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ゼロ化世界  作者: ゴスマ
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第24話 例の紙

目を通して頂きありがとうございます。

腹ごしらえをして店を出て俺と馬之助は胸を高鳴らせながらこの大陸の冒険者ギルド本部へと向かう。



 げっ?なんだここ?1Fが広いロビーになっていてパソコンが沢山並んでいる。

 欧米だとギルドってこんな感じなの? 一瞬間違えてハローワークに足を踏み入れたかと...。席は沢山あったが半分程埋まっていた。パソコンの画面を見る人々の目は真剣そのものである。俺は恐る恐る馬之助を座らせると、目の前の画面に現れた英語に舌打ちをした。

 「しまった、会話は自動翻訳だがこの手の操作ウインドウは現地言語のままだった!」


 うーん、読めないし検索する単語のスペルも分からない。

 急に心細くなりサリーが居るファーイースト小大陸に帰りたくなった。

 しかし、意を決して1Fを見渡す限り唯一有人の受付らしきカウンターを探し当て話しかける。


 『済みません、実は英語が読めなくて。エアーズロックに行きたいんですが、お金が少ししかなくて。仕事を紹介して頂けませんでしょうか?』

 『Excuse me,Can I find new job for my trip to AirsRock ?,I can't read these machines,actually.』


 何やら馬之助の声で英文が流れてきて奇妙な感覚を受ける。

  直ぐに英文が流れてくるが何と言っているのかさっぱり聞き取れない。しかし自動翻訳窓を見るとどうやらOKらしい。

 『■中央平原支部へ紹介させて頂きます。移動の費用に2万ギール掛かりますが大丈夫ですか?無ければ年利12%で前仮可能です。』

 確か目的地も大陸中央の未開地だった気がする。

 『あっ2万ギールならギリギリ大丈夫です。』 危なかった、さっきのワニバーガー(2,000ギール)を2個食べて居たらアウトな所だった。

 『■ではこのカードを持って表のバス乗り場3番に並んで下さい。』

 バス?誤訳だろうか?

 『分かりました。有難うございました。』

 鉄っぽい材質で出来たトランプサイズの札を受け取ると外に出てバス乗り場とやらを探す。

 札が金属なので売ったり出来るのかなと碌でも無い事を考えながら一旦ストレージに仕舞うとプロパティー欄から適正価格を覗いて見た。すると”非売品”となっていた。確か非売品とはNPC・有人キャラ問わず売れないはずだった。

 道向かいにバス停の様な木の杭が立てて有りよく見ると番号が付いていた。

 馬之助は誰も並んでいない3番の杭の前に移動するとその前で待つ。


 しばらくするとオンボロだが幌付きの馬車がやってきた。幌は茶色がかっているそ、木で出来た荷台は古いががっしりした造りをしていて幌の横には大きく”BUS”と書かれていた。成程、バスと書いてあるからバスなのであろう。


 『■おや、珍しい!この中央平原行高速バスの切符は2万ギールだけど乗るかい?』

 運転手のボーイッシュなソバカス少女が目を輝かせて言った。

 『勿論乗りたいのだが次の街まではどれ位掛かる? 宿代が足らないから夜荷台に泊めて貰えると嬉しいんだが?』

 『■驚いた!あんた都会の旅行者かい?平原方面に宿何て無いよ、泊りは馬車の中だか雨露は凌げるけど魔物が出たから自分の身は自分で守る事。』

 NPCの裏で人間が入力しているのでは?と疑いたくなるような人間臭いセリフにも段々驚かなくなって来た自分が怖い。

 この少女、強そうでは無いがNPCだから魔物に襲われる事は無いのだろうか?

 『その顔は僕は如何なんだって顔だね?僕らバスの運転手と馬達は魔物が嫌がる匂い袋肌身離さず持っているから、街道沿いを走る分には問題ないさ。』

 ふむ、僕っ子か?興味ゼロだな。しかしそう言う事ならばその馬車に乗る馬之助もほぼ安全と思って差し支え無さそうである。

 『乗るよ。』

 2万ギールを払うと切符を貰うと少女は愛想よく笑ながら言った。

 『■じゃあ、3日間の長旅だけど宜しくね!』

 

 ◇

 

 翌日10時にバイトの面接に行って来週2日だけ4時間づつバイトを入れて貰えることになった。内容はイベントの交通整理である。

 アパートに帰るとモニターを付けて馬之助がどうなった確認してみる。

 なんとオートパイロット状態の馬之助が馬車の手綱を握っている。

 ログを捲って見ると昨日の野宿の後、明け方に頼みの綱の匂い袋を荷台に忘れたまま外へトイレに行った運転手の少女が毒蛇に噛まれて高熱にうなされると言ったアクシデントが有ったらしい。

 『■も...もう少しいった湖の畔に毒消し草が生えているから其処までお願い。湖の主に気づかれない様にそーと取って来て。』

 おいおい、フラグを立てすぎである。きっと湖の主とやらに見つかって戦う羽目になるのだろう。

 とは言えまだ王都から1日の距離。それ程出鱈目に強い敵が徘徊しているとは考えづらく、ストレージに仕舞ってあるランドミサイルを持ち出せば楽勝で勝てるだろうと高を括る。

 

 「ピンポーン」 ドアベルが鳴った。もうパソコンくらいしか何も取られる物が無いと気が付いて先日から部屋に居るときは鍵を掛けるのを止めた。

 「空いてるよー」 玄関に向かって入るとピンクのブラウスに白い丈長スカートを履いたサリーが買い物袋を下げて入って来たので外干ししていた薄い座布団を勧める。

 「馬ちゃん、これ冷蔵庫に入れといて。あと珈琲ゼリーが安かったから買って来た。今二人で食べよ。」

 俺たちは狭い部屋の中で向き合って座り珈琲ゼリーを食べる。

 「なかなか旨い珈琲ゼリーじゃ無いか?」

 「うふふ、そうでしょ?安かったのよ。買い物上手でしょ?」

 まるで恋人か夫婦の様な会話をする。だが俺はサリーの態度が微妙にソワソワしている事を見逃さなかった。

 よし、こちらから探りを入れてやる。

 「ああ、サリーは料理も旨いしきっと良い奥さんになるよ。」

 「...」 ほおら、固まった。

 「馬ちゃん、それ本気で言ってる?」

 「本気だよ。」

 「じゃあ、この紙にサインしてくれる?」

 出た出た、俺は初めて見る婚姻届けの用紙をしみじみ見ると「ふむ、サリーの本名は木村 沙羅というのか、初めて知った。...これ保証人なんて欄が有るんだー」と言いつつ既に準備していた消えないボールペンでサラサラと自分の情報を書き込んだ。

 「えっ?馬ちゃん何してるの? これ婚姻届けなんだよ?」

 「うむ、無職の俺と結婚してもサリーに苦労を掛けるばかりでお勧めしないが、サリーが書いて欲しいというのなら俺的には特に問題は無い。」

 勿論サリーがそれを提出するとは微塵も思っていない。破滅氏の事前情報で知って居るが彼女は過去のトラウマで病んでいて俺を試しているだけである。紙を書いてやれば安心して少しは正気に戻るだろう。


 「馬ちゃん、ありがとう。でも婚前交渉はしないからね?」

 少し涙目のサリーが笑いながら言った。

 「そんな事は頼んでいない。だが出来れば又昼飯をお願いしたい。俺も多少料理はするが、何というかサリーの手料理は旨かった。」

 そう褒めると嬉しそうに台所へ立つサリーの後ろ姿は何だか生き生きしていた様に感じた。サリーに料理を作って作って貰っている間、申し訳ないが俺は少しだけ馬之助を操作させて貰った。オートのままで湖の主とやらと遭遇し下手を打たれるのが怖かったからだ。何たってこいつ金持って無いから...。


そして幌にBUSと書かれた古いが頑丈そうな馬車は大きな湖の畔にやって来た。


(つづく)

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