで調べているの。外見は猫そっくりだけど彼らは妖精だから喋るし頭も良いわ。色んな毛並みがあるの、いい?この写真を見て?』


 オートモードに入ったレディーJは学者らしくケットシーについて色々教えてくれた。恐らく普段ジョーンズさんが訪ねた時もこのような話をしているのだろう。


 ケットシー達の言い伝えによると彼らの先祖は大きな玉の中に入ってこの地に舞い降りたと言う。宇宙船だろうか?彼らは宇宙陣の末裔だと言う設定なのだろうか?

 もしかして探検すれば宇宙船が手に入ったりする設定になって居たりして。いやいやそれではゲームの世界観がぶち壊しである。しかし態々このような伝承を設定するという事は若しかして...。


 紅茶を2杯、ジョーンズさんのお土産であるクッキーを3枚平らげた所で長いケットシー伝説はひと段落が付いた。そこで会話がオートからマニュアルに切り替わった。

 『因みにバトゥの住まいは2階建て?部屋は2階かしら?階段からは離れた所の部屋?』

 突然聞かれてびっくりしたが、部屋選びから俺の慎重度を測ろうとしているのかと解釈して回答する。

 本当は1Fが良かったのだが、無かったので2Fで火事の時直ぐ逃げられるように階段に一番近い部屋を借りたのだ。

 「ピンポーン」

 あっ!サリーだ!サリーが戻ってきた。フェイドアウトした方が良いと分かりつつもやはり寂しさを感じていた。男にトラウマが有ろうがゆっくり友達から始めればいいじゃないか?


 「サリー!開いてるよ!今ちょっと手が離せないから入ってきなよ!」

 玄関で女性がブーツを脱ぐような音がする。今日はパンプスでなくブーツ?ちょっと見て見たい気がした。後で見送ると言ってブーツ姿を見せて貰おう。ぐへへへへへ。


 『すまない、レディーJ。来客なので少し離籍する。』

 『サリーって誰?』


 えっ?


 「だからサリーってだ・あ・れ? 貴方の彼女さん?」 「ええええっつーー!」

 後ろから突然見知らぬ女性の声で話かけられ驚きの余り大声を上げて飛び跳ねてしまった。

 そこには画面の中で佇むレディーJそっくりだが、黒ぶち眼鏡を掛けている白い短袖ブラウスに水色のスリムタイプジーンズは履いた金髪女性が悪戯顔で立っていた。


 ◇


 奇麗だ...。見た瞬間にゲームの時と同様心を奪われた。

 肩まで掛かったストレートのゴールデンヘアーはまるでシャンプーのCMの様にこのくすんだ部屋の中でサラサラと輝きを放ち、美しい大きな瞳を覗き込むと自分が宝石を鑑賞している気分に陥る。肌は白く柔らかさと張りが共生しているかの様で、勿論触れても居ないので本当の所は分かり用もないはずなのだが、その手に触れる事が出来れば天にも昇る心地に違いないと勝手に想像する。


 そして状況としては今目の前に居る突然の侵入者にその美しさに見とれている。きっと口もポカンと開けて見っともないに違いない。

 しかし不可抗力と言わせて貰おう!その美しさは最早窓から飛び降りてって突然言われたら”ハイィ”って飛び出してしまいそうな勢いである。なぜこんな美女ががなぜオンボロアパートへ?というか何で俺んちに入っている? 未だ頭の中で整理がつかず一体今どうなっているんのか分からなかった。


 妖精が大人に成長したかのような美しい女性の唇が動いた。

 「私はジャネット。父が外交官で日本で生まれで14歳まで日本で育ったでーす。POJOとはホームのハイスクールに居た時の親友で今は又父の仕事の関係で日本に住んで居るのでーす。貴方がPOJOの言っていたバトゥさん?約束通り直接ミッションを伝えに来たでーす。」

 おいおい、日本育ちの割りには語尾滅茶苦茶じゃないか...

 ◇

 「すみません、こんな物しか無くて。」

 恐る恐る冷蔵庫に有った残り物のコーラをコップに注いでこたつ台の上に置く。サリーが買って於いて行った物だ。コースターも無しで恥ずかしい気がした。今度可愛いコースターを2つ買いに行こうと心に誓う。


 「有難う。でもお構いなく、あー、さっそくだけど本題に入るですね。」


 顔が、お顔が近くて...胸がキリキリする!嗚呼心臓が悲鳴を上げています...許して...神様俺を殺そうとしないで!!


 俺は小躍りして喜べばいい状態にも関わらず持前の小っちゃなチキンハートが高血圧に見舞われ破裂寸前となる。


 「えーっと、POJOが言ってたと思うけど今彼の会社はF.B.Iに目を付けれていまーす。きっと役員の誰かが裏切ったです。誰かがシステムを改鋳してオンラインゲームの中に仮想通貨を組み込んだのです。あっでも元々そう言う構想は有ったのでーす、POJOがオンラインと暮らしの融合ってテーマで研究してたから...」

 「ホレガブロックアードバスス?」 (訳:それがブラックカードボックス?)

 「ちがうわブラックカードボックス。β版から商用に切り替えた時に削除された筈の幻アイテムでーす。そしてそれを隠れ蓑にして巨額のお金がゲーム内でロンダリングされている疑いがありまーす!」

 ロンダリングというと犯罪に使われたお金の履歴を消し去るやつか?口は回らないが思考はフルスピードで走行中である。自分のコーラをグイっと飲み干し、焼ける喉を押して意識してしっかりと喋った。

 「F.B.Iに全面的に協力して一緒に犯人捜しをすれば良いのでは?」

 「えーっと。勿論そうしたいんだけど、私達も容疑者の一人みたいで中々情報交換に応じてくれないでーす。」


 ふむ、それは大変そうである。

 「それで俺は此れから何をすれば?」

 「気を付けて来たから大丈夫だとは思うですけどー、若しかして後を付けられて収音マイクで狙われているかもしれないのでー、少し小声で話すからもう少し近くに来て?」

 いや30cm以上近づいた心臓が飛び出てそのまま死んじゃいそうなので...

...と面と向かって言える度胸も無く31cmくらいまでぎりぎりに近づいて見る。


 「グシャ!グジャッ!!」

 心配無用、俺のチキンハートがとうとう破裂した音でも突然牙を向いた妖精が俺の頭を鉄パイプでかち割った音でもはない。

 俺は耳が良いから聴いただけで分かる、この音は卵が落ちて割れた音だな。少なくとも3つ割れた音を俺の耳は聞き取っていた。10個パック入りのを落としたのだろう、あの音では残り7個も皹が入ったりして無事ではあるまい。割れた卵は痛みやすいと言うから直ぐに卵料理を沢山作って食べなければ...。

 そんな事よりももっと心配する事があるはずなのだが、振り向いた目の前の現実から逃れたくてそんな考えに至ったのかも知れない。


 「馬ちゃん、誰......その女」


(つづく)

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