第23話 オセアニアサーバー
目を通して頂きありがとうございます。
夜昼の街を出ると辻馬車を拾ってゲートが有るこの小大陸の首都を目指す。
万が一でも盗まれないようにランドミサイルをストレージに仕舞うと、立派な鎧の割りには素手で居る馬之助は目立つのか見知らぬ男が話しかけて来た。
『よう、俺の名前はフジタツ。アンタ剣も持たずに王都へ何しに行くんだい?俺の中古を売ってやろうか?』
『有難い申し出だが生憎金を盗まれて元手が無い。』
『えっ?辻強盗にでも有ったのか?そいつはついて無かったな。でもアンタも良くない、そんな立派な鎧を着ていて武器を持たないなんて野盗達を挑発している様な物だ。』
話題を変えたかったので此方からフジタツの事を訪ねて見た。
『俺のあだ名はバトゥだ。そういうフジタツは王都へ何をしに?』
改めてフジタツをよく観察してみると、筋肉質だがすこし小柄な体に身に着けているのは粗末なレザーの胸当てのみ。モンゴロイド系のしょうゆ顔には無精ひげを生やし腰には古い蛮刀を2本差している。要するに街道で立って居たら野盗と見間違えそうな格好である。
しかし見る限りには頭上に賞罰は付いておらず、唯の数多い底辺プレイヤーの一人の様だった。
俺は見かけによらず良く喋るフジタツの話に相槌を打って好きに喋らてやる。
彼は王都で募集している探検船に乗って一角千金を目指していた。
そんな船があると初めて知ったのだが、王都の貴族と呼ばれる金持ち達が金を出し合い大型船を建造したらしい。そして大陸から南にある諸島の探検に出ると言う。
噂ではレアなアイテムがゴロゴロ転がっている島があるそうで、確か王都の”ツルハシ”という貴族が漂流した島からお宝を持って帰り、一躍新たな派閥を作ったとゴシップTVでやっていたのを思い出す。因みに”ツルハシ”氏は海竜捕獲船で働いていて海に落ちたのだが、仲間が投げてくれた浮き輪に捕まり孤島まで流れ着いたという。そして驚くべきことにそこからいかだを作って戻ったそうだ、俺だったら海の真ん中の孤島に漂流してしまった時点で諦めてアカウントを放棄してしまいそうだが、頭の下がる思いである。
『島で獲得した物の半分は持ち帰って良いって触れ込みなんだ。俺の目標はでっかく1億ギール。鋼鉄製の装備一式と魔法剣を買いたいんだ、じつは炎の魔剣とかに憧れているんだよね。』
1億ギールか...。装備もレベルも無しに稼ぐのは並み大抵の事ではない。普通にダンジョンで食っている冒険家なら半年は毎日6時間くらいコツコツ貯めないと無理な金額だろう。しかし半年頑張れば無理でない所がリアルマネーと違う所だ。
際限なく続く「金が入ったらあれをする、これをする」と言った話に頷きながらいつしか眠気が襲って来たのでフジタツには悪いが目的地の名称をセットしてオートモードに入れた。王都の何処にゲートがあるのか知らないが、オートモードの馬之助が勝手に道行く人に聞いてたどり着くだろう。
◇
王都はTVで見た事が有ったが、王城へと続く広い大通り沿いには高い石造りの建物が並び、夜もガス灯の灯りで真っ暗になる事は無かったはずだ。今いる所は王都とは言え郊外で大通りだけは真っすぐ伸びているものの、その周りは割合粗末な建物でごったかえしている。
また、大通りも馬車と人でごった返していて、よくサーバーが落ちない物だと舌を巻いた。
人込みの中、幌もない粗末な辻馬車が冒険者風情や農民風情が詰め込んでゆっくりと進み、大通りを進むと第一の門があり石で組まれた高さ5mにもなる防護壁があった。円状で半径10kmもあるこの高い壁は王都の町民街をぐるりと囲む防護壁である。ここから先は入場パスが必要で馬之助もその列に並んでいた。
町民街に入り更に7km進むと第二の城壁と門が有り、ここから先は貴族と神職しか入れない。最後に巨大な王城の周りには直径2km、高さ10mの巨大な城壁と第3の門が有る。王族は王城の中に住んでいるが、NPCである。貴族も大半はNPCで”ツルハシ”氏の様な成り上がり貴族以外は基本オープン当初からのNPC貴族である。
町民街の一角に大きな看板が立ち、フジタツの言っていた「冒険船」の募集をやっていた。様々な人種のどれも食いっぱぐれた冒険者崩れ風の奴らが並んでいる。皆目だけはぎらぎらと燃え盛っていた。どうやら募集の叫びを聞いていると応募して契約すると鈍鉄製の基本装備を支給してくれるらしい。フジタツもあそこの仲間になるのだろう、馬之助もミッションが終わったら剣を返して応募してみても良いかもしれない。一角千金、夢のある言葉だ。
道行く身なりの良い町人姿をした夫婦に道を尋ねる。
どうやら他大陸への転送ゲートは第二大門近くにあるらしい。
この転送と言う行為は文字通りその者のデータ全てを転送する。転送先はそのエリアを管理する別のサーバー群だ。つまりサーバー間でのデータ転送機なのである。
この一見多額のギールを取られそうな機械は実は無料で利用できる。行った先は英語圏だが自動翻訳字幕窓があるので珍翻訳も想像力を駆使して頑張って理解すればなんとかコミュニケーション取れる事だろう。
わざわざレトロでたどたどしいコンピューター音声が出発を告げる。
『バキ ウマノスケ ヲ オセアニアタイリクニ テンソウシマス』
画面の中で転送魔方陣の中に立つ馬之助の姿が透明なドットで埋め尽くされ消えていく。
さあ、オセアニア大陸!どんなところなのだろうか?!
◇
『しゃらららーん。』
いきなり画面から美しい音楽が流れて来た。
同時に聞こえてくるのは滝の様な英語の雑踏。
外国だ、ここは正に外国だった。
転送ゲートから出るときょろきょろしながらその石畳が美しい街並みを歩いた。
王城の大きさは馬之助の居たファーイースト小大陸と同じくらい。城門が3重構造になっているのも同じであったが、町人街の建物は壁や屋根の色が暖色系のカラフルな色で色とりどりに塗られ、歩いて居るだけでうきうきと楽しかった。
街行く人たちは金髪碧眼のNPC達に交じって獣人、エルフ、メイジ、魔女、中世ヨーロッパ数の騎士の姿のキャラクターや何故かアメコミのヒーローそっくりな被り物をした仮装行列みたいな集団も居た。
観光客気分でオープンカフェに入ると紅茶(種類が物凄く沢山あって迷った)と普通じゃ面白く無いので、ネタメニュー的なワニバーガーなる物を注文する。
しかしそろそろ仕事をしないとお金が無い。いや現実もそうなのだが、今はゲーム内の話だ。
腰エプロン姿が魅力的なダイナマイトボディーのウエイトレスさんが大きなバーガーを持って来てくれたので冒険者ギルドの場所を聞くが、どうやら本部が直ぐ近くにあるらしい。
馬之助が上手そうにバーガーを食う姿を眺めながら、チンした冷凍ミートスパゲッティーをもごもご食べる。歯ごたえは無い、食べれるだけ感謝するのみである。しかし画面内の馬之助は本当に旨そうに食ってやがる。
このゲーム、如何でも良いところに妙なリアル感を盛り込む事に力をいれているが、こんな事ばかりしていたら開発費が嵩んでつぶれてしまうのではと何時も心配になる。
幸いな事に俺の心配を他所に(ネット情報だが)今季も日本円にして20億もの大金を掛けてサーバーを増強したり、何十人もの飛び切り優秀なエンジニアが日々しょーもないリアル感アップの為に働いているらしい。
俺の感覚では絶対採算が合わないのだが、それでも十分黒字だと言う。トッププレイヤー達の中にアラブの大金持ちでもいて大金をつぎ込んでいるとしか思えない。
まあ、誰がお金を使おうと関係なかった。誰かのお陰でこうやって無課金でも楽しく遊ばさして貰っているの感謝だ。そして今や馬之助はこのゲームの運命を握る極秘プロジェクトのエージェントである。
(つづく)




